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第77話 剣一本

ディーンとマルクが魔法陣の前に立つ。


本戦最初の試合。


予選の時とは、観覧席の空気も少し違っていた。


64人が同時に戦っていた予選と違って、今は全員が同じ2人を見る。


逃げる場所もない。


誰かと共闘することもできない。


完全な1対1だ。


「マルクは中距離から押すタイプだったわね」


セレナが言った。


「相性的にはディーンの方が面倒そう」


「近づかないと始まらないですからね」


俺も頷く。


第2グループ4位。


マルク・フェスター。


水属性。


予選では、水弾や水刃を切らさず撃ち続けて、相手を近づけさせない戦い方をしていたらしい。


一方。


ディーンはE級。


俺と同じだ。


でも。


剣を持ったディーンを、級だけで考えると多分間違える。


身体能力強化も使える。


それに。


剣技そのものがかなり高い。


「マルクの方が魔法では有利そうだね」


ルークが言った。


「でも、ディーンは距離さえ詰めれば強い」


「問題はそこまで行けるかね」


セレナが映像を見る。


その通りだと思う。


2人の姿が魔法空間へ転送された。


場所は予選の森林じゃない。


平らな石造りの闘技場。


障害物はほとんどない。


正面から戦うための場所だ。


ディーンが剣を抜く。


マルクは最初から距離を取っていた。


開始の合図。


先に動いたのはマルクだった。


小さな水弾が一気に飛ぶ。


1つじゃない。


5つ。


6つ。


少しずつ角度も違う。


ディーンが前へ出た。


身体をずらして1つ避ける。


剣で2つ弾く。


残りを横へ抜ける。


そこへ。


すぐ次が来る。


今度は水刃。


横。


斜め。


さらにもう1つ。


間を置かずに飛んでくる。


「手数多いな」


俺が言う。


「止まったらそのまま押し切られそうね」


セレナが答える。


ディーンはまだ進んでいる。


でも。


無理に走らない。


一歩。


避ける。


もう一歩。


剣で流す。


そのたびにマルクは少しずつ下がる。


距離を保ちながら。


攻撃を切らさない。


水弾。


ディーンが避ける。


次。


水刃。


剣で弾く。


その瞬間だけ。


腕に流れる魔力が強くなった。


「身体能力強化」


俺が呟く。


ずっと強くしているわけじゃない。


避ける時。


剣を振る時。


踏み込む時。


必要なところだけ強めている。


派手じゃないけど。


上手い。


マルクの攻撃が増える。


水弾。


水刃。


地面すれすれを走る細い水流。


ディーンが跳ぶ。


その着地を狙って。


また水弾。


脚へ魔力を回す。


着地と同時に身体を沈めて避けた。


そのまま一歩前へ。


「少しずつ近づいてるわね」


セレナが言う。


確かに。


マルクは攻撃し続けている。


でも。


ディーンは止まっていない。


マルクも気づいたらしい。


表情が少し変わる。


両手を前へ出した。


今までより大量の水が集まる。


「これなら――」


一気に放つ。


幅の広い水流。


横へ大きく避けなければ。


まともに押し流される。


ディーンは止まった。


一瞬だけ。


脚へ魔力を集中させる。


次の瞬間。


前へ出た。


「正面?」


俺が声を出す。


水流へ向かって走る。


いや。


直前で斜めへ。


身体能力強化を使った踏み込みで、一気に水流の端へ入った。


水が肩へ当たる。


身体が少し流される。


それでも。


足に力を入れる。


止まらない。


抜けた。


マルクの顔が変わる。


「なっ――」


距離が一気に縮まった。


マルクはすぐに水弾を放つ。


近い。


ディーンが剣で弾く。


もう1つ。


身体を捻る。


その水が地面に当たり。


水しぶきが上がった。


視界が白くなる。


マルクはその隙に距離を取る。


でも。


水しぶきの中から。


ディーンが出てきた。


「何で――」


走っている。


脚への強化を切らしていない。


マルクが水の壁を作る。


ディーンは剣を構える。


腕と体幹へ魔力。


一閃。


水壁が崩れた。


「強引ですね」


俺が言う。


「でも、あれがディーンの戦い方なんでしょうね」


セレナが答える。


魔法で対抗するんじゃない。


避ける。


弾く。


耐える。


そして。


近づく。


マルクも必死に距離を取る。


細い水弾を何本も撃つ。


ディーンは1つ避け。


1つを剣で弾く。


もう1つが腕をかすめた。


それでも前へ出る。


マルクが右へ。


ディーンも同時に右へ動いた。


「読んだね」


ルークが言う。


マルクが止まる。


行きたい方向。


そこにディーンがいる。


逆へ。


ディーンも追う。


距離が縮まる。


「来るな!」


マルクが両手を前へ出した。


また大量の水。


今度はさっきより近い。


避ける時間も少ない。


ディーンは身体能力強化を強める。


脚。


体幹。


腕。


水流がぶつかる。


身体が後ろへ押される。


一歩。


それでも。


踏ん張る。


剣を前へ。


さらに一歩。


「押し切るの?」


セレナが言う。


ディーンは答えるはずもなく。


そのまま進む。


マルクの水が弱まる。


その瞬間。


一気に距離を詰めた。


マルクが水壁を出す。


剣。


割る。


水弾。


避ける。


もう。


逃げる距離がない。


ディーンの剣が横へ走る。


マルクが身体を引く。


間に合わない。


刃が届く直前。


魔法空間が光った。


マルクの姿が消える。


一瞬。


静かになって。


観覧席から歓声が上がった。


勝者。


ディーン・クロフォード。


ディーンは剣を下ろす。


派手な魔法は使っていない。


身体能力強化。


そして。


剣。


自分の強いところだけで。


押し切った。


「やっぱり剣、上手いですね」


俺が言う。


「そうね」


セレナも頷く。


「自分が何で勝負するか、ちゃんと分かってる」


ルークも笑う。


「下手に魔法を混ぜるより、あっちの方が強いんだろうね」


俺もそう思う。


E級。


魔法だけなら。


本戦16人の中では下の方かもしれない。


でも。


それだけで勝負が決まるなら。


ディーンはここにいない。


魔法空間から戻ってきたディーンが、少し離れた席へ座る。


ミアは特に声をかけなかった。


ちらっと見て。


それだけ。


「勝った」


一言だけ呟く。


「勝ちましたね」


俺が返す。


ミアはもう闘技場の方を見ていた。


教師の声が響く。


「次」


第2試合。


アルベルト。


対。


ノア・ベルク。


「アル」


セレナが呼ぶ。


「はい?」


「人の試合ばっかり見てないで、切り替えなさい」


俺を見る。


「次、あんたよ」


「分かってますよ」


「ならいいわ」


少しだけ笑う。


「負けたら承知しないから」


「何でセレナに怒られるんですか」


「知らないわよ。とにかく勝ちなさい」


相変わらず強い。


ルークが横で笑っている。


「応援されてるね」


「圧が強いですけどね」


ミアもこちらを見る。


「ノア」


「はい」


「しぶとい」


「それは前に聞きました」


少し考える。


「水、いっぱい使う」


「それも聞きました」


「じゃあ終わり」


「情報少ないなあ……」


ミアはもう興味を失ったように前を向いた。


俺は立ち上がる。


ノアも反対側から闘技場へ向かっている。


水属性。


第1グループ3位。


守るのが上手い。


ミアの雷を。


一度避けた。


「一度なんですよね……」


小さく呟きながら。


俺も魔法陣へ向かった。

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