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第一章(6)

「それじゃあ早く契約してくだ……して。」

私はあわてて言った。このままだと感情を押し殺せない気がしたのだ。

「え、ああ。ちょっと待ってな。」

聖は出て行ってすぐに帰ってきた。手に紙と万年筆を用意して。

「さてと……名前、夕霧亜璃笥で間違いないよな?」

「そこで嘘ついてどうするの?間違いないですよ?」

あ、しまった。また敬語に。でも聖はどうでもいい様子だ。

「じゃ、ちょっと俺はやることがあるから、本読んでていいぞ。宿題してもいいし。」

「わかった……!何やってるんですか!あなた馬鹿ですか!」

彼は自分の指を少し切っていた。

「いや、ちょっと?亜璃笥……!?お前こそ何してるんだよ!」

私は指から出ている血を舐めとっていく。まったく、なんてやつだと思いながら。

「何って、消毒です?ちょっと違うか。」

「ちょっとどころか全然ちげぇよ……お前もしかして知識の偏りが激しいんじゃねぇの?」

「うるさい。あ、指動かさないでって。血が床についちゃう。ん……」

駄目だ。あふれ出てきてこのままじゃ床についちゃう。絨毯にしみるのはよくない。あと、本なんかにかかったりしたらもう……仕方ない。これは、本とここの床のためなんだ。

「ん……はふはふぃ……」

「指くわえたまましゃべんな馬鹿。ていうか、これ、インクの代わりで、やらなきゃだめなんだって……な?俺、自虐趣味はないんだよ。」

そうなのか。なるほど。逃げようともがく指を舌で追いかける。

「納得したよな納得したなら離してくれ。」

納得した。納得したけど、なんだか楽しいので無視。

「おい!亜璃笥!亜璃笥さん!」

無視。ヤバい。なんだか楽しい。聖が慌ててて。

「あの、いや、マジで離してくれませんかね?あの、実は契約したくなかったですかね?それか?」

フルフルと首を横に振りつつ続行。

「いや、違うのなら早く離して。それとも俺の指は美味いのか?」

首を横に振って、望み通り離してあげる。

「はぁ……ん、血も指も特に美味しくはないけど楽しかったのでまあ続行。」

「あのなぁ……もっかい別のとこ切らなきゃならないし、手も洗わなきゃならないし……はぁ。あと、あれ絶対他の奴にやるなよ?理性とぶだろうから。」

意味がわからないけど、とりあえず他の人にはやっちゃだめらしい。

「じゃあ聖にしかやらない。」

「あー……あー……ん……」

「だめ?」

立って、手を洗っている聖に尋ねる。無論椅子に座ってるから(まあ座ってなかったとしても)私は見上げるしかない。

「あ、う。それ反則だろ……わかった。俺にしかやらないでくれ。全国の男のために。」

「そういえば、聖が血を吸わなきゃ私って、生きていけないんだよね?」

「まあ……そうなる……かな?」

「じゃあ、結婚はできないね、ていうか恋愛ができないわ。相手の人が可哀想だもん。毎日他の男の人のところ行く彼女なんて。」

「え、いや、なんかすみません。」

「だから、聖も浮気しないでね?」

あれ?浮気の使い方間違えたかも、まあいっかな。

「はい?え、あ?」

「しないでね?」

笑顔で念押しする。

「えーと……どういう意味で?」

「ん……と、なんか聖が他の人からも血を吸ってるのかなって思うとちょっとなー……って。」

「あ、そういうことか……お前、天然で人の心をもてあそぶのな……うん。わかった。了解。」

聖が了承したのを見ながら私は微笑む。初めて敬語を外した相手が聖でよかったかもしれないと思いながら。










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