第81話 逃がさない
フィアナの表情から、余裕が消えた。
セレナは火を直接当てようとしていない。
右へ逃げれば右。
左へ動けば左。
フィアナの周りに炎を置いて、少しずつ動ける場所を狭くしている。
「ほんとに逃げ道から潰してる」
俺が言う。
「言ったでしょ」
ルークが笑う。
「始まる前から考えてたよ」
フィアナも黙って見ているわけじゃない。
風を強くして、炎を外へ流そうとする。
火が揺れる。
一部が薄くなる。
そこを狙って、一気に抜けた。
「行けた」
ミアが言う。
でも。
セレナは追わない。
フィアナが距離を取った先へ。
今度は火矢。
3本。
風で逸らす。
その直後。
低い位置を炎が走った。
「っ」
フィアナが跳ぶ。
そこへ。
炎槍。
空中。
避けにくい。
風を横へ強く吹かせて、無理やり身体をずらす。
炎槍がすぐ横を通った。
着地。
その瞬間。
地面が少し盛り上がった。
「土?」
俺が言う。
フィアナの足が取られる。
ほんの一瞬。
でも。
その一瞬で十分だった。
セレナが手を向ける。
火矢。
フィアナが風で弾く。
次。
もう1本。
さらに。
扇状に炎が広がる。
フィアナは大きく後ろへ下がった。
「使った」
ミアが言う。
「何を?」
「土」
「補助ですね」
セレナは火を通すために。
他属性も使う。
今のもそうだ。
足元を崩したかったんじゃない。
止めたかっただけ。
その一瞬で。
火を通すために。
フィアナが距離を取る。
息が少し上がっている。
「……ずっと追わないんですね」
俺が言う。
「追う必要ないんじゃない?」
ルークが答えた。
確かに。
セレナは最初から。
フィアナ本人を追っていない。
行きたい場所だけ。
潰している。
フィアナが動いた。
今度は正面。
風をまとって、一気に距離を詰める。
「近づく?」
俺が言う。
逃げ続けるだけじゃ勝てないと判断したらしい。
セレナも少しだけ目を細める。
フィアナが風を放つ。
正面。
セレナは炎の壁。
ぶつかる。
風が火を押す。
炎が大きく揺れる。
その横から。
フィアナが抜けた。
速い。
セレナのすぐ近く。
風の刃。
セレナが身体をずらす。
制服の端が切れた。
「当たった」
ミアが言う。
「浅いですけどね」
フィアナは止まらない。
今度は近い距離で風を連続して放つ。
セレナが一歩下がる。
二歩。
今までとは逆。
押されている。
「こっちの方がやりやすい?」
俺が言う。
「フィアナにとってはね」
セレナが距離を取る前に。
フィアナがもう一度踏み込む。
風で加速。
そのまま横へ回る。
速い。
セレナが火矢を作る。
近い。
フィアナが風で逸らす。
さらに一歩。
「もらった!」
風の刃。
セレナが腕で受ける。
身体能力強化。
少し後ろへ流される。
フィアナがさらに追う。
その瞬間。
セレナの表情が変わった。
「近づきすぎ」
フィアナの足元。
炎。
「え?」
小さく。
でも。
すぐ近く。
フィアナが反射的に下がる。
そこへ。
炎の壁。
後ろ。
逃げ道が消える。
右。
火矢。
左。
扇状の炎。
「っ……!」
完全に囲われた。
フィアナが風を強くする。
炎を押し返そうとする。
でも。
近い。
セレナも前へ出た。
「逃げる方が得意なのは分かったわ」
火が集まる。
「でも、近づけばいいってわけじゃないのよ」
収束した炎。
細い。
さっきまでの火球よりずっと小さい。
でも。
魔力が一点に集まっている。
フィアナが風を正面へ。
防ぐ。
炎と風がぶつかる。
一瞬。
止まる。
セレナが手を横へ振った。
収束炎が少し逸れる。
フィアナもそちらへ意識を向ける。
その瞬間。
足元。
また土が盛り上がった。
「っ!」
体勢が崩れる。
風も乱れる。
収束炎が抜けた。
魔法空間が光った。
フィアナの姿が消える。
勝者。
セレナ・エルフォード。
観覧席から歓声が上がる。
セレナは一度息を吐いた。
制服の切れた場所を見る。
少しだけ顔をしかめる。
でも。
すぐに戻ってきた。
「お疲れさまです」
「……戦い方、ちょっと変わりました?」
セレナが俺を見る。
「何が?」
「相手じゃなくて、逃げる場所を先に潰してたので」
「使えるものを使っただけよ」
「そうですか」
少し考える。
「何となく、見覚えがあるなと思って」
セレナが一瞬黙る。
「……何よ」
「いや、別に」
「言いたいことあるなら言いなさいよ」
「別に。ちょっと似てるなと思っただけです」
「……誰の?」
「俺のですけど」
セレナがじっとこっちを見る。
「調子に乗らないで」
「やっぱりそういう反応なんですね」
「何よ」
「いや、セレナらしいなって」
「それ、褒めてる?」
「たぶん」
「たぶんって何よ」
「結構押されてませんでした?」
「途中だけでしょ」
「風の刃、当たってましたよ」
「浅かったじゃない」
「でも当たってました」
セレナが俺を見る。
「何?」
「いや」
ちょっと言いすぎた気がする。
「アル」
「はい」
「次また同じこと言ったら」
「言ったら?」
「今度あんたで試すわよ」
「何をです?」
「最後のやつ」
「やめてください」
ルークが横で笑っている。
「仲いいね」
「どこがよ」
セレナがすぐ返す。
そのまま席へ座った。
少し機嫌が悪そう。
でも。
負けたわけじゃない。
むしろ。
最後は完全にセレナの形だった。
これで。
ミア。
セレナ。
2人とも1回戦突破。
そして。
勝ち上がれば。
次。
準々決勝で当たる。
ミアがトーナメント表を見る。
「次、セレナ」
「そうね」
「勝つ」
「こっちの台詞よ」
セレナが即答した。
「予選みたいに好き勝手やらせないから」
ミアが少し首を傾げる。
「好き勝手?」
「やってたでしょ。22ポイントとか取って」
「取れたから」
「そういうところよ」
2人とも。
もう次を見ている。
教師の声が響いた。
「第7試合、準備」
リシア・フェルド。
対。
オスカー・リード。
リシアが立ち上がる。
予選で。
最後まで俺と戦った相手。
そして。
剣技だけなら。
かなり上。
オスカーは水属性。
第3グループ3位。
次は。
リシアの本戦が始まる。




