第80話 それぞれの一回戦
第4試合。
カイル・ベルナー。
対。
ヴィクトル・レインズ。
2人が闘技場へ転送される。
ヴィクトルのことは予選で嫌というほど見た。
風属性。
C級。
勝つためなら、共闘していた相手まで利用する。
対するカイルは第3グループ2位。
「カイルってどんな人でした?」
ルークに聞く。
「火属性。近い方が強いよ。身体能力強化も結構上手い」
闘技場を見る。
カイルは武器を持っていない。
拳に薄く炎をまとわせている。
「火を近接に使うのね」
セレナが少し興味を示した。
同じ火属性でも。
セレナとはかなり違う戦い方らしい。
開始の合図。
先に動いたのはヴィクトルだった。
風の刃。
カイルが横へ避ける。
続けてもう1つ。
今度は炎をまとわせた腕で弾いた。
そのまま前へ。
身体能力強化。
一気に距離を詰める。
ヴィクトルは風で後ろへ下がった。
拳が空を切る。
また風。
カイルが避けて追う。
ヴィクトルは横へ。
方向を変えて距離を取る。
「分かりやすいわね」
セレナが言った。
「カイルは近づきたい。ヴィクトルは近づかせたくない」
そのままだ。
ヴィクトルは風を使って動き回る。
カイルは追う。
何度か風を受けても。
止まらない。
少しずつ距離を詰めていく。
そして。
カイルが捕まえた。
ヴィクトルの風を腕で弾き、そのまま懐へ入る。
拳。
ヴィクトルが避ける。
蹴り。
風で距離を取ろうとする。
でも。
カイルの方が速い。
拳に炎が集まった。
ヴィクトルが風壁を作る。
ぶつかる。
炎と風が弾けた。
風壁が崩れる。
その奥。
カイルの拳がヴィクトルの腹へ入った。
「ぐっ……!」
ヴィクトルが吹き飛ぶ。
すぐに立ち上がる。
さすがに。
これだけで終わりではない。
ヴィクトルの周囲で風が強くなった。
細かな風が闘技場を走る。
砂埃が舞い上がる。
視界が悪くなる。
その中から。
風の刃。
カイルが避ける。
別方向。
もう1つ。
さらに。
ヴィクトル自身が風に乗って横から飛び出した。
拳。
カイルが受ける。
ヴィクトルはすぐに離れる。
「ちゃんと強いんですね」
俺が言う。
「C級だからね」
ルークが笑った。
予選では人を使っている印象が強かったけど。
それだけで残ったわけじゃない。
ただ。
カイルも強い。
風の中。
攻撃を何度か受けながら。
少しずつヴィクトルとの距離を測っている。
次にヴィクトルが横から出た瞬間。
カイルの脚に魔力が集まった。
さらに。
炎。
踏み込みと同時に爆ぜる。
一気に加速した。
ヴィクトルが逃げる。
風で方向を変える。
カイルも追う。
もう一度。
炎が弾けた。
距離がなくなる。
「しつこい!」
ヴィクトルが風を放つ。
カイルは腕で受けた。
そのまま前へ。
拳。
ヴィクトルが避ける。
次。
ヴィクトルも風をまとって踏み込んだ。
2人が正面からぶつかる。
風。
炎。
ヴィクトルが横へ回ろうとする。
でも。
カイルは離さなかった。
拳が胸元へ入る。
魔法空間が光った。
ヴィクトルの姿が消える。
勝者。
カイル・ベルナー。
観覧席から歓声が上がった。
「やっぱり近づいたら強いわね」
セレナが言う。
「火の使い方も面白かったです」
炎そのもので倒すというより。
踏み込みや拳を強くするために使っている。
同じ属性でも。
使い方はかなり違う。
カイルが戻ってくると。
すぐに次の試合が始まった。
第5試合。
ミア・ハーヴェル。
対。
エリオット・グレイン。
ミアが立ち上がる。
「やっと」
「待ってたんですか?」
「うん」
「試合を?」
「終わったら何か食べたい」
そっちか。
エリオットは火属性。
第1グループ4位。
予選でも安定してポイントを取っていた。
弱い相手じゃない。
でも。
開始してすぐ。
相性以前の問題だと分かった。
エリオットが火球を放つ。
ミアが横へ避ける。
次の火矢。
風で軌道を逸らす。
そのまま前へ出る。
エリオットが炎を広げて近づかせない。
ミアは止まった。
右手を上げる。
雷。
「っ!」
エリオットが避ける。
そこへ。
ミアが土を盛った。
足場が崩れる。
「え?」
さらに風。
身体が流れる。
そこへ。
もう一度。
雷。
魔法空間が光った。
エリオットの姿が消える。
「早っ」
思わず声が出た。
勝者。
ミア・ハーヴェル。
ミアが戻ってくる。
「終わった」
「見れば分かります」
「早かったでしょ」
「早かったです」
少しだけ満足そうだ。
セレナがミアを見る。
「あんた、本当に容赦ないわね」
「本戦だから」
「それはそうだけど」
ミアはもう試合のことに興味がなくなったらしい。
座る。
そして。
第6試合。
セレナ・エルフォード。
対。
フィアナ・アーヴェル。
セレナが立ち上がった。
「次、私ね」
ルークが手を振る。
「頑張って」
「言われなくても」
即答。
俺も声をかける。
「頑張ってください」
セレナがこちらを見る。
「アル」
「はい?」
「さっきミアには何て言ったの?」
「え?」
急に聞かれた。
「いや、別に……早かったですね、とか」
「そうじゃなくて。試合前」
思い出す。
「……何も言ってないですね」
「そう」
何だ。
少し機嫌が良くなったような。
「じゃあ、ちゃんと見てなさい」
「見ますよ」
「ならいいわ」
セレナはそのまま魔法陣へ向かっていった。
「何だったんでしょう」
俺が言う。
ルークが笑っている。
「さあね」
「何ですか、その顔」
「別に?」
絶対何か分かってる。
闘技場へ。
セレナとフィアナが転送された。
フィアナは風属性。
予選では。
危なくなればすぐ距離を取る。
追っても捕まりにくい。
ルークがそう言っていた。
セレナも当然。
覚えている。
開始の合図。
フィアナが真っ先に後ろへ下がった。
風を使って。
一気に距離を取る。
セレナは追わない。
その場で。
火矢を作った。
1本。
2本。
3本。
フィアナへ向けて放つ。
風。
全部逸らされる。
「それくらいなら!」
フィアナがさらに距離を取る。
セレナが少し笑った。
「そう」
次。
今度は。
火矢じゃない。
炎が横へ広がった。
フィアナの逃げる方向。
「っ」
進路が変わる。
反対へ。
そこにも。
炎。
「逃げる場所をなくすって言ってましたね」
俺が言う。
ルークが頷く。
「本当にやるみたいだね」
セレナは。
フィアナ本人じゃなく。
その周りへ。
火を置いていく。
少しずつ。
動ける場所が狭くなる。
フィアナの表情から。
余裕が消えた。




