第78話 崩れない相手
魔法陣の前に立つ。
向かいにはノア・ベルク。
第1グループ3位。
水属性。
ミアから聞いたのは、
守るのが上手い。
しぶとい。
それくらいだ。
「よろしく」
ノアが言った。
「お願いします」
魔法陣が光る。
転送された先は、さっきと同じ石造りの闘技場だった。
予選の森と違って、木も岩もない。
平らな石の床が広がっている。
森ほど使えるものは多くない。
それでも。
地面があるなら十分だ。
開始の合図。
ノアが先に動いた。
水弾が2つ。
身体をずらして避ける。
すぐにもう一つ。
今度は少し大きい。
俺は前へ出ながら横へかわした。
ノアは追ってこない。
距離を保ったまま、次の水を作る。
やっぱり。
攻めるというより。
近づかせないつもりらしい。
俺が右へ動く。
そこへ水弾。
左へ切り返すと、今度はそっちへ水が飛んできた。
「ちゃんと見てますね」
「そっちも」
ノアは淡々と答える。
さらに一歩。
距離を詰める。
正面に水の壁が立った。
薄い。
拳で崩す。
水が弾けた。
そのまま前へ出ようとして。
止まる。
崩れた水が足元へ広がっていた。
滑らせるつもりか。
俺は地面を少し傾けた。
水が横へ流れていく。
ノアが目を細めた。
「それ、便利だね」
「土属性なので」
「石だけど」
「下は地面です」
「そういうもの?」
「たぶん」
俺も細かいことは知らない。
もう一度前へ出る。
水弾。
避ける。
水壁。
今度は壊さず横へ回った。
ノアもそれに合わせて距離を取る。
守るのが上手い。
ミアが言っていた意味は分かる。
無理に俺を倒そうとしない。
近づけば離れる。
追えば水で止める。
崩されそうになれば、すぐに位置を変える。
でも。
それだけなら。
やりようはある。
俺は足元へ魔力を流した。
ノアが右へ下がる。
その先の地面を少し盛る。
「っ」
足が止まる。
左へ。
今度はそちらを少しずらす。
ノアがまた止まった。
「……面倒」
「ありがとうございます」
「褒めてない」
さっきも誰かに言われた気がする。
ノアが水を広げる。
自分の周囲。
近づきにくくするつもりらしい。
俺はその外側を歩く。
右へ。
ノアも向きを変える。
左へ。
また合わせてくる。
なるほど。
俺の動きをずっと見ている。
だったら。
見せればいい。
右へ一歩。
ノアの意識が動く。
俺はそのまま踏み込まず。
反対。
左へ。
水弾が来る。
予想通り。
避ける。
そのまま前へ。
ノアの足元を少し盛る。
体勢が崩れた。
そこへ一気に距離を詰める。
「っ!」
ノアが水壁を出す。
俺は横へ。
壁の端を抜ける。
もう近い。
拳。
ノアが腕で受ける。
身体能力強化。
思ったより固い。
でも。
押し切れないほどじゃない。
もう一歩。
拳を出す。
ノアが避ける。
そのまま距離を取ろうとする。
足元の土をずらす。
踏み込みが崩れた。
今。
腕を掴む。
引く。
「っ」
ノアの身体が前へ出る。
足を払う。
倒れる。
すぐに土を動かして、身体の横を固めた。
ノアが水を出す。
土が少し濡れる。
でも。
抜けるほどじゃない。
「本当にしぶといですね」
俺が言う。
「ミアにも言われた」
「本人に言われたんですか」
「うん」
やっぱり言ってたらしい。
ノアがもう一度動こうとする。
俺は土へ魔力を足す。
数秒。
魔法空間が光った。
ノアの姿が消える。
試合終了。
思っていたより守りは固かった。
でも。
戦い方が分かってからは。
そこまで困らなかった。
魔法空間が白く光る。
観覧席へ戻った。
「お疲れ」
ルークが言う。
「ありがとうございます」
セレナは少し離れたところから俺を見る。
「思ったより早かったわね」
「守るのは上手かったですよ」
「でも崩した」
「まあ」
「なら十分でしょ」
セレナはそれだけ言って、トーナメント表を見る。
ミアも一度こちらを見た。
「勝った」
「はい」
「そう」
それだけ言って、また闘技場へ目を戻した。
教師の声が響く。
「第2試合、勝者。アルベルト」
トーナメント表。
俺の名前が一つ上へ進む。
次。
準々決勝。
相手は。
ディーン・クロフォード。
剣。
身体能力強化。
そして。
さっき見たばかりの。
あの踏み込み。
少し離れたところ。
ディーンもトーナメント表を見ていた。
目が合う。
ディーンが剣の柄に手を置く。
俺も少し笑った。
次は。
さっきより簡単にはいかなそうだ。




