第83話 近い距離
準々決勝。
第1試合。
ディーン・クロフォード。
対。
アルベルト。
名前が表示される。
俺は立ち上がった。
少し離れたところで、ディーンも剣を持って立つ。
さっきまで。
観覧席から見ていた相手。
今度は。
俺が戦う。
「アル」
セレナが呼ぶ。
振り返る。
「何です?」
「さっきの試合見てたでしょ」
「見てましたよ」
「なら、真正面から剣に付き合いすぎないことね」
「分かってます」
「本当に?」
「多分」
「多分じゃない」
すぐ返ってくる。
ルークが横で笑った。
「でも、アルなら近づいた方がやりやすいんじゃない?」
「剣の間合いを抜けられればですけどね」
ディーンの剣は速い。
しかも。
身体能力強化まで使う。
簡単に懐へ入れるとは思わない。
「頑張って」
ミアが言った。
「ありがとうございます」
それだけ。
俺は魔法陣へ向かった。
向かい側。
ディーンも来る。
「よろしく」
「お願いします」
「本戦で当たるとはな」
「予選の時から残ってましたからね」
「お互いE級なのにな」
ディーンが少し笑う。
「級だけ見たら、ここにいる方がおかしいかもな」
「それはディーンもですよ」
「俺は剣があるから」
剣の柄を軽く叩く。
「アルは土か」
「一応」
「一応って何だよ」
開始の合図が響いた。
先に動いたのはディーンだった。
速い。
身体能力強化。
踏み込みと同時に、一気に距離が縮まる。
剣。
横。
俺は身体を引いて避ける。
すぐ返し。
今度は足元の土を少しずらす。
ディーンの踏み込みがわずかに崩れた。
それでも剣は止まらない。
軌道だけ変えて振り抜いてくる。
「っ」
一歩下がる。
切っ先が目の前を通った。
やっぱり。
上手い。
ディーンがもう一度来る。
今度は真っ直ぐじゃない。
少し外側。
剣の間合いを保ちながら回り込む。
俺が前へ出れば斬れる位置。
下がれば追える位置。
「近づきにくいな」
思わず呟く。
「聞こえてるぞ」
「わざとです」
「嘘つけ」
剣。
避ける。
次。
剣を振り戻す瞬間。
足元の土を盛る。
ディーンが一瞬止まった。
そこへ。
俺から前へ。
懐。
拳。
ディーンが剣の柄で受ける。
そのまま距離を取ろうとする。
追う。
蹴り。
腕で受けられた。
剣を引き戻す。
俺は手首を押さえた。
「っ」
剣を振れない。
ディーンが身体ごと押してくる。
身体能力強化。
強い。
でも。
近い。
こっちの距離だ。
肩をぶつける。
軸が揺れる。
足をかける。
ディーンが踏ん張る。
すぐに手を離す。
剣が来た。
避ける。
距離が開く。
ディーンが俺を見る。
少しだけ。
表情が変わっていた。
「……お前」
「はい?」
「土魔法なしでも、相当強いだろ?」
俺は少し考える。
「土、使いましたよ」
「最初だけだろ」
「そうでした?」
「今の近接の話してんだよ」
ディーンが剣を構え直す。
「手首取って、崩して、投げに来ただろ」
「投げてないです」
「投げようとはしただろ」
「それはまあ」
「やっぱりじゃねえか」
少し笑う。
「土が厄介なやつだと思ってたけど」
一度息を吐く。
「近づかせても駄目なんだな」
「褒めてます?」
「一応な」
「ありがとうございます」
「何でそんな普通なんだよ」
俺もよく分からない。
ディーンの周囲で風が動いた。
さっきまでより強い。
「じゃあ」
剣を構える。
「もう少し本気で行く」
「今まで本気じゃなかったんですか?」
「そういう言い方すると腹立つな」
次の瞬間。
ディーンが消えたように見えた。
速い。
風。
身体能力強化。
両方。
剣が来る。
避ける。
次。
もう来る。
足元をずらす。
ディーンの身体が崩れる。
でも。
風で無理やり方向を変えた。
剣。
横。
「うわっ」
下がる。
さっきまでより。
明らかに速い。
ディーンも風属性だ。
剣だけじゃない。
踏み込み。
方向転換。
剣速。
全部に少しずつ風を混ぜている。
「これならどうだ!」
剣。
俺は土を盛る。
進路を変える。
ディーンが横へ。
そこへ。
もう一度土。
足場を崩す。
止まった。
今。
俺も前へ。
拳。
ディーンが受ける。
蹴り。
避ける。
剣。
俺は身体を沈める。
そのまま。
懐から離れない。
「近い!」
「近づいてるので!」
「分かってる!」
ディーンが風を爆ぜさせた。
至近距離。
身体が押される。
数歩下がった。
距離ができる。
ディーンにとっては。
剣を振れる距離。
すぐに来る。
今度は。
俺も下がらない。
足元へ魔力。
土を盛る。
俺自身の踏み込みを補助する。
一気に前へ。
剣の内側。
拳。
ディーンが剣の腹で受けた。
そのまま。
肩。
身体がぶつかる。
ディーンが下がる。
俺は追う。
拳。
避ける。
足を払う。
風で跳ぶ。
着地。
剣。
俺も避ける。
速い。
近い。
どちらも。
距離を取らない。
「……何か」
俺が息を吐く。
「楽しいですね」
ディーンが一瞬。
変な顔をした。
「今それ言う?」
「すみません」
「いや」
少し笑った。
「分かるけどな」
また来る。
剣。
拳。
風。
土。
近い距離で。
何度もぶつかる。
ディーンの剣は。
やっぱり強い。
俺が懐へ入ろうとすると。
剣の柄。
肘。
足。
使えるもの全部で止めてくる。
逆に。
ディーンが剣を振ろうとすれば。
俺は手首を押さえる。
肩を入れる。
足を崩す。
少しずつ。
分かってくる。
純粋な剣技なら。
ディーンの方が上。
でも。
近接戦全部なら。
俺の方が。
少し上だ。
ディーンの踏み込み。
土をずらす。
崩れる。
風で戻す。
その瞬間。
俺が入る。
拳。
腹。
「ぐっ!」
当たった。
ディーンが下がる。
でも。
まだ消えない。
剣を振る。
避ける。
次。
また前へ。
本当に。
止まらない。
「しつこいですね」
「褒めてんのか?」
「一応」
「真似すんな!」
剣。
避ける。
今度は。
俺が腕を掴んだ。
引く。
ディーンが前へ。
足をかける。
崩す。
風。
逃げようとする。
足元。
土を盛る。
踏ん張る場所を消す。
「っ!」
今度は。
崩れた。
身体が浮く。
肩を入れる。
そのまま。
地面へ。
ディーンが剣を離さない。
倒れながら。
まだ振ろうとする。
俺は横へ。
避ける。
身体能力強化。
拳。
胸元。
入る。
魔法空間が光った。
ディーンの姿が消えた。
試合終了。
一瞬。
静かになる。
そのあと。
歓声。
俺はその場に立ったまま。
息を吐いた。
「……疲れた」
でも。
ちょっと。
楽しかった。
魔法空間が白く光る。
観覧席へ戻る。
ディーンも少し離れたところにいた。
目が合う。
「負けた」
「勝ちました」
「見れば分かる」
少し悔しそうに。
でも。
笑っている。
「やっぱ近接、お前の方が上だな」
「剣はディーンの方が上ですよ」
「慰め?」
「本当です」
「ならいい」
それだけ言って。
ディーンは席へ戻った。
俺も。
自分のところへ。
「結構楽しそうだったわね」
セレナが言う。
「分かりました?」
「途中から顔に出てた」
「そんなに?」
「出てた」
ルークも笑っている。
「アル、近接好きなんだね」
「好きというか」
少し考える。
バルガスさんとの訓練。
好きだったかと言われると。
かなり怪しい。
「相手がバルガスさんじゃなければ」
「それ基準にするのやめなよ」
ルークが笑った。
教師の声が響く。
「準々決勝、第2試合」
ルーク・ヴァレンベルク。
対。
カイル・ベルナー。
ルークが立ち上がる。
「じゃ、次僕ね」
「頑張ってください」
「ありがとう」
軽く手を振る。
その向こう。
カイルも立っている。
火を近接に使う。
身体能力強化も高い。
1回戦で。
ヴィクトルを真正面から倒した相手。
ルークは。
どう戦うんだろう。
俺は席に座って。
闘技場を見た。




