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【連載版】呂布の武と郭嘉の知を授かった俺、信長の乱世で成り上がる  作者: あちゅ和尚


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第16話 畑を離れる者

 孫七の畑が荒らされた。


 その報せが那古野へ入ったのは、夜が明けて間もない頃だった。


 畑そのものが大きく潰されたわけではない。


 畝の端が崩され、干していた草が踏まれ、畑の脇に置いていた鍬が一本折られていた。


 だが、龍之介は報せを聞いた瞬間、それがただの悪戯ではないと感じた。


 孫七。


 昨日、火縄筒を扱う候補として名が上がった若者。


 父は腰を痛め、弟はまだ小さい。


 自分が筒の稽古で家を空ければ、畑が回らないと口にした男。


 その畑が、すぐに荒らされた。


 早すぎる。


 偶然ではない。


 信長は報せを聞くと、短く言った。


「行く」


 平手様が目を細める。


「若自らでございますか」


「孫七を呼びつけて叱れば、向こうの思う壺だ。わしが畑を見る」


「目立ちます」


「目立たせる」


 信長は立ち上がった。


「ただし、大勢は連れぬ。権六、又左、新五、龍之介。藤吉郎も来い」


 藤吉郎は入口近くで背筋を伸ばした。


「はい」


「飯は出ぬぞ」


「帰ってから考えます」


「よい返事だ」


 又左は槍を掴んだ。


「畑を荒らした者を見つければ、縛り上げます」


「まだ縛るな」


 信長は即座に言った。


「今日は、誰が何を見たかを見る」


 龍之介は頭を下げた。


「承知しました」


 だが、胸の奥は重かった。


 火縄筒を扱う者を作る。


 たったそれだけの芽に、もう手が伸びている。


 清洲かどうかはまだ断じられない。


 しかし、やり口は分かる。


 孫七一人を怖がらせるだけではない。


 周囲の百姓に見せるのだ。


 若様の筒に関われば、家が荒れる。


 畑が狙われる。


 余計なことに関わらない方がよい。


 不満は、こうして恐れと混ざる。


 孫七の村は、那古野から遠くはなかった。


 道すがら、藤吉郎はやたらと周囲を見ていた。


 畦道。


 水の流れ。


 道端の草。


 朝早くから動く百姓たち。


 誰がこちらを見るか。


 誰が見ないふりをするか。


 その全部を拾っている。


 新五が小さく言った。


「藤吉郎。見すぎるな」


「見ないふりをして見ています」


「それを見すぎと言う」


 藤吉郎は首をすくめた。


 又左は苛立っていた。


「畑を荒らすとは、戦場で槍を向けるより卑怯だ」


 権六が低く返す。


「戦場の外で人を折るのも、戦だ」


「気に食わん」


「気に食わぬから効く」


 龍之介はその言葉を聞きながら、孫七のことを考えていた。


 昨日、あの男は家の畑を気にしていた。


 それを口にできたから、信長は対策を考えられた。


 だが、その直後に畑が荒らされれば、孫七はどう思うか。


 言わなければよかった。


 筒など持たなければよかった。


 若様の役に関わらなければよかった。


 そう思うかもしれない。


 そして、それこそが敵の狙いだ。


 村へ着くと、孫七は畑の前で膝をついていた。


 顔が青い。


 父と思しき男は腰を押さえ、近くでうなだれている。


 小さな弟が、折れた鍬を抱えていた。


 周りには村人が集まっている。


 同情の目。


 不安の目。


 そして、少しの迷惑そうな目。


 信長が畑へ入ると、村人たちは一斉に頭を下げた。


「若様……」


 孫七は震える声で言った。


「申し訳ございませぬ。私のせいで」


「何が、お前のせいだ」


 信長の声は静かだった。


「筒の稽古に名が上がったから、このようなことに」


「お前が荒らしたのか」


「いえ」


「なら、お前のせいではない」


 孫七は黙った。


 言葉だけでは、救われない顔だった。


 信長は龍之介へ目を向けた。


「見ろ」


「はい」


 龍之介は畑の端へ膝をついた。


 畝の崩れ方。


 草を踏んだ足跡。


 折られた鍬。


 荒らされ方が半端だ。


 本気で畑を潰すなら、もっと深く踏み荒らす。


 だが、これは見せるための荒らし方だ。


 畑の入り口に近い場所だけが崩されている。


 道からよく見える場所だ。


 鍬も、使えなくするためというより、折れた姿を見せるために置かれている。


「畑を潰すためではありませぬ」


 龍之介は言った。


 村人の何人かが顔を上げる。


「見せるために荒らしております。道から見えるところだけです」


 又左が歯を鳴らす。


「やはり脅しか」


「はい」


 龍之介は足跡を見た。


 草鞋の跡は複数。


 二人か、三人。


 そのうち一つは、村人のものに似せようとしている。


 だが、畑の土に慣れていない。


 足の置き方が浅い。


 畝の間を歩く者なら、もっと自然に足が入る。


 藤吉郎が横から小声で言った。


「村の者ではないと思います」


「なぜ」


「畑の端にある石を踏んでいます。村の人は、そこを避けます」


 孫七の父が驚いた顔をした。


「そうです。あの石は滑るので、皆避けます」


 龍之介は藤吉郎を見た。


 よく見ている。


 ただ、ここで褒めるより先にすることがある。


「孫七殿」


「はい」


「昨夜、何か変わったことは」


 孫七は首を横に振りかけ、途中で止まった。


「昨日、知らぬ男が来ました」


「何を言いました」


「筒持ちになれば、飯は出ても家は潰れる、と。若様は新しい物好きだから、飽きれば捨てられる、と」


 村人たちがざわめいた。


 又左が前へ出ようとする。


 権六が腕で制した。


 龍之介は続けて問う。


「誰かと一緒に聞きましたか」


「隣の弥平も」


 呼ばれた男が、気まずそうに頭を下げた。


 信長がその男へ目を向ける。


「聞いたのか」


「は、はい」


「信じたか」


 弥平は震えた。


 正直に言えば罰されると思ったのだろう。


 だが、信長は待った。


 弥平は唇を噛み、やがて答えた。


「少しは」


 周囲が静まる。


 弥平は続けた。


「孫七が城へ呼ばれる日が増えれば、ここの畑は困ります。孫七の家だけではありませぬ。水の番も、畦の直しも、村で回しております。ひとり抜ければ、どこかにしわが寄ります」


 孫七はうつむいた。


 龍之介は、弥平の言葉を否定できなかった。


 敵が置いた不満だ。


 だが、根のない嘘ではない。


 だから厄介なのだ。


 信長はしばらく黙っていた。


 そして、弥平へ言った。


「よく言った」


 弥平は顔を上げた。


「罰は」


「なぜ罰する。困ることを言ったのだろう」


 信長は周囲を見た。


「筒持ちを作る。だが、その家の畑を潰すつもりはない。孫七を城へ置きっぱなしにはせぬ」


 村人たちは黙って聞いている。


 信長は続けた。


「筒の稽古の日は決める。孫七が抜ける日は、村から一人、畑の手を貸す。その代わり、孫七は筒を覚え、いざという時はこの辺りを守る」


 ざわめきが起こった。


 又左が前へ出る。


「筒だけではない。槍の者も付く。敵が来れば、筒が止め、槍が押す。村を守るための稽古でもある」


 又左の声は大きい。


 だが、この場では効いた。


 村人たちは、信長よりも又左の荒い言葉の方が分かりやすかったのかもしれない。


 藤吉郎が小声で龍之介に言った。


「又左様は、こういう時に強いですね」


「声がまっすぐだからな」


「少し大きすぎますけど」


「それも含めてだ」


 新五が横から静かに言った。


「問題は、手を貸す者をどう決めるかだ」


 信長が頷く。


「村で決めさせる。ただし、孫七の家だけに借りを背負わせるな。筒持ちが村を守るなら、村も筒持ちを支える。そういう形にする」


 平手様がいれば、言葉を整えただろう。


 今は、いない。


 だから龍之介が補った。


「若様。順を作りましょう。孫七殿が城へ出る日は、村から一人手を貸す。ただし同じ家ばかりにならぬよう、水番や畦直しと同じく、村の中で回す。代わりに、孫七殿は稽古で覚えたことを、村の者に隠さず伝える」


 弥平が問う。


「我らにも筒を触らせるのですか」


「いいえ。筒は危ういので、扱う者は限ります。ですが、音が鳴った時に馬や子供をどう下げるか、火をどう避けるか、逃げ道をどう空けるか。それは知っておくべきです」


 村人たちは顔を見合わせた。


 筒を持つ者だけの話ではない。


 村の守りの話に変わった。


 信長が、満足げに龍之介を見た。


 だが、すぐに村人へ向き直る。


「今日の畑は、わしの供回りも直す」


 又左が目を丸くした。


「若、我らもですか」


「そうだ。お前は鍬を持て」


「槍ではなく」


「今日は鍬だ」


 又左は一瞬だけ固まった。


 それから、折れた鍬を見て笑った。


「では、折れていない鍬を」


 村人の中に、小さな笑いが生まれた。


 信長が鍬を持つわけではない。


 だが、供回りに畑を直させる。


 それは、言葉より強い。


 孫七の父が地面に頭をつけた。


「ありがたきことにございます」


「礼はよい。畑を戻せ。孫七、立て」


 孫七は顔を上げた。


「はい」


「お前は筒を覚えろ。だが、畑を忘れるな」


「はい!」


 孫七の声は、昨日より強かった。


 畑の修復は、思ったより大仕事になった。


 又左は鍬を振ると、槍のように勢いが良すぎて、村人に止められた。


「そこはそんなに深く掘らんでよい!」


「そうなのか」


「畑を壊す気か!」


「直しているつもりだ!」


 又左は本気で困っていた。


 藤吉郎は畝の間を走り回り、水を運んだり、折れた鍬の代わりを探したりしている。


 新五は村人の話を静かに聞いていた。


 誰が孫七を心配しているか。


 誰が面白く思っていないか。


 誰が昨夜の男を見たか。


 強く問い詰めず、少しずつ拾う。


 龍之介は、孫七と並んで畝を直した。


 土の重さが手に残る。


 戦場の血とは違う。


 だが、こちらもまた命の匂いだった。


 孫七がぽつりと言った。


「私は、筒を持ってよいのでしょうか」


「なぜそう思うのです」


「家を困らせます。村にも迷惑をかけます」


「筒を持たなくても、戦は来ます」


 龍之介は土をならしながら言った。


「その時、鳴る筒が一つあるかどうかで、人が生きるかもしれませぬ」


「ですが」


「ただし、あなた一人が背負うものでもありません。若様は今、それを形にしようとしています」


 孫七は顔を上げた。


「形に」


「はい。筒持ちを作るなら、その家と村の手当ても要る。それを怠れば、筒は鳴る前に嫌われます」


 孫七は、少しだけ笑った。


「龍之介様は、変わったことを言われます」


「よく言われます」


「でも、少し分かります」


 孫七は、土のついた手を握った。


「筒だけ持てと言われたら怖いです。でも、家も見てもらえるなら、覚えたい」


 龍之介は頷いた。


「怖いまま覚えてください」


「怖いまま、ですか」


「怖くなくなったら、たぶん危ない」


 孫七は真剣な顔で頷いた。


 そこへ又左の声が飛んだ。


「龍之介! 畝とは難しいぞ!」


 龍之介は振り返った。


 又左の前には、妙にまっすぐすぎる畝ができていた。


 村人が苦笑している。


 藤吉郎は腹を抱えて笑っていた。


「又左様、戦場の道ではありません!」


「分かっておる!」


「分かっていたら、畑があんな槍筋みたいになりません!」


 又左は本気でむっとした。


 その場に笑いが広がった。


 村人たちの顔が、少し緩む。


 この笑いもまた、必要なのだと龍之介は思った。


 恐れを消すためではない。


 恐れを、人の間に置ける大きさへ変えるために。


 畑を直し終えた頃、新五が戻ってきた。


 顔は静かだが、目だけが少し険しい。


「若」


「何か分かったか」


「昨夜、村の外れで見慣れぬ男が二人。片方は炭売りの代わりに来た男と背格好が似ています」


「清洲か」


 又左が言いかけて、すぐ自分で口を閉じた。


 新五は短く頷くように見えたが、言葉は慎重だった。


「断じるには早うございます。ただ、男たちは北西へ抜けています」


 信長は地面に落ちた折れた鍬を見た。


「追うな」


「はい」


「代わりに、村へ残せ」


「何を」


「若が孫七を見捨てず、畑を直させたという話だ」


 新五は少しだけ目を伏せた。


「承知しました」


 龍之介は、信長を見た。


 また噂だ。


 しかし、今度は守るための噂。


 清洲が置いた不満に対し、信長は畑を直したという話を置く。


 もちろん、それだけで解決はしない。


 飯も手当ても必要だ。


 稽古の日取りも必要だ。


 村の負担をどう回すかも必要だ。


 だが、最初に必要なのは、見捨てないという形だった。


 信長は孫七へ向き直る。


「三日後、那古野へ来い。筒を見るだけでよい。撃つかどうかは与吉が決める」


「はっ」


「父の腰と畑のことは、平手に話を通す。村の者とも決める。勝手に背負うな」


「はっ!」


 孫七は深く頭を下げた。


 父も、弟も、村人も頭を下げる。


 信長は長く受けず、すぐ背を向けた。


「帰るぞ」


 又左が鍬を返しながら言う。


「槍より難しかった」


 村人が思わず笑った。


 藤吉郎が小声で言う。


「又左様、畑では新兵ですね」


「藤吉郎、お前あとで走れ」


「私は水を運んだので、もう走りました」


「さらに走れ」


 信長が歩き出す。


 龍之介も後に続いた。


 畑は完全には戻っていない。


 だが、朝よりはましになった。


 何より、村人たちの目が少し変わっていた。


 不満は消えていない。


 恐れも残っている。


 だが、信長が畑を見た。


 又左が鍬を持った。


 龍之介が土に触れた。


 藤吉郎が水を運んだ。


 それは、言葉より長く残る。


 那古野へ戻る道で、信長は龍之介へ言った。


「畑も戦だな」


「はい」


「面倒だ」


「はい」


「だが、放れば筒は鳴らぬ」


「その通りです」


 信長は少し笑った。


「兵を畑から離すとは、こういうことか」


 龍之介は答えに詰まった。


 兵農を分ける。


 現代の知識としては、簡単に言える。


 だが、実際には畑がある。


 父がいる。


 弟がいる。


 村の水番がある。


 腰の悪い者がいる。


 鍬が一本折れるだけで、家が揺れる。


「簡単ではありませぬ」


「見れば分かる」


 信長は道の先を見た。


「だが、やる価値はある」


「はい」


「ただし、一気にはやらぬ」


 龍之介は顔を上げた。


 信長は続ける。


「一気に畑から人を剥がせば、村が敵になる。少しずつだ。筒を持つ者、槍を持つ者、荷を運ぶ者。それぞれの家と飯を見ながら、戦える者を増やす」


 龍之介は深く頭を下げた。


「若様のお考え、確かに」


「お前が言わせたのだろう」


「いえ」


「そういう顔をしていた」


 信長は笑った。


 龍之介は、自分の顔にまた出ていたのかと冷や汗を覚えた。


 信長は恐ろしい。


 言葉より前の顔を拾う。


 それでも、この男がただ人を駒として見ていないことが、今日の畑で分かった。


 畑を見た。


 土を見た。


 孫七の父を見た。


 その上で、戦える者を増やそうとしている。


 危ういが、強い。


 龍之介は、そう思った。


 その夜、清洲へも話は届いた。


 孫七の畑が荒らされた。


 だが、織田三郎が自ら見に行った。


 供回りが畑を直した。


 筒持ちの家には、村の手を回すらしい。


 報せを聞いた坂井大膳は、笑わなかった。


 織田信友は不機嫌そうに言う。


「三郎が畑を見に行っただと」


「はい」


「若が百姓の畑など」


「だからこそ、効きまする」


 大膳は静かに言った。


「こちらが置いた小石を、拾われました」


「では失敗か」


「いいえ」


 大膳の目は冷たかった。


「小石を拾えば、手が汚れます。今後、似たような不満が出るたび、織田三郎は見るのか。飯を出すのか。手を回すのか。できなければ、今度は逆に恨まれます」


「なるほど」


 信友の顔に少し笑みが戻る。


 大膳は続けた。


「ただ、急がぬことです。那古野は、思ったより細かく拾う。ならば、拾いきれぬほど小さな石を増やせばよい」


 清洲の夜は静かだった。


 だが、その静けさの中で、不満という小石がまた道へ撒かれようとしていた。


 那古野では、孫七のための稽古日が決まった。


 三日に一度。


 半日だけ。


 その日は飯を出す。


 家の畑については、村の中で手を回す。


 まずは孫七一人。


 次に、もう一人。


 一気には増やさない。


 与吉は筒を整える。


 又左は槍との合わせ方を見る。


 新五は、村と城の間の不満を拾う。


 藤吉郎は、飯と水と足跡を拾う。


 龍之介は、その全体を見て、詰まりを探す。


 小さな仕組みだった。


 だが、小さいからこそ始められる。


 龍之介は夜の庭で木槍を握った。


 又左が向かいに立つ。


「今日は畑で疲れた」


「私もです」


「だが、槍は振る」


「はい」


 又左が笑った。


「畑で新兵と言われたからな。せめて槍では勝つ」


「藤吉郎の言葉を気にしていたのですか」


「気にしておらぬ」


 明らかに気にしていた。


 龍之介は笑いかけ、木槍を構えた。


 畑も戦。


 筒も戦。


 飯も戦。


 だが、やはり槍も戦だ。


 どれか一つでは足りない。


 信長の乱世は、そういう形へ向かい始めている。


 又左が踏み込む。


 龍之介は受けた。


 乾いた音が夜に響く。


 遠くの鍛冶場では、与吉がまだ火を落としていない。


 火縄筒の筒口が、赤い光を受けて鈍く光っている。


 孫七の畑の土は、まだ龍之介の爪の間に残っていた。


 その土の重さを忘れてはならない。


 兵を作るとは、人を畑から引き剥がすことではない。


 戦う者の後ろにある畑まで見ることだ。


 龍之介はそう思いながら、又左の槍を流した。


 今度は、強すぎなかった。


 又左の身体が少しだけ崩れ、しかし倒れない。


「よし」


 又左が笑う。


「今のは効いた」


 龍之介も息を吐いた。


 少しずつ。


 畑も、筒も、槍も、自分も。


 少しずつ形を整えていくしかない。


 清洲の影は、まだ消えない。


 むしろ、次はもっと細かく来るだろう。


 だが、那古野ももう、ただ受けるだけではない。


 小さな耳。


 小さな筒。


 小さな畑の手当て。


 それらが、信長の新しい戦の芽になっていく。


 龍之介は木槍を握り直した。


 夜の那古野に、もう一度、乾いた音が響いた。


第16話─了

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