第84話 隠してる強さ
準々決勝。
第2試合。
ルーク・ヴァレンベルク。
対。
カイル・ベルナー。
ルークが魔法陣の前へ立つ。
向かいにはカイル。
1回戦ではヴィクトルを正面から押し切った。
火属性。
身体能力強化。
近づいてからが強い。
「相性的にはどうなんでしょう」
俺が言う。
「カイルは近づきたい。ルークは近づかれても困らなさそうだけど」
セレナが答える。
「むしろルークの方が嫌でしょうね」
「何で?」
ミアが聞く。
「何してくるか分からないからよ」
それは。
確かにそうだ。
魔法陣が光る。
2人が闘技場へ転送された。
カイルは最初から構えている。
ルークは。
いつも通り。
少し力が抜けて見える。
「また軽そう」
ミアが言った。
「実際軽いですよ」
俺が答える。
開始の合図。
カイルが一気に前へ出た。
速い。
身体能力強化。
さらに。
足元で炎が弾ける。
1回戦で見せた加速。
ルークが横へ動く。
拳。
避ける。
すぐに蹴り。
また避ける。
カイルは止まらない。
拳に炎。
近い。
ルークの足元から影が伸びた。
カイルが踏み込みを変える。
避ける。
「見てたんですね」
俺が言う。
1回戦。
クレアに使った影。
予選でも何度も使っていた。
カイルも。
当然見ている。
「そりゃ見るでしょ」
セレナが答える。
カイルがもう一度踏み込む。
今度は。
影が来る前に。
少し跳ぶ。
そのまま。
炎をまとった拳。
ルークが身体をずらす。
拳が頬の横を抜ける。
近い。
カイルがそのまま肩を入れる。
ルークが受ける。
押される。
数歩。
「押してる」
ミアが言う。
確かに。
今のところ。
カイルの方が前へ出ている。
ルークは。
避ける。
受ける。
下がる。
ほとんど攻撃していない。
「予選と同じですね」
俺が言う。
「見てるんでしょうね」
セレナが答える。
相手を。
何をするか。
どう動くか。
どこで力を入れるか。
ルークは。
多分。
それをずっと見ている。
カイルがまた距離を詰める。
拳。
ルークが避ける。
蹴り。
受ける。
そのまま。
カイルが掴みに来た。
ルークが手を外す。
一歩。
後ろ。
影。
カイルが避ける。
でも。
ルークはもう。
そこを見ていない。
次。
カイルが踏み込む。
その瞬間。
ルークが前へ出た。
「え?」
初めて。
自分から。
近づいた。
カイルも少し驚いた。
でも。
すぐに拳。
ルークが腕で流す。
身体能力強化。
そのまま。
懐へ。
拳。
カイルが受ける。
蹴り。
避ける。
次。
ルークの拳。
また。
近い。
「ルーク、近接も強い」
ミアが言う。
「強いですね」
俺も。
少し驚いた。
もちろん。
強いとは思っていた。
でも。
カイルと真正面から。
普通に近接でやり合える。
しかも。
ルークは。
まだ余裕があるように見える。
カイルが拳を振る。
ルークが避ける。
そのまま。
身体を回す。
肘。
カイルが腕で受ける。
次。
足払い。
カイルが跳ぶ。
その瞬間。
影。
着地先。
「っ!」
カイルの足が止まる。
一瞬。
ルークが拳を入れる。
カイルが後ろへ下がる。
「今の」
俺が言う。
近接。
影。
切り替え。
早い。
ほとんど間がない。
「上手いわね」
セレナも言う。
「魔力の切り替えが本当に速い」
夜の訓練場。
思い出す。
必要な量。
必要な場所。
必要な瞬間。
全部。
そこにつながっている。
カイルが息を吐く。
少し笑った。
「やっぱ強いな」
ルークも笑う。
「ありがとう」
「褒めてねえ」
「でも強いって言ったじゃん」
「腹立つな、お前」
「よく言われる」
カイルの炎が強くなる。
腕。
脚。
肩。
全身に近い。
1回戦の後半。
ヴィクトルを追い詰めた時と同じ。
「来る」
俺が言う。
カイルが地面を蹴った。
炎。
一気に加速。
さっきまでより。
さらに速い。
ルークが避ける。
カイルが方向を変える。
また。
炎。
追う。
拳。
ルークが受ける。
押される。
次。
蹴り。
避ける。
さらに。
拳。
「ルーク、下がってる」
ミアが言う。
確かに。
カイルが。
完全に攻めている。
炎で加速。
身体能力強化。
近接。
全部。
高い。
ルークも。
避けきれない。
拳が一発。
肩へ入る。
「っ」
ルークが下がる。
カイルが追う。
もう一発。
今度は。
ルークが受けた。
でも。
重い。
さらに下がる。
観覧席がざわつく。
「ルーク、結構押されてない?」
俺が言う。
「そう見えるわね」
セレナが答える。
でも。
少し。
変だ。
ルークの顔。
焦っていない。
むしろ。
ずっと。
カイルを見ている。
また。
カイルが加速する。
右足。
炎。
踏み込み。
拳。
ルークが避ける。
次。
左。
蹴り。
さらに。
右。
また拳。
何度も。
同じ。
いや。
少しずつ違う。
でも。
流れがある。
カイルが強く攻める時。
右足。
炎。
前。
左。
切り返し。
拳。
ルークが。
そこを見ている。
次。
カイルが踏み込む。
右足。
炎。
「今だ」
俺が呟いた。
ルークが動いた。
カイルより先。
左へ。
「え?」
カイルの拳が空を切る。
ルークはもう。
カイルの横。
黒い魔力。
影。
足。
止める。
カイルが振り返ろうとする。
その前に。
ルークの拳。
腹。
「ぐっ……!」
入る。
カイルが下がる。
でも。
まだ。
終わらない。
炎。
また前へ。
ルークが今度は。
真正面から。
受けた。
拳。
拳。
近い。
カイルが蹴る。
ルークが避ける。
そのまま。
腕を取る。
引く。
カイルが踏ん張る。
ルークが離す。
「何だ?」
カイルが一瞬。
動きを止める。
その瞬間。
闇。
視界。
一瞬だけ。
黒くなる。
「っ!」
カイルの反応が遅れる。
ルークが距離を詰める。
拳。
胸元。
カイルが身体能力強化で受ける。
耐える。
でも。
ルークの魔力が。
少し。
変わった。
「……火?」
俺が言う。
拳の周り。
小さな炎。
本当に。
小さい。
でも。
身体能力強化と。
拳。
火。
全部が。
同じ瞬間に重なった。
衝撃。
カイルの身体が後ろへ飛ぶ。
「ぐっ!」
地面。
転がる。
すぐに立とうとする。
ルークは追わない。
「まだやる?」
カイルが笑う。
「当たり前だろ」
立つ。
炎。
また。
全身。
「そっちこそ」
カイルが構える。
「まだ何か隠してんだろ」
ルークが。
少しだけ。
止まった。
「何でそう思うの?」
「ずっと余裕そうだからだよ」
ルークが笑った。
「そんなことないって」
「その顔で言うな」
カイルが来る。
最後。
炎。
全力。
ルークも。
前へ。
今度は逃げない。
カイルの拳。
ルークが身体をずらす。
最小限。
その瞬間。
足元。
影。
カイルの踏み込みが止まる。
ほんの一瞬。
でも。
全力で加速した後。
その一瞬は。
大きい。
体勢が崩れる。
ルークの拳。
胸元。
火。
闇。
身体能力強化。
必要なものだけ。
必要な瞬間。
全部。
重なる。
魔法空間が光った。
カイルの姿が消える。
試合終了。
勝者。
ルーク・ヴァレンベルク。
観覧席から歓声が上がる。
ルークが息を吐く。
少し。
肩で呼吸している。
さすがに。
全く疲れていないわけではないらしい。
でも。
やっぱり。
どこまでが本気だったのか。
分からない。
観覧席へ戻ってくる。
「お疲れさまです」
俺が言う。
「疲れた」
「本当ですか?」
「ひどくない?」
ルークが笑う。
俺は少し迷ってから。
聞いた。
「最後のあれ、属性身体能力強化ですか?」
ルークが少し笑った。
「気づいた?」
「やっぱりそうなんですか」
「火だけね。まだ大したものじゃないけど」
「それでも十分すごいですよ」
「便利だから使ってるだけだよ」
「カイルに言われてましたね」
「何を?」
「まだ何か隠してるだろって」
「ああ」
少しだけ。
間。
「どうなんです?」
ルークが俺を見る。
それから。
いつものように笑った。
「秘密」
「やっぱりあるんじゃないですか」
「さあ?」
それ以上。
答える気はないらしい。
でも。
俺は。
夜の訓練場を思い出していた。
あの時も。
今も。
ルークは。
必要なものしか。
見せていない。
教師の声が響く。
「準々決勝、第3試合」
ミア・ハーヴェル。
対。
セレナ・エルフォード。
セレナが立ち上がった。
ミアも。
向かい合う。
さっきまで。
隣で。
普通に話していた2人。
今度は。
本戦の相手。
「ミア」
セレナが呼ぶ。
「何?」
「予選みたいにはいかないから」
ミアが少し考える。
「うん」
「……それだけ?」
「勝つ」
セレナが笑った。
「こっちの台詞よ」
2人が。
魔法陣へ向かって歩いていった。




