第74話 最後の2人
リシアが剣を抜く。
俺も構えた。
残っているのは俺とリシアだけ。
どちらかが倒れるまで、第4グループの予選は終わらない。
「さっきは途中でしたね」
俺が言うと、リシアは静かに頷いた。
「はい。今度は最後までお願いします」
「もちろんです」
その言葉と同時に、リシアの足元で風が巻いた。
次の瞬間、一気に距離が詰まる。
速い。
剣が横から走る。
身体を引いて避けると、間を置かずに2撃目が来た。
さらに3撃目。
剣そのものも速いけど、それ以上に踏み込みが鋭い。
足元で風を使っている。
俺は一度距離を取った。
リシアが追う。
その足元の土を少しずらす。
踏み込みが崩れた。
「っ」
剣先がわずかに逸れる。
俺は横へ回り、さらに進行方向の土を盛った。
リシアが避ける。
なら、その先を少し沈める。
また足が止まる。
右へ行けば右。
左へ行けば左。
踏み込めば足元。
下がればその先。
大きく地面を変える必要はない。
剣を振るための足場を、少しだけ崩せばいい。
それだけでリシアの攻撃は遅れる。
「……やりにくいです」
一度離れたリシアが言った。
「ありがとうございます」
「褒めてません」
「そうですか」
ほんの少しだけ、リシアが笑った。
でも、すぐに剣を構え直す。
今度は正面から来なかった。
風を使って右へ大きく回り込み、そこから一気に踏み込んでくる。
剣が走る。
避ける。
リシアは止まらず、風で身体の向きを変えてもう一度斬り込んできた。
俺は足元をずらす。
それでもリシアは無理に踏み込まず、一歩手前で止まった。
少しずつ見ている。
でも。
完全には分かっていない。
止まった先へ土を盛ると、また足場が崩れる。
「っ」
リシアが風で身体を支える。
そのまま剣を振るう。
今度は制服の端が浅く切れた。
「危なっ」
思わず下がる。
リシアがさらに距離を詰める。
また剣。
俺は土をずらす。
体勢が崩れる。
それでも風を使って無理やり戻し、もう一度斬る。
上手い。
崩されても。
止められても。
剣だけは簡単に死なない。
けれど。
それでも主導権は渡さない。
踏み込む場所を変える。
進路をずらす。
下がる先を塞ぐ。
リシアは何度も風で姿勢を戻しながら攻めてくる。
その分だけ。
魔力を使う。
息も少しずつ上がってきた。
「このままでは」
リシアが距離を取った。
「近づけませんね」
今までより強く風が集まる。
次の踏み込みは速かった。
足元を崩す。
それでも止まらない。
風で身体を横へ流し、そのまま無理やり懐へ入ってきた。
剣。
俺は避ける。
次。
また剣。
距離を取ろうとしても、追ってくる。
土で崩しても、風で押し切る。
なるほど。
土に対応したわけじゃない。
崩されるのを承知で、そのまま距離を詰めるつもりか。
「近いですね」
俺が言う。
「近づかないと勝てませんから」
リシアはそう答えると、さらに一歩踏み込んだ。
剣が来る。
今度は下がらない。
俺から前へ出る。
刃の内側。
懐へ。
リシアの目が少し見開いた。
拳。
剣の腹で受けられる。
そのまま蹴り。
今度は腕で受ける。
身体がわずかに流れた。
追う。
拳を出す。
避けられる。
すぐに肩をぶつけるように距離を詰める。
リシアが下がる。
足を払う。
風で身体を浮かせて避けられた。
着地したリシアが止まる。
俺も構え直した。
「アルベルトさん」
「はい」
「近接も得意なんですね」
「まあ、それなりには」
バルガスさんに1年間。
拳も。
蹴りも。
掴みも。
投げも。
崩しも。
散々やらされた。
剣は使えない。
でも。
素手なら。
かなりやれる。
リシアは剣を握り直した。
少し警戒が強くなる。
距離を取れば土。
近づけば近接。
そう思ったのかもしれない。
「行きます」
「はい」
リシアが踏み込む。
風で加速。
剣が来る。
避ける。
俺も前へ出る。
拳。
剣で受けられる。
その瞬間、足元の土を少し盛る。
リシアの身体がわずかに浮く。
その一瞬。
拳を返す。
リシアが身体を捻って避けた。
すぐに剣の柄が飛んでくる。
俺は首を引く。
ぎりぎり。
純粋な剣技なら。
やっぱりリシアの方が上だ。
足場を崩しても。
間合いを変えても。
簡単には決定打を取らせてくれない。
でも。
今は。
剣技だけで戦っているわけじゃない。
リシアが横へ回る。
風。
位置が変わる。
踏み込む。
剣。
避ける。
次の足元をずらす。
リシアが崩れる。
風で立て直す。
その瞬間に俺も入る。
拳。
受けられる。
蹴り。
今度は当たった。
リシアの身体が横へ流れる。
それでも倒れない。
剣を地面に当てて支え、そのまま風で身体を起こす。
すぐに斬り返してきた。
俺は下がった。
頬に熱いものが走る。
触ると、浅く切れていた。
「今の当てますか」
「当てないと負けますから」
リシアもかなり息が上がっている。
それでも。
目はまだ死んでいない。
強い。
本当に。
けれど。
このままなら。
俺の方が少し有利だ。
もう一度。
リシアが来る。
今度は最初から無理に距離を詰めてくる。
土をずらす。
足場が崩れる。
風。
そのまま前へ。
剣。
避ける。
俺は懐へ入る。
拳。
受けられる。
次に肘を入れる。
リシアが下がる。
追う。
蹴り。
横へ避けられる。
足元を盛る。
逃げる位置が変わる。
そこへ。
俺も回り込む。
リシアが剣を振るう。
腕を上げて外側へ流す。
完全には受けない。
刃の軌道だけをずらす。
そのまま手首を押さえる。
「っ」
リシアが引こうとする。
肩をぶつける。
身体が揺れる。
足元を少しずらす。
踏ん張れない。
今。
足をかける。
崩す。
リシアが風を使う。
でも。
間に合わない。
身体が傾いた。
それでも。
最後に剣を振るってくる。
俺は身体を引いて避ける。
そのまま一歩踏み込む。
拳。
胸元。
今度は止めない。
身体能力強化を乗せて打ち込んだ。
リシアの身体が後ろへ飛ぶ。
地面に落ちる前に。
魔法空間が判定した。
光。
リシアの姿が消える。
静かになった。
「……勝った」
力が抜けた。
俺はその場に座り込む。
さすがに疲れた。
少しして。
視界の端に文字が浮かぶ。
第4グループ終了。
最後まで残ったのは俺。
これで。
予選1位。
魔法空間が白く光る。
次の瞬間。
観覧席へ戻っていた。
歓声が聞こえる。
思っていたより大きい。
「アル!」
ミア。
「お疲れさま」
セレナ。
ルークもいる。
少し先には、先に転送されていたリシアが立っていた。
目が合う。
「ありがとうございました」
リシアが頭を下げる。
「こちらこそ」
少し間があって。
リシアが悔しそうに笑った。
「完敗です」
「そんなことないですよ。何回か普通に危なかったです」
「でも、負けました」
それでも。
すぐに顔を上げる。
「次は勝ちます」
「本戦で当たったらですね」
「はい」
リシアはそう言って。
少し笑った。
その時。
第4グループの結果が表示された。




