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第87話 掴めない相手

準決勝。


第1試合。


アルベルト。


対。


ルーク・ヴァレンベルク。


魔法陣の前に立つ。


向かいにはルーク。


予選でも、本戦でも何度も戦いを見てきた。


夜の訓練場で、1人で魔力操作を繰り返しているところも見た。


火。


闇。


身体能力強化。


それに、異常なくらい無駄のない魔力操作。


分かっていることは増えた。


それでも。


どこまで強いのかは、まだ分からない。


「アル」


ルークが呼ぶ。


「はい?」


「そんな警戒しなくてもいいじゃん」


「無理ですよ」


「ひどいなあ」


いつもの軽い笑い方。


これから準決勝を戦う相手には見えない。


「ルークの方こそ」


俺は言った。


「まだ何か隠してるんじゃないですか?」


「またその話?」


「カイルにも言われてたじゃないですか」


「人気者は疑われて大変だね」


「答える気ないですね」


「あるように見える?」


「見えます」


ルークが少し笑う。


「じゃあ、頑張って引き出してよ」


「そうします」


「お。言うね」


そのまま。


2人で魔法陣へ入った。


視界が白く染まる。


転送された先は、いつもの石造りの闘技場。


平らな床。


障害物はない。


予選の森ほど使えるものは多くない。


でも。


地面がある。


俺にはそれで十分だ。


少し離れたところで、ルークが立っている。


力が抜けているように見える。


でも。


隙があるわけじゃない。


開始の合図。


先に動いた。


ルークの足元の土を少しずらす。


同時に前へ。


ルークが横へ動いた。


その先の地面を盛る。


進路を変えさせる。


今度は逆へ。


そこへ身体能力強化。


一気に距離を詰める。


拳。


ルークが腕で受けた。


すぐに返し。


俺の顔へ拳が来る。


身体をずらす。


次は蹴り。


下がって避けた。


その足元から。


黒い魔力が広がった。


闇属性。


影のように地面を這い、俺の足へ伸びてくる。


「これか」


予選から何度も見ている。


足元を盛り上げ、そのまま横へ跳ぶ。


黒い影がすぐ後ろを通り過ぎた。


「ちゃんと見てるね」


ルークが言う。


「そりゃ見ますよ」


「嬉しいなあ」


「そういう意味じゃないです」


地面を蹴る。


また前へ。


拳。


受けられる。


肘。


避けられる。


近い距離。


ルークも強い。


俺の手首を払う。


そのまま肩を入れてくる。


身体をずらす。


足をかける。


ルークが下がる。


距離が開いた。


「やっぱり近接も上手いですね」


俺が言う。


「アルに言われると嬉しいな」


「褒めてますけど、嬉しくはないです」


「どっち?」


「強い相手なのは困るってことです」


「なるほどね」


ルークが前へ出る。


踏み込み。


速い。


拳。


避ける。


もう一発。


今度は火。


拳の周りに小さく炎がまとわりつく。


この前見せた。


火を使った身体能力強化。


踏み込みが一段速くなる。


腕で受ける。


重い。


身体が少し流された。


ルークが追う。


その足元をずらす。


今度は入った。


踏み込みが崩れる。


俺は一気に懐へ。


拳。


ルークが受ける。


そのまま肩を押す。


足をかける。


「おっと」


ルークの身体が傾いた。


でも。


手をついてそのまま回る。


足が飛んでくる。


避ける。


また距離。


「危なかった」


ルークが立ち上がる。


「嬉しそうですね」


「そう?」


「そう見えます」


「気のせいじゃない?」


違うと思う。


予選で見ていた時。


ルークはもっと。


全部分かっているように戦っていた。


相手が何をするか。


どこへ動くか。


その前に一歩動いている。


でも。


今。


俺の足元をずらす攻撃。


少しだけ。


反応が遅れた。


「……」


「何?」


ルークが聞く。


「いや」


試してみる。


地面へ魔力を流す。


正面。


動かさない。


そのまま踏み込む。


ルークが構える。


右へ行くように身体を向ける。


でも。


左。


ルークもすぐについてくる。


そこから。


急に止まる。


ルークが一歩下がった。


その足元。


土を盛る。


「っ」


少しだけ。


ルークの体勢が崩れた。


前へ。


拳。


ルークがぎりぎりで受ける。


俺もすぐ離れる。


今のは。


読まれていなかった。


「……面白いね」


ルークが言った。


「何がです?」


「アルの動き」


「普通ですよ」


「普通かなあ」


少し。


笑い方が変わった気がした。


楽しそう。


さっきまでより。


明らかに。


「何ですか、その顔」


「いや」


ルークが構え直す。


「初めて見る戦い方って、やっぱりいいなと思って」


「そんな変です?」


「褒めてるよ」


「それならありがとうございます」


ルークが来る。


今度は速い。


拳。


避ける。


蹴り。


受ける。


闇属性の黒い影。


足元。


避ける。


次。


火。


横から。


土壁。


炎がぶつかる。


壁を崩す。


その土煙の裏へ。


右。


ルークからは見えない位置。


そのまま前へ出る。


拳。


今度こそ。


そう思った。


ルークが振り返る。


腕。


受けられた。


「っ」


今のは読まれた。


「何となく来そうだった」


ルークが言う。


「それ便利ですね」


「経験って大事だよ」


「何歳なんですか」


「同い年」


そう言いながら。


ルークの拳。


避ける。


足払い。


跳ぶ。


着地先。


黒い影。


まずい。


土を盛る。


足場を作って横へ逃げる。


影が外れる。


そのまま。


地面を沈める。


今度はルークの着地点。


でも。


ルークは途中で気づいた。


身体を捻る。


ぎりぎり。


外す。


さっきとは違う。


今度は。


見てから対応された。


「……やっぱり」


全部が分かっているわけじゃない。


ルークは。


経験が多い。


多分。


俺なんかとは比べものにならないくらい。


だから。


よくある動き。


人が選びやすい動き。


戦っている相手の視線や姿勢。


そういうものから。


次を読むのが異常に上手い。


でも。


俺の戦い方まで。


最初から知っているわけじゃない。


だったら。


まだ。


やれる。


地面へ魔力。


ルークを見る。


右へ。


土。


避ける。


その避けた先。


何もしない。


ルークが一瞬。


こちらを見る。


俺は正面から踏み込んだ。


「そっち?」


初めて。


ルークの口から。


少し驚いた声が出た。


拳。


受ける。


でも。


遅れた。


そのまま。


肩。


当たる。


ルークの身体が流れる。


追う。


蹴り。


今度は避けられる。


黒い影。


足元。


下がる。


火。


横。


避ける。


距離が開いた。


「やっと当たった」


俺が言う。


ルークが肩を動かす。


「痛いなあ」


「まだ嬉しそうですね」


「だって」


少し笑う。


「予想と違う動きされると、面白いじゃん」


俺は少し首を傾げた。


「そういうものですか?」


「そういうものだよ」


ルークの周囲で。


魔力が動く。


闇。


火。


今までより。


少し濃い。


「上げます?」


俺が構える。


「せっかく準決勝だからね」


軽い口調。


でも。


空気が変わった。


俺も地面へ魔力を流す。


攻撃が全然当たらない


どうすれば…。


今は。


考えても仕方ない。


少なくとも。


俺の戦い方を。


全部知っているわけじゃない。


それなら。


まだ。


崩せる。


「行きます」


俺が言う。


ルークが笑った。


「どうぞ」


同時に。


俺たちは前へ出た。

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