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第89話 届かない速さ

準決勝、第2試合。


ミア・ハーヴェル。


対。


リシア・フェルド。


2人が魔法陣の前に立つ。


さっきまで俺とルークが戦っていた闘技場で、今度は2人が向かい合う。


ミアはいつも通り。


余計な力が入っていない。


リシアは剣を抜き、レイナード流の構えを取った。


「リシアは近づきたいでしょうね」


俺が言う。


隣に戻ってきたルークが頷いた。


「遠くからミアと撃ち合うのは厳しいからね」


でも。


近づけば楽になる相手でもない。


予選でディーンと最後まで残った時も、ミアは近接で普通に勝っている。


「かなり厳しいわね」


セレナが腕を組む。


負けたばかりだからか、少し不機嫌そうにも見える。


それでもリシアから目は離さない。


「でも、リシアなら何かするでしょ」


開始の合図が響いた。


先に動いたのはリシアだった。


身体能力強化。


さらに足元へ風を当て、踏み込みを鋭くする。


一気に距離が縮まった。


ミアが右手を上げる。


細い雷が一直線に走る。


リシアは身体をわずかにずらして避け、そのまま前へ出た。


すぐに2本目。


今度はリシア本人じゃなく、踏み込む先を狙っている。


リシアが風で身体を横へ押し、軌道から外れた。


「細かいですね」


俺が言う。


予選で見た大きな雷とは全然違う。


威力を抑えた分だけ、速くて正確だ。


リシアがさらに一歩。


剣の間合いに入る。


その瞬間。


ミアの足元から風が吹いた。


身体が横へ滑るように動く。


リシアの剣が空を切る。


すぐに返す。


二撃目。


ミアが一歩下がる。


リシアは追う。


「近づかせてください」


リシアが言った。


ミアは首を横へ振る。


「嫌」


「即答ですか」


「近いと危ない」


「私も遠いと危ないです」


「じゃあ、お互い困る」


「そうですね」


そんな会話をしながら。


リシアは止まらない。


踏み込む。


ミアの手が下を向く。


今度の雷は正面じゃない。


石床を這うように走った。


「地面?」


リシアが跳ぶ。


そこへ。


もう1本。


空中。


リシアは剣を振りながら風を放ち、雷の軌道をずらした。


完全には外せない。


肩を浅くかすめる。


リシアが着地して、一度距離を取る。


「もう止められた」


俺が言う。


あれだけ綺麗に入ったのに。


ミアはほとんど動いていない。


「雷の使い方も増えてるわね」


セレナが言った。


細い雷。


地面を走る雷。


着地点を狙う雷。


全部。


近づかせないために使っている。


リシアが剣を構え直す。


今度はすぐに前へ出なかった。


右へ一歩。


止まる。


左へ。


また止まる。


「あれ」


俺が身を乗り出す。


レオナードが使っていた動きに似ている。


「フェイントね」


セレナも気づいた。


リシアは右へ入るように見せて止まる。


次は左。


また入らない。


ミアの視線だけが動く。


3回目。


右。


今度は本当に踏み込んだ。


ミアの雷が右へ走る。


でも。


リシアはその直前で止まった。


すぐに逆へ切り返す。


「通った」


初めて。


ミアに先に魔法を使わせた。


リシアが一気に距離を詰める。


剣。


ミアが身体を横へ。


二撃目。


今度は制服のすぐ近くを通る。


リシアは止まらない。


「さっきまでと違う」


ミアが言った。


「見て覚えました」


「早い」


「ありがとうございます」


「褒めてない」


リシアが一瞬だけ止まる。


「……セレナさんみたいですね」


観覧席でセレナの眉が動いた。


「何で私なのよ」


当然、届かない。


俺は少し笑いそうになった。


リシアが三撃目。


ミアは身体能力強化で後ろへ下がる。


リシアも風を使って追う。


「近づいたわね」


セレナが少し身を乗り出す。


でも。


ミアは慌てていない。


リシアの次の踏み込み。


その着地点へ土を少し盛る。


「っ」


足がずれる。


そこへ細い雷。


リシアが剣を返し、風を当てて軌道を外す。


さらに一歩。


ミアが今度は火を出した。


火球じゃない。


低い炎が横へ走る。


リシアの左側。


進路を塞ぐ。


右へ切り返す。


そこへ水。


石床に薄く広がる。


踏み込めば滑る。


リシアが足を止めた。


その瞬間。


雷。


「全部、繋がってる」


俺が言う。


雷を当てるために。


火で進路を限定する。


水で踏み込みを止める。


土で着地点をずらす。


風で姿勢を崩す。


ミアは得意な雷だけで戦っていない。


他の属性を。


全部。


最後の雷につなげている。


リシアが水を避ける。


そこへ雷。


剣と風で外す。


次は火。


横へ。


さらに風。


姿勢が崩れる。


それでも剣を地面へ触れさせて支え、すぐに構えへ戻った。


「やっぱり崩れないですね」


俺が言う。


レイナード流の基本。


姿勢が崩れても。


次の剣までが早い。


ミアが細い雷を3本放つ。


時間を少しずつずらしている。


1本目。


避ける。


2本目。


剣と風で外す。


3本目。


今度は避ける先。


リシアが身体を沈める。


雷が髪のすぐ上を抜けた。


そのまま前へ。


「まだ来る」


ミアが言う。


「行かないと勝てませんから」


「大変」


「誰のせいですか」


「私?」


「そうです」


ミアが少し考える。


「ごめん」


「謝るんですか?」


「嫌だった?」


「調子が狂います」


ミアはもう次の雷を作っている。


リシアは攻撃を避けながら、少しずつ距離を詰める。


剣が届く。


一閃。


ミアが避ける。


次。


腕を狙う。


外れる。


でも。


ミアの表情が少しだけ変わった。


リシアの剣が。


さっきまでより近い。


フェイントを混ぜるたび。


少しずつ。


ミアの判断を遅らせている。


右。


止まる。


正面。


入らない。


左。


本命。


剣。


ミアが避ける。


「少し慣れてきました」


リシアが言った。


「私も」


ミアが答える。


その一言。


リシアの顔が少し引きつった。


多分。


言われたくなかったと思う。


次のフェイント。


右。


左。


正面。


今度はミアが動かない。


リシアがさらに一歩。


剣の間合いへ。


そこで。


ミアが前へ出た。


「前?」


剣士の間合いに。


自分から入る。


リシアが斬る。


ミアは身体を沈めて避け、そのまま懐へ潜った。


リシアが剣を戻す。


速い。


でも。


ミアの方が先。


肩へ手を当てる。


風。


リシアの身体が横へ押される。


着地点。


土がわずかに盛り上がる。


姿勢が崩れる。


そこへ雷。


リシアが剣を前へ出し、風を重ねる。


軌道がずれる。


それでも腕を浅くかすめた。


リシアはすぐに剣を返す。


ミアが下がる。


一度距離が開いた。


リシアの呼吸が乱れてきている。


ミアは。


まだほとんど変わらない。


「差があるな……」


思わず口から出た。


リシアは強い。


今の一年生の中でも。


かなり。


それでも。


ミアは一つ上にいる。


リシアも分かっているはずだ。


このまま長引けば。


もっと厳しくなる。


剣を構える。


風が足元に集まる。


ミアを見る。


そして。


またフェイント。


右。


止まる。


左。


止まる。


正面。


それも本命じゃない。


さらに右。


「増えてる」


俺が言う。


さっきより。


一つ多い。


レオナードから見たものを。


もう。


自分なりに変え始めている。


ミアの視線がリシアを追う。


リシアが一気に踏み込む。


剣。


今度こそ本命。


その直前。


ミアの雷が1本走る。


途中で。


枝分かれした。


「え?」


正面へ1本。


左右へ2本。


避ける方向を潰す。


リシアが正面の雷を剣と風で逸らす。


右へ。


そこにも雷。


左へ切り返す。


また雷。


それでも。


リシアは止まらない。


風で無理やり前へ出る。


雷が肩をかすめる。


「まだです」


リシアが言う。


剣を振る。


ミアへ届く。


その瞬間。


ミアが半歩だけ横へずれた。


剣が外れる。


リシアはすぐ返そうとする。


でも。


ミアの手が先に肩へ触れた。


「捕まえた」


接触。


雷。


遠距離から撃つ雷とは違う。


一瞬だけ。


近距離で強く流す。


「っ――」


リシアの身体が止まった。


魔法空間が光る。


試合終了。


勝者。


ミア・ハーヴェル。


観覧席から大きな歓声が上がった。


ミアは一度だけ息を吐く。


それだけ。


やっぱり。


ほとんど消耗していない。


「強いな……」


俺が言う。


セレナは黙ってミアを見ている。


自分が戦った時より。


リシアは近づいた。


剣も届きかけた。


でも。


最後まで。


ミアの方が余裕を残していた。


少しして。


リシアが観覧席へ戻ってくる。


悔しそう。


でも。


それ以上に。


考えている顔。


俺と目が合う。


「お疲れさまです」


「ありがとうございます」


俺は少し迷ってから聞いた。


「途中の動き」


「はい?」


「フェイントですよね」


リシアが頷く。


「レオナードさんとの試合で使われたので」


「もう試したんですか」


「はい」


あっさり。


「でも、駄目でした」


「途中はかなり通ってましたよ」


「最初だけです」


リシアが剣の柄に手を置く。


「同じように使ったら、すぐに見られました」


少し悔しそう。


でも。


目はもう。


次を考えている。


「レイナード流とは、かなり違う動きですよね」


俺が言う。


「そうですね」


「混ぜるんですか?」


リシアは少し考えた。


「使えるなら」


短く答える。


「型を捨てるつもりはありません。でも、型だけで勝てないなら、足せるものは足したいです」


リシアらしい。


その時。


教師の声が響いた。


「決勝進出者」


トーナメント表の上。


2人の名前が表示される。


ミア・ハーヴェル。


ルーク・ヴァレンベルク。


ミアがそれを見る。


少し。


目が変わった。


「あと1勝」


俺が聞く。


「何がです?」


「食堂」


一瞬。


何の話か分からなかった。


「ああ……1年間無料」


「うん」


ミアがトーナメント表を見る。


決勝。


ルーク。


その名前を見ながら。


「ここまで来たから」


少し間。


「取る」


今までより。


明らかにやる気がある。


「最初からそれくらいやる気出してくださいよ」


「最初はまだ遠かった」


「そういう問題ですか?」


ミアは答えない。


もう決勝を見ている。


そして。


その下。


3位決定戦。


アルベルト。


リシア・フェルド。


俺は表示された名前を見る。


隣で。


リシアも同じものを見ていた。


予選では。


俺が勝った。


でも。


今のリシアは。


もう。


あの時と同じじゃない。


目が合う。


リシアが剣の柄に手を置いた。


「今度は」


少しだけ笑う。


「勝ちます」


俺も立ち上がった。


「俺も負けるつもりはないですよ」


次。


3位決定戦。


もう一度。


リシアと戦う。

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