第90話 予選の続き
3位決定戦。
アルベルト。
対。
リシア・フェルド。
魔法陣の前で、もう一度向かい合う。
予選でも戦った相手。
あの時は俺が勝った。
でも、今のリシアはあの時より確実に強くなっている。
「よろしくお願いします」
リシアが剣を抜く。
「こちらこそ」
俺も構えた。
観覧席にはミアとルーク。
セレナもいる。
次の決勝を控えている2人も、こっちを見ていた。
魔法陣が光る。
転送された先は、平らな石造りの闘技場。
予選の森みたいに木や斜面はない。
それでも地面があるなら十分だ。
開始の合図。
先に動いたのはリシアだった。
身体能力強化。
足元へ風を当て、一気に距離を詰めてくる。
剣を身体をずらして避ける。
すぐに二撃目。
俺は下がりながら、リシアが踏み込む場所の土を少しずらした。
足がわずかに流れる。
そこへ俺から入る。
拳。
リシアが剣の腹で受ける。
そのまま距離を取ろうとした先へ、土を少し盛った。
一瞬だけ足が止まる。
さらに一歩。
肩を押し込む。
リシアが下がった。
「やっぱり、予選より対応してますね」
「一度負けていますから」
「覚えてるんですね」
「忘れません」
すぐにまた来る。
今度は右へ踏み込むように見せて止まった。
左。
また止まる。
フェイント。
レオナードとの試合や、ミアとの準決勝でも使っていた動きだ。
次は正面。
来る。
そう思って構える。
でも、リシアは半歩手前で止まり、そこから右へ切り返した。
剣。
「っ」
切っ先が制服の前を通る。
「また変えてます?」
「使えるなら使います」
リシアはそのまま追ってくる。
レイナード流の無駄の少ない剣。
そこへ、止めや見せ、切り返しが混ざっている。
予選の時より厄介なのは間違いない。
それでも。
まだ俺の方がやりやすい。
足場を変える。
踏み込みを崩す。
進路を限定する。
リシアが右へ行けば右。
左なら左。
下がればその先。
大きく動かす必要はない。
少しで十分だ。
リシアの足が乱れる。
その分だけ剣が遅れる。
そこへ俺から入る。
拳を受けられ、蹴りも腕で止められた。
それでも離れず、剣を持つ手首を押さえる。
肩を入れ、足をかける。
リシアが風で身体を軽く浮かせて逃れた。
なら、着地点へ先に土を盛る。
「っ」
足が止まった。
追う。
拳。
今度は入る。
リシアが数歩下がった。
魔法空間はまだ反応しない。
「今のは当たりましたね」
「分かっています」
「ちょっと悔しそうですね」
「悔しいです」
顔にはあまり出ていない。
でも、剣を握る手には少し力が入った。
俺も構え直す。
予選の時と同じ。
リシアは強い。
剣も上手い。
ただ。
土魔法と近接を両方使えば、まだ俺の方が押せる。
再び剣が来る。
避ける。
踏み込みへ土を入れる。
乱れたところへ拳。
リシアが受ける。
すぐに返しの剣。
俺は外へ。
次はフェイント。
右で止まり、左から入ってくる。
でも、その踏み込みへ土をずらす。
足が止まる。
俺はさらに前へ出て、肩で押した。
一歩。
二歩。
リシアが下がる。
観覧席が少しざわついた。
このままなら勝てる。
そう思えるくらいには、流れは俺にある。
リシアが一度大きく距離を取った。
息を整える。
俺も追わずに止まる。
「予選よりかなりやりにくいです」
俺が言った。
「でも、まだアルベルトさんの方が余裕があります」
「そう見えます?」
「見えます」
そこまで分かってるのか。
リシアが剣を構え直す。
次は、さっきよりフェイントが多い。
右。
止まる。
左。
また止まる。
一歩前へ出てから、さらに横へ。
視線まで使ってくる。
剣が来ると思って身体を動かす。
でも来ない。
次。
本命。
今度は逆。
「ほんとに増えてますね」
「まだ上手くありません」
「十分嫌ですよ」
「なら、もう少し使います」
真面目な顔で言う。
そこまで素直に増やさなくてもいいと思う。
リシアがまた踏み込む。
右へ見せる。
左。
そこから正面。
剣。
避ける。
すぐに次の剣が来る。
レイナード流らしく、戻しが速い。
でも。
足場は変えられる。
踏み込む先を少し傾ける。
リシアが風で姿勢を戻す。
もう一度。
今度は土を少し盛る。
足が止まる。
俺から懐へ入った。
拳。
受けられる。
肩を入れる。
リシアが下がる。
そのまま追う。
蹴り。
腕に当たる。
さらに足元へ土。
体勢が崩れた。
そこへ拳。
今度は避けられた。
風で身体を横へ逃がす。
「危なかったです」
「避けたじゃないですか」
「危ないものは危ないです」
少し息が上がっている。
それでも剣は下げない。
次はリシアから距離を詰めてきた。
風を使った踏み込み。
剣。
避ける。
返し。
今度は近い。
身体を引く。
リシアがさらに一歩踏み込んだ。
俺も下がらない。
懐へ入る。
拳。
リシアが剣の柄で受けた。
すぐに肘を返す。
避けられる。
逆に剣。
外へ逃げる。
足元へ土。
リシアの踏み込みが止まる。
そこへまた俺が入る。
近接では、やっぱりこっちの方がやりやすい。
剣を振れる距離を潰す。
手首を押さえる。
肩で軸を崩す。
足をかける。
リシアが風で耐える。
でも、完全には戻らない。
そのまま押す。
リシアの身体が大きく傾いた。
「っ!」
何とか剣を地面へ当てて倒れるのを防ぐ。
そこから風で離れた。
一度。
距離が開く。
俺は息を整える。
リシアも。
さっきより明らかに呼吸が乱れている。
予選より対応されている。
フェイントも増えた。
風の使い方も上手くなっている。
それでも。
まだ流れは変わっていない。
リシアが正面から来る。
今度はフェイントなし。
剣。
避ける。
すぐ二撃目。
土を動かす。
足が乱れる。
拳。
受けられる。
三撃目。
風で無理やり身体を戻して剣を振るう。
俺は半歩だけ外へ。
剣が通り過ぎる。
そこへ肩を当てる。
リシアが下がる。
また前へ。
足元を少し沈める。
今度は完全に止まった。
俺の拳が腹へ入る。
「くっ……!」
リシアが大きく下がった。
観覧席から歓声が上がる。
俺は追わなかった。
リシアの剣はまだ上がっている。
目も。
まだ諦めていない。
「まだやります?」
「もちろんです」
即答。
やっぱりリシアだ。
でも。
今までと少し違う。
すぐには来ない。
自分の手を見る。
次に剣を見る。
それから。
俺を見る。
何かを決めるように、一度だけ息を吐いた。
リシアの身体へ魔力が巡る。
通常の身体能力強化。
そこまでは今までと同じ。
でも。
その魔力を見ながら、リシアは少しだけ眉を寄せた。
何かを試そうとしている。
「……リシアさん?」
声をかける。
返事はない。
ただ、剣を構える。
足元で。
小さく風が揺れた。
さっきまでとは。
少し違う。
観覧席も静かになる。
俺も構え直した。
リシアが。
一歩。
前へ出た。




