俺の隣に勇者は荷が重い
宿に戻り、酒場の椅子に腰を落ち着けると、思いのほか開放感があった。
魔物に追いかけ回された後だから当然——と勇者様に言われたが、終わってから言えることだ。こっちは生きた心地がしなかった。
それでも、走り回った日の夜に飲む酒は、この世で一番旨いと思える。傭兵なんてなる奴の気が知れないと思っていたのに、不思議なものだった。
「ワーナー、他に何頼む?」
「なんでもいい。……いや、ちょっと貸せ」
目の前でメニュー表を見ては、うんともすんとも言わず悩んでいるレインに決めさせれば、夜を超える。
どうせ、いつも通りの物を選ぶのは分かっている。
それなのに、なぜ迷うのか。長い付き合いでも改善されることが無いらしい。
だから、こいつが見ているメニュー表を取り上げた。
「えぇ? 偶にはボクにも決めさせてよ」
「寝言は寝てからな」
エールのコップを置いてから、取り上げたメニュー表を開く。
男の癖して妙に女くさいところは、二年間、共に旅をして分かったこいつの悪いところと言えた。
世の中の女は、そういうところも大好物らしいのだから、人の業というのは俺が考えているよりも深い。
「俺が決めるからな。その方が早いだろ?」
何も怖くない顔で、レインは俺を睨んでくるというより訴えかける。
そんなこいつに「分かったって」と顔を背けて、「こいつの好きそうな甘い菓子と……一番人気の干し肉」と店員に向かって言った。
それだけで店員はわかってくれたらしく、「はいよ」と低い声が聞こえた。
「わかってるじゃん、ありがとう」
目の前で座る勇者が言って、嬉しそうに笑った。
「別にいつものだろ? たまには酒でも飲んだらどうだ? もう酒を飲めるだろ?」
と聞くと、「飲めはするけど、ボクにはおいしさが分からないからさ」と机に肘を置く。その姿すら様になっているのは、もう傍から見ても清々しかった。
ただ、なんで酒じゃなくて甘い菓子を食べたがるのか。
やっぱり考える量が人とは違うのだろう。
そのおかげか知らないが、よくある色仕掛けに引っかからないのは雇用されている側とすれば、まだいい。
それにしては、そういう噂すら立たないのはどこかおかしい気がする。傭兵って皆そういうのが好きなやつがなると思っていた。
店員が持ってきたレインの菓子と俺の干し肉。
目の前の菓子は思ったよりちゃんと作られていて、甘そうな果物と最近流行っている甘いフワフワが乗った上等なものだった。
それに比べて、この肉の粗末なことよ。これが一番人気のツマミか? 小さい皿に六本の肉が置かれているだけの代物を見て、ため息すら出ない。
周りと頼んでいる干し肉が違うのかもしれないと見ても、どの机にも同じような干し肉が置いてあった。
これがこの店の普通のようだ。一番人気は明らかに菓子の方がふさわしいと思う。
――こんな時間に? 大事な時間をボクに? ありがとう。
周りの男の一人が、小さく「チッ、うるせぇな」と呟いた。
俺が言いたいことを代弁してくれた男には感謝するが、俺なら言わない。教養が違う。
まぁ、そう思うのも仕方ないとはいえ、少しは慣れてもいい頃だと思う。もう二十日くらいはこの町で活動しているのだ。我慢というか諦めることを覚えるべきだと思う。
ただ、慣れる慣れないの話であれば、俺はあいつの声に未だに慣れていない。
何というか、無理して低い声を出している感が拭えないのだ。二年も一緒にいて指摘するのも気恥ずかしいから言わないが。
もう一杯と注いでもらったエールを片手に、何の味もしない干し肉を齧る。
甘い菓子を放って、ワーキャーとうるさいヤツらを相手にしているレインを見た。
あいつには可哀想なことだが、折よく届いた飯に手を伸ばしたところで、あいつを一目見ようと集まった女達が酒場に入ってきたのだ。
そんな彼女達に対応するべく囲まれに行ったあいつは、「せっかく見に来てくれたからさ」と笑えば、もう止めることなどできない。
まあ、一度止めたときがあったが、その時の彼女たちの視線には殺意が籠っていた。だから俺はもう止めることをやめているが。
それに、いつものことだが、彼女達に対して慣れた対応をしているあいつは、誰にでも愛想よくできるのだから大したものだ。
俺個人としては、会う前にその愛想の良さを知っていれば良かったのだが、流石にどうしようもない。
あぁ、本当に忘れもしない。
なんでもない普通の、それも適当に倉庫番をしていたあの日のことだ。
一緒の商会で働く親父の、『お前さん、今いいか?』という言葉を今でも覚えている。
二十年以上同じ声を聞いてきたが、あの時だけはどこか媚びるような言い方をしていたのだ。
なんで不審に思って断らなかったんだよ、あの時の俺。
ちゃんと断っておけば、今も倉庫と商会を行き来するだけの仕事を続けていたはずなのに。
――ボクなんて全然だよ。本当に、みんなのおかげさ。
周りの机で、白けた顔して飲む男たちの小気味の良い舌打ちを聞きながら、冷たいエールの肴にしよう。演奏でもしているのかと思うくらい舌打ちの数が多いし、偶に俺の口からも漏れるけど、そんなことは気にしない。
この干し肉では肴にすらならないのだ。
――そんな勇者だなんて。あぁ、ありがとう。大事にするよ。
レインの声が聞こえれば、髪の短い女性から小さな袋をもらったようで、困ったように微笑んで袋を持つ手を後ろに回した。
離れて見れば分かるが、彼女達はレインの見目麗しい顔にご執心である。だから、あいつの手など見ていない。手渡した袋の所在も気にもかけていないようだ。渡せばそれで満足したらしい。
レインは手を後ろに回した後は、何事もなかったように腕を組んで女たちの相手をしている。
ちなみにだが、後ろに回した袋は机に置いて、エールを干し肉と一緒に飲んでいた二人組の男が引ったくった。
そんな一部始終を見て、エールを飲む。
この街に来て、というよりレインと一緒に旅をして酒場で食べる時はいつものことだから俺も慣れた。もう、嫉妬とかそういう次元からは俺は旅立ったのだ。子供の頃に読んだ悟りの境地に達したと言ってもいい。
普通に考えればレインのしたことも、勝手に机に置いたからと言ってくすねる男たちも、良いことをしているわけじゃない。だけど、もう毎回のことなのにあいつを囲む人達は何で気づかないのか。
考えても無駄なことだが、暇つぶしにはちょうど良いかもしれない。
――そういえば君たち、門限は大丈夫かい? ご両親にご伴侶が心配してないかい? 大切な人が悲しむのは見てられないからさ。
噛んで噛んで噛み続けて、ようやく肉の味がしてきたようなそうじゃないような干し肉は、もうすぐ終わるレインを囲む会を見て、エールと一緒に流し込んだ。
いつもの解散の常套句は、何回聞いてもよく分からない。そもそもご伴侶ってなんだよ。夫って言えば良いものを。絵本から出てきた王子様気取りかってんだよ。
……おっと危ない。半年かけてようやく積み上げた悟りの境地が、僻みの沼に全力で戻るところだった。
二年の間で二度失敗している。三度目の失敗は明日に響く。
――ありがとうね、みんな。もらったものはちゃんと大事にするから。またね。
悟り、なぁ。
そもそもなんで、悟りとか訳の分からんものに頼るのか。どうでもいいんだよそんなことは。
王子様振りを見せられている、俺の気持ちも汲んでもらいたいね。明日もその王子様と一緒に行動するんだ。俺は王子様の隣に冴えない小間使いってか。ふざけんなこの野郎。
「いやぁ、今日もなかなかのお客さんだったね」
「お客さん? 迷惑客じゃなくてか?」
解散した後、楽しげに笑いながら歩くレインに手を上げて言葉を返す。だが、まだ酒場でたまっているやつらの視線の怖いこと。
彼女達のところに行った時はレインの顔ばっかり見ていたから、俺のことはわかりませんでしたって? いつも俺と二人一組なんだからよ。そろそろ勘弁してくれ。
もしかして、迷惑客って聞こえてた? それなら申し訳無い。聞こえるように言った訳ではないんだ。
所詮、陰口だから大目に見てくれ。
「迷惑? そんな事は無いよ。みんな、ボクを待ってくれたんだからさ。大事な、……その、大事な」
「大事な何だよ」
そんなところで悩むか?
少し抜けたところがあることも知っているし、お馬鹿だとも知っていたが、思いのほか重症らしい。
俺みたいに子どもの頃から本を読んで、知識を付けなかったツケが回ってきてるんだよ。反省しろ馬鹿王子。
「支援者か? それとも、追っかけ?」
目の前の椅子に座って、ようやく菓子に手を伸ばすレインは、俺の話に「支援者のほうかな」と言って小さな口を目一杯に頬張る。
宿の明かりに反射した眩しいほどの金髪と、小さな顔に大きな青い瞳。
調和の取れた鼻筋に、菓子の白いフワフワが付いている。頬張って膨らんだ頬と、男にしては薄い桃色の唇。
小さな一口で案の定喉を詰まらせ、水が入ったコップを手に取って流し込んだ。
……こんなやつが、モテて仕方ないとは、世も末である。
十九歳にもなって大好物の菓子で喉を詰まらせるとは、菓子が好きなのは個人の嗜好だからどうだって良いが、少しは見られている立場であることをだな。
――レイン様って、やっぱり素敵だわぁ! 何というか等身大って感じよね!
……モテる男は何だって良いらしい。
咽せたレインの口から菓子のカスが飛ぶ。それでも、しっぽりエールを傾けているこちらよりも素敵らしい。
世も末だ。俺たちにより良い未来はない。無情でなんと惨い世の中か。
一口飲もうと思っていたコップを持つ手が、途端に重くなる。
ふと気になって周りを見ると、エールを飲んでいる男たちの数人は俺のような考えに至ったようで、皆一様にコップを持つ手は微動だにしていない。
「いやぁ、焦った焦った」
「いいよな、お前は」
「なにが?」
格好悪く――いや、同性の俺から見ても結構心配になるくらい咽せても、あいつらの視線は熱い。
宿の主人に追い払われた後もまだそこにいるのだから、執念だけは立派なものだ。
俺ですら感じる視線を、こいつが分からない訳がないのだろうが、教えるだけでもため息が出てしまう。
やってらんねぇな。
「勇者様は大変人気のようだなって」
遠回しに言ったところで、レインは首を傾げて俺を見た。
まさか、皮肉ったことを分かったのか? こんなことだけは分かりやがって。
「何を言ってるんだよ、ワーナー」
レインは傾げた首を振って、やれやれといった具合に机に肘をついた。
「ボクは勇者じゃなくて傭兵だからね? 勇者って絵本の中の話だろ? 子どもじゃないんだからさ」
子どもな勇者様に言い返された。
何倍にも言い返してやりたいところだが、意図とは違う言葉には閉口せざるを得ない。
やっぱり馬鹿だ。
「あれ? ワーナー?」
と黙ったままの俺に向かって少し不安げに下から見てくるレインは「怒ってる?」と聞いた。
「怒ってない。悲しくなっただけ」
「勇者じゃないからってこと?」
「……ある意味な」
柔らかく包んでやれば、少しは気づくのか。
誰でも良いから教えてほしいが、この二年間はずっとこの調子だから、もう治らないんだろうな。
「なに? そんな目で見ないでよ」
哀れみの目は分かる様子のレインに「でも、良かったのか? もらいもの、盗られてるけど」と話を変える。
正直、レインが勇者かどうかなんて俺には関係ない。あと三年間の同行でこいつとの契約は終わりなのだ。
出張費の前金は商会に渡ったが、報酬金は全部俺の物になる契約だから我慢できる。向こう二十年は働かなくてもいい金だ。それで十分だ。
レインは「あぁ、あれね」と彼女達に囲まれた時に渡された、小さな袋のことを思い出した。机に置いた後、盗ってそそくさと出て行った二人組も合わせて思い出したようでさっきまでいた机の方を見て笑った。
「あれね、食事中にする話じゃないけどさ」
と話してもいいかと聞いてくるから、「別に腹は一杯だから話せよ」と返す。
しかめっ面をする俺に「それならいっか」とレインは額を掻いた。
周りを見れば、エールの入ったコップを持つ男たちがレインの話に聞き耳を立てている。
ありがたく思えよ。俺のおかげで聞けるんだからな。
びっくりするぞ。
「あれさ、髪の毛なんだよ」
その言葉に、ギョッと俺たちを見る男たちに、思わず口元が緩んだ。
確かに、初めて聞いたらそうなることは知ってる。
俺だってそうだったし、三日くらいは引きずった覚えもある。
「何で笑うのさ」
ふてくされた様子のレインは、また一口を頬張る。今度はちゃんと考えて食べているようで、噛み方もさっきまでの必死さはない。
だからか、すぐに飲み込むと続けた。
「本当に参るよ。風習じゃないらしいからさ、どこからの情報なの? ワーナーなら知ってるんじゃないの?」
「そんなこと知るわけ無いだろ。知ろうとも思わねぇよ」
「じゃあ、聞くしかないんだけど……聞きづらいんだよね」
そう言って残った菓子を平らげるレインの胆力には、毎度のことながら人間離れしている。
こんな甘い物好きでも、傭兵の中では上澄みの人間だ。
「でもよ、よく分かるよな。特性のおかげって言ってもさ」
「まぁね。良いことあるけど、良くないこともあるし半々かな?」
「なんで聞くんだよ。何個もあるお前と一個しかない俺とは違うだろうが」
「いや、良くないことはなかったような気がして」
やっぱりレインの『看破』――中身を見抜く特性――のおかげで、気持ち悪い体験をせずに済んだわけだ。盗った二人組のことはどうでもいい。
普通、特性は一人につき一個のはずなのに、神様は盛大に間違えたらしい。
神様には悪いが、こんな完璧超人を生み出しておいて知らん顔はないだろう。あんた本当に信用できないよ。
「俺には良くないことの方が多いけど?」
「それってワーナーの特性のこと?」
「どっちも」
「『過積載』のどこが悪くないんだよ。すっごく良い特性じゃんか」
どこかだよ。この欠陥特性のなにがいいのだ。
『過積載』は名前の通りの特性だ。荷物をどこに繋がっているかも分からない場所に保管できるだけの特性。
体重を超えた分だけ俺も重くなる代償付きで、ありがたみは薄い。使い勝手を間違えると一歩も動けなくなる。
こいつの山のような特性と並べると、惨めになってくる。
でも、こいつは俺が言った『どっちも』という言葉を聞いていないようだ。俺にとってはレインの数え切れない程の量がある特性の方が良くない。
いきなりとんでも特性で、なんでも解決できてしまうのだ。毎度のこと思うが、その特性の中に『過積載』とかそういった類いの特性は無いのだろうか。
もっとも、こいつはもう次の話題に行ったらしい。笑いかけてくる顔に、さっきまでの話の続きはない。
「お前、今日のこと――」
「大丈夫。覚えてる、ごめんなさい」
話を遮ってしょんぼりと肩を落としては、雇用主の癖して簡単に頭を下げた。
横柄さがまるでないレインの態度では、俺もこれ以上は言えない。
だが、昼間の件は蒸し返したくなかったが、一言だけ言っておく必要はあった。
「もう、今日みたいなことはやめてくれよ? 正直今も気持ち悪いんだからな」
「分かってます。ちゃんと依頼は確認して仕事をします」
前も聞いたような聞いてないような。
何でも良いけど、今日のレインは依頼にあった魔物の討伐でヘマをした。
いや、討伐はちゃんとしたけど、その数が問題で全てがそこからおかしくなった。
今日だって討伐はちゃんとできていた。ただ、もう一つの依頼をまるっと忘れていただけだ。
農地近辺の魔物の巣の調査——それが今日、ウルフ五頭の討伐から五十頭に勝手に変わった依頼の陰に消えた。
素早いウルフは五頭だけでも大変なのに、その十倍を半日で終わらせるとは。桁違いの戦闘力はまさに絵本の中の勇者染みているが、それよりこいつはもう一つの依頼をスッカリ忘れていた。
「本当に頼むぞ。俺は戦闘ができないからな」
「でも、ウルフ倒してたじゃん」
さっきまでのしょんぼり顔はどこに行った? 俺もできるって言いたいのか?
こんな特性のやつに、魔物の巣の調査なんてできるか? 俺、生きた心地しなかったんだぞ。
あと、ウルフを倒したって言うけど、アレはウルフが木の根っこに引っかかって木に激突しただけだ。俺はただ逃げまくっただけ。
「……契約は覚えてるよな?」
「……はい、すみません。覚えてます」
あくまで俺は、目の前で頭を何度も下げるレインの荷物持ちという契約なのだ。戦闘なんてしたら契約違反である。
このお馬鹿は本当に。
「今回は、いや、今回も報告はしないから」
「ありがとうございます! 助かります! ホント、『過積載』様々です!」
「話の脈絡がないんだが」
既に菓子も食べ切ったレインの皿から自分の頼んだ干し肉の皿を見る。
空になった皿を見て追加を言う気力もなく、残っていたエールを飲み切った。
「そんな一気に飲んだら頭痛くなるよ?」
大した量も残っていない。だから、そう母親面は遠慮したいのだが。こいつのこれは治まることはない。
「大丈夫。二口程度しか残ってない」
「そう?」
肘を机に置くレインは顎に手を添えた。ここから話は長くなりそうで、周りの男どもは聞き耳を立てていたさっきまでとは打って変わって『髪の毛』の話題でそそくさと帰っていく。今残っているのは俺たちの話を聞いていない若い男連中くらいか。
「でもさ、やっぱりボクに会いに来てくれたことって素敵なことだと思わない?」
「髪の毛が送られなかったらな」
特性の話も依頼のことも全部振り出しに戻った。
話の時系列すらないことも、もう分かっている。酔った俺がそういう話をするならまだ分かるが、素面だからなお質が悪い。
「まぁね。でも、ボクなんかに会いに来たんだよ?」
それでいて自己評価も低いときた。
傭兵自体が印象の良くない職業だが、レインに限っては人気は留まることがない。
こいつの依頼完遂件数は全件だ。依頼を受けさえすれば、レインは必ず完遂する。普通の傭兵であれば三割程度を見込むところだが、明らかに異常である。
そう考えれば、今日なんか絶好の依頼失敗日和だった。……すっぽかしと失敗は別の問題だから仕方ないか。
「なんかって、お前はあいつらの勇者様だろ?」
過度な謙遜は同業者にはただの皮肉に聞こえるから、適度に上げてやらないといけない。
頬を膨らませ、また萎めているレインを見ながら言うが、全然嬉しそうな顔をしない。
「違うってば。ボクはただの傭兵だって」
そうだったか。最近は勇者と呼ばれることが増えたから、そういう物かと思っていたけど、レインは嫌なのか。
難しいな。
「でも、嬉しいよね。誰かの助けになれてるのが」
「あれか? 昔の?」
「そう! 覚えてる?」
覚えてねぇよ。適当に言っただけだ。
嬉しそうな顔を見ると、訂正する気も失せる。無邪気過ぎるのだ。
「あれだろ? なんか教えてもらった言葉がなんたらかんたら。みたいな」
「そう! 『知らない誰かを助けるために、その力は与えられたのだ。』って!」
レインは目を輝かせて、まるで宝物のように、大事そうにその言葉を紡いだ。
そんな言葉だったな。俺も昔読んだ本に書いてた気もするが、安っぽい言葉だ。
ただ、こいつにとっては違うようで、嬉しそうに笑う。
そんな言葉通りに生きているのか、やっぱりこいつは。
「勇者だよ、お前は」
「えぇ? なんでそうなるの? ボクはいたって普通の傭兵だって言ってるじゃんか」
膨れっ面で否定するレインを見て、ため息が出る。
お前が普通だと他の傭兵連中はどうなるってんだ。
数え切れない特性を持って、誰もが憧れる存在で、女に囲まれて、昔に誰かに教えてもらった言葉を胸に刻んで生きているやつが、普通なわけがない。
それに比べて、『過積載』なんて使い勝手の悪い特性で、ただの荷物持ち。こいつの隣を歩いていれば、誰もが俺のことなんて見やしない。
賞与目当てで我慢しているだけの、何の取り柄もない男だ。
やっぱり、俺の隣にこの勇者は荷が重いって。




