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第82話 正統派

第7試合。


リシア・フェルド。


対。


オスカー・リード。


2人が闘技場へ転送される。


オスカーは第3グループ3位。


水属性。


予選では、相手の攻撃を受けながら反撃するような戦い方をしていたらしい。


「オスカーってどんな感じでした?」


俺はルークに聞いた。


「守りは固いよ。でもノアとはちょっと違うかな」


「違う?」


「ノアは逃げながら崩れない感じ。オスカーは受けてから返す方が得意」


なるほど。


同じ水属性でも。


やっぱり戦い方は違うらしい。


リシアが剣を抜く。


構えた瞬間。


セレナが少し目を細めた。


「レイナード流ね」


「知ってるんですか?」


「有名よ。王国ではかなり正統派の剣術だから」


俺はもう一度リシアを見る。


剣は身体の中心からほとんどずれていない。


姿勢も綺麗だ。


「派手な技で押す流派じゃないわ。間合い、踏み込み、受け、切り返し。そういう基本を徹底的に詰めるの」


言われてみれば。


予選で戦った時も。


変わった剣の振り方をされた記憶はない。


ただ。


速かった。


正確だった。


次の剣が来るまでが短かった。


「リシアさんらしいですね」


俺が言う。


セレナが頷く。


「型が崩れにくいのよ。受けても、避けても、次の一手にすぐ繋がる」


開始の合図。


先に動いたのはリシアだった。


足元に風。


踏み込みが一気に鋭くなる。


でも。


剣筋そのものは真っ直ぐだった。


一閃。


オスカーが水壁を作る。


剣が当たる。


水が弾ける。


リシアは止まらない。


すぐに剣を戻し。


もう一度踏み込む。


2撃目。


オスカーが腕に水をまとわせて受けた。


そのまま押し返す。


リシアが一歩下がる。


そこへ水弾。


身体をずらして避ける。


「やっぱり上手いですね」


俺が言う。


予選で実際に戦ったから。


前より分かる。


踏み込んで。


斬って。


戻す。


次へ移る。


一つ一つの動きが小さい。


余計なものがない。


オスカーが水を広げた。


正面だけじゃない。


リシアの左右にも。


近づいてくれば、そのまま押し返すつもりらしい。


リシアが一度止まる。


オスカーがすぐに水弾を撃つ。


右。


左。


中央。


リシアは身体を大きく動かさない。


剣で1つ流す。


次を避ける。


もう1つ。


風で少しだけ身体を横へ動かす。


そして。


また前へ。


「正面から行くんですね」


俺が言う。


「レイナード流は基本的に相手の正面を外しすぎないからね」


セレナが答えた。


「逃げて崩すんじゃなくて、相手の攻撃を見て、その中を通る感じ」


確かに。


リシアはオスカーの攻撃を大きく迂回しない。


最短に近いところを進んでいる。


水壁。


剣。


弾ける。


水弾。


避ける。


さらに一歩。


オスカーが下がった。


「近づかせるな!」


今度は大量の水。


正面から押し返す。


リシアの足元で風が強くなった。


水がぶつかる。


身体が少し後ろへ流れる。


それでも。


姿勢は崩れない。


剣を身体の前に置いたまま。


一歩。


さらに一歩。


「押してる」


ミアが言った。


「風で踏ん張ってるんですかね」


「それもあると思う」


セレナがリシアを見る。


「でも、元々軸が強いのよ。姿勢が崩れないから、その上に風を乗せられる」


リシアが水流の外へ抜ける。


オスカーがすぐに水壁を作る。


リシアが剣を振る。


壊れない。


今度は少し厚い。


オスカーが壁の向こうから水弾を撃った。


見えにくい。


リシアが身体を横へ。


ぎりぎりで避ける。


次。


また水弾。


避ける。


そのまま剣を構える。


「無理に壊さないんですね」


俺が言う。


リシアは水壁を見ている。


右。


少し動く。


オスカーも壁を動かす。


左。


また合わせてくる。


リシアが止まった。


一瞬。


風。


正面。


「結局正面?」


俺が言った。


でも。


さっきより速い。


リシアが水壁へ入る直前。


剣。


一度。


水壁が大きく揺れる。


すぐに。


もう一度。


同じ場所。


2撃目。


水壁が割れた。


「そこを狙ったのか」


ルークが言う。


オスカーの顔が見える。


驚いている。


その間にも。


リシアはもう前へ出ていた。


剣。


オスカーが腕で受ける。


水。


刃を横へ流す。


でも。


リシアは逆らわない。


剣を流された方向へ身体ごと回す。


そのまま。


切り返す。


「っ!」


オスカーが下がる。


すぐに水。


近距離。


リシアが風で半歩だけ横へ。


避ける。


また剣。


今度はオスカーが完全に受ける。


押し合う。


水と剣。


身体能力強化。


どちらも使っている。


「オスカーも強いですね」


俺が言う。


「本戦に残ってるからね」


ルークが答える。


でも。


少しずつ。


リシアの方が前へ出ている。


オスカーが受ける。


押し返す。


リシアがまた入る。


同じように見える。


でも。


毎回。


少しずつ。


オスカーの位置が下がっていく。


闘技場の端。


あと少し。


オスカーも気づいた。


水を大きく広げる。


リシアの足元。


一気に滑らせる。


「っ」


初めて。


リシアの体勢が大きく崩れた。


オスカーが前へ出る。


水をまとった拳。


リシアへ。


俺も少し身を乗り出した。


でも。


リシアは倒れない。


風。


足元。


身体を横へ。


崩れたまま。


攻撃を外す。


その姿勢から。


剣を振った。


「そこから?」


オスカーも驚いた。


剣が腕に当たる。


魔法空間はまだ反応しない。


オスカーが下がる。


リシアも一度距離を取った。


息を整える。


オスカーも同じ。


少し静かになる。


「今の、かなり危なかったですね」


俺が言う。


「そうね」


セレナも頷く。


「でも崩れた時に無理やり元の姿勢へ戻そうとしなかった」


「どういうことです?」


「そのまま使ったのよ」


セレナが言う。


「基本がしっかりしてる人ほど、崩れた時もどこに戻ればいいか分かるから」


なるほど。


リシアがまた構える。


姿勢。


剣。


さっきと。


ほとんど同じ。


何度崩されても。


戻る。


そこが強いのかもしれない。


オスカーが先に動いた。


水弾。


リシアが避ける。


水壁。


今度は横にも広い。


近づかせないため。


さらに。


足元に水。


かなり守りを固めている。


リシアが見る。


正面。


右。


左。


少し間。


そして。


やっぱり前へ出た。


「また正面かよ」


どこかの観覧席から声が聞こえる。


俺もちょっと思った。


でも。


リシアの足元。


風。


今までより。


強い。


踏み込む。


水弾。


剣で流す。


足元の水。


風で踏み抜く。


水壁。


剣。


1撃。


2撃。


割れる。


オスカーが水を放つ。


リシアが剣で受け流す。


そのまま前へ。


また水。


横へ少しだけ。


それ以上は逃げない。


オスカーの前。


剣。


受けられる。


切り返し。


また受ける。


次。


踏み込み。


オスカーが下がる。


そこへ。


リシアの剣が走った。


真っ直ぐ。


余計な動きはない。


魔法空間が光った。


オスカーの姿が消える。


勝者。


リシア・フェルド。


観覧席から歓声が上がる。


リシアは少し息を吐いて。


剣を収めた。


「強いですね」


俺が言う。


予選でも分かっていた。


でも。


こうして外から見ると。


また違う。


派手な魔法はない。


変わった技も。


ほとんどない。


それでも。


崩れない。


迷わない。


必要なところで。


一番普通のことを。


一番正確にやる。


それが。


リシアの強さなんだと思う。


「レイナード流か」


俺が呟く。


覚えておこう。


魔法空間から戻ってきたリシアと目が合う。


「お疲れさまです」


俺が言う。


「ありがとうございます」


「流派があるんですね」


「はい?」


少し意外そうな顔。


「レイナード流。セレナに聞きました」


「ああ」


リシアが少しだけ笑った。


「幼い頃から習っています」


「やっぱり」


「何がです?」


「いや。すごく真面目な剣だなって」


リシアが一瞬止まった。


「……それは褒めていますか?」


「もちろん」


「なら、ありがとうございます」


少し納得していない気もする。


でも。


それ以上は何も言わなかった。


教師の声が響く。


「第8試合、準備」


レオナード・ハルヴェイン。


対。


アデル・ローレン。


最後の1回戦。


レオが立ち上がる。


アデルも。


2人が闘技場へ向かう。


アデルは土属性。


予選では。


土壁を中心に守る戦い方をしていたらしい。


「アルと同じ」


ミアが言う。


「属性だけですよ」


「使い方は全然違うわね」


セレナが言った。


「アデルは正面から止めるタイプ。アルは……」


一度こっちを見る。


「何です?」


「面倒なタイプ」


「説明になってませんよ」


「十分でしょ」


試合が始まった。


先に動いたのはレオ。


風。


身体能力強化。


剣。


一気に距離を詰める。


アデルが土壁。


剣がぶつかる。


止まった。


さらに。


2枚目。


横。


レオの進路を塞ぐ。


レオが距離を取る。


以前なら。


ここで。


土属性だとか。


級だとか。


何か言っていたかもしれない。


でも。


今は何も言わない。


アデルの壁を見る。


少し考える。


そして。


また走った。


正面。


アデルが壁を作る。


レオは直前で横へ。


そこにも壁。


さらに横。


また壁。


少しずつ。


動ける場所が減る。


「似てる」


ミアが言った。


「何がです?」


「セレナ」


「あ」


確かに。


相手本人じゃなく。


行く場所を潰している。


セレナが少しだけ顔をしかめた。


「私はもっと上手くやったわよ」


「そこ張り合うんですか」


「当たり前でしょ」


レオも気づいた。


このまま。


地上で避け続ければ。


壁が増える。


一度止まる。


剣を構える。


風が集まる。


次。


正面。


アデルが壁。


レオは。


その直前。


上へ跳んだ。


風。


高い。


アデルが見上げる。


レオは土壁の上に足を置いた。


一瞬。


踏み込む。


そのまま。


風で加速。


アデルの背後へ。


「っ!」


振り返る。


土。


間に合わない。


剣。


魔法空間が光った。


アデルの姿が消える。


勝者。


レオナード・ハルヴェイン。


「壁を使った」


俺が言う。


止めるために作られた壁を。


逆に。


足場にした。


少し前のレオなら。


やっただろうか。


分からない。


でも。


俺には。


以前より。


相手をちゃんと見て戦っているように見えた。


レオが戻ってくる。


こちらを見る。


一瞬。


目が合った。


軽く。


顎を引く。


俺も同じように返した。


それだけ。


言葉はない。


でも。


以前とは。


少し違う。


これで。


本戦1回戦。


全8試合が終わった。


トーナメント表が更新される。


準々決勝。


第1試合。


ディーン・クロフォード。


対。


アルベルト。


第2試合。


ルーク・ヴァレンベルク。


対。


カイル・ベルナー。


第3試合。


ミア・ハーヴェル。


対。


セレナ・エルフォード。


第4試合。


リシア・フェルド。


対。


レオナード・ハルヴェイン。


残ったのは8人。


俺は一番上を見る。


ディーン。


さっき。


水魔法を正面から突破して。


剣一本で勝った相手。


次は。


俺の番だ。


少し。


楽しみだった。

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