第73話 人を使う者
5人が同時に構えた。
前に3人。
後ろに2人。
剣を持っているのが2人。
残りは火、水、風。
完全に囲まれている。
「……多くないですか?」
やっぱり返事はなかった。
まあ、そうだよな。
予選なんだから。
前にいる火属性の生徒が先に動いた。
火球。
1つ。
続けてもう1つ。
左右から飛んでくる。
俺は後ろへ下がる。
そこへ。
背後にいた剣士が踏み込んできた。
挟むつもりらしい。
剣が振られる。
身体を横へ。
避ける。
すぐに地面を蹴った。
正面へ戻る。
「逃がすな!」
風が飛んでくる。
足元の土を盛り上げる。
風が当たる。
完全には止まらない。
でも。
勢いが落ちれば十分だ。
横へ抜ける。
水が地面を走る。
滑らせるつもりか。
少し地面を傾ける。
水が横へ流れていった。
「また土か!」
誰かが言う。
当たり前だ。
土属性なんだから。
5人が再び俺を囲もうと動く。
なら。
囲まれる前に崩す。
一番近い剣士へ走った。
「来た!」
剣。
避ける。
もう一撃。
受けずに身体を沈める。
懐へ。
拳。
相手が腕で受けた。
そのまま距離を取ろうとする。
足元。
土を少しずらす。
「っ!」
踏み込みが崩れる。
肩を押す。
後ろへ。
そこへ。
別の剣士が来た。
横から剣。
俺は一歩下がる。
最初の剣士と2人目が近づく。
風が飛んできた。
俺は身体を沈める。
風が2人の間を抜けた。
「危なっ!」
2人が慌てて離れる。
位置が崩れた。
今。
最初の剣士へ。
一気に距離を詰める。
拳。
腹。
相手の身体が折れる。
腕を掴む。
足を払う。
地面へ。
土で動きを止める。
姿が消えた。
アルベルト 3
残り4人。
今度はすぐに来なかった。
さっきより慎重になっている。
「離れてやるぞ!」
風属性の生徒が声を上げる。
火。
水。
風。
3人が距離を取る。
剣士がその前。
近づけさせないつもりらしい。
魔法が一斉に飛んできた。
俺は走る。
火を避ける。
風。
地面を盛って遮る。
水が広がる。
土を少しずらして足場を作る。
一歩。
二歩。
そのまま前へ。
「何で来れるんだよ!」
火属性の生徒が下がる。
逃げる方向。
右。
そこへ土を盛る。
「っ!」
進路が変わる。
左へ。
その先には水属性の生徒。
2人がぶつかりそうになった。
「邪魔!」
その間に。
俺は剣士へ。
剣。
横。
避ける。
もう一撃。
今度は蹴りで腕を弾く。
剣先が逸れる。
そのまま。
拳。
胸。
相手が下がる。
追う。
足元をずらす。
体勢が崩れる。
もう一撃。
姿が消えた。
アルベルト 4
残り3人。
火。
水。
風。
完全に距離を取られた。
「近づけるな!」
火球。
風。
水。
一気に飛んでくる。
さすがに多い。
土壁。
火が当たる。
横へ。
風が来る。
避ける。
足元に水。
踏み込む場所だけ土を盛る。
前へ。
少しずつ。
距離を詰める。
相手たちも下がる。
でも。
後ろには木がある。
岩もある。
ずっと真っ直ぐ下がれるわけじゃない。
俺は火属性の生徒を見る。
右へ逃げた。
その先。
少しだけ土を盛る。
進路が変わる。
今度は風属性の生徒と近づいた。
2人が邪魔し合う。
そこへ。
水属性の魔法。
俺は避ける。
水が2人の足元へ広がった。
「おい!」
俺が何かしたわけじゃない。
位置を変えただけだ。
風属性の生徒が体勢を崩す。
先にそっちへ。
走る。
風。
近い。
身体を横へ。
拳。
腹。
相手が下がる。
さらに一歩。
蹴り。
姿が消えた。
アルベルト 5
残り2人。
火と水。
2人が顔を見合わせる。
「どうする?」
「やるしかないだろ」
まだ来るらしい。
俺も少し息を整える。
5人相手は。
さすがに楽じゃない。
火属性の生徒が前。
水属性が後ろ。
火球。
俺は避ける。
その先に水。
横へ。
また火。
今度は広い。
土壁。
火が当たる。
そのまま壁を崩す。
土煙。
俺は右へ。
火属性の生徒が正面を見ている。
横から懐へ入る。
「なっ」
拳。
受けられる。
もう一撃。
相手も身体能力強化を使っている。
拳を返してきた。
避ける。
俺も蹴り。
腕で受けられる。
後ろから水。
一歩横へ。
火属性の生徒の足元へ水が広がった。
滑る。
その瞬間。
土を少しずらす。
さらに体勢が崩れた。
肩を掴む。
引く。
そのまま投げる。
地面へ。
姿が消えた。
アルベルト 6
最後。
水属性の生徒。
「……まじかよ」
俺を見る。
「5人いたのに」
「いましたね」
「お前、本当にE級か?」
「E級です」
「意味分かんねえ」
水が飛んでくる。
避ける。
もう一発。
前へ。
足元にも水。
地面を少し盛る。
踏み込む。
相手が下がる。
その後ろ。
木。
行き止まり。
水が正面から来る。
土壁。
ぶつかる。
壁が削られる。
相手から俺は見えない。
壁を横へ崩す。
同時に。
俺は反対側へ回る。
「え?」
拳。
姿が消えた。
アルベルト 7
森が静かになった。
「……疲れた」
5人。
全員倒した。
少し休む。
木に背中を預ける。
息を整える。
いつの間にか。
結界はかなり小さくなっていた。
遠くから聞こえる戦闘の音も。
最初よりずっと少ない。
時間が経っている。
俺が5人と戦っている間にも。
かなりの人数が消えたらしい。
少しして。
また結界が縮まり始めた。
「行くか」
俺は立ち上がった。
森の中央へ向かう。
途中。
何度か戦闘の跡を通った。
焦げた地面。
折れた木。
大きく抉れた土。
でも。
人はほとんどいない。
残っている人数が。
かなり少なくなっている。
その時。
少し先から。
魔法の音が聞こえた。
風。
続けて。
何かが倒れる音。
俺は足を止める。
人影が3つ。
こちらへ向かって走ってくる。
ヴィクトル。
その後ろ。
さっき一緒にいた2人。
4人だったはずだけど。
1人減っている。
3人とも。
かなり汚れている。
でも。
ポイント表示を見る。
ヴィクトル・レインズ 6
その後ろの2人。
5。
5。
「……結構取ってるな」
思わず呟いた。
最初に会った時とは。
明らかに違う。
3人で動き続けて。
数の有利を押しつけながら。
かなり倒してきたらしい。
ヴィクトルも俺に気づいた。
「……お前か」
止まる。
後ろの2人も止まった。
俺も構える。
ヴィクトルが後ろを見る。
森の奥。
何かを確認するように。
「どうする?」
仲間の1人が聞いた。
ヴィクトルは少し考える。
「このまま行く」
「でも、あの女は?」
「あれは3人でも厳しい」
あの女。
一瞬。
誰のことか分からなかった。
でも。
たぶん。
リシアだ。
「先にE級を落とすぞ」
ヴィクトルが俺を見る。
なるほど。
リシアから離れながら。
途中の相手を倒して。
ここまで来たらしい。
そして。
俺なら3人で倒せると思っている。
「またですか」
俺が言う。
「今度は3人だ」
「1人減りましたね」
ヴィクトルの顔が少し歪む。
「余計なこと言うな」
「すみません」
「絶対思ってないだろ」
風が集まる。
後ろの2人も構えた。
火。
水。
さっきと同じ3人。
ただ。
ポイントは。
6。
5。
5。
ここまで残っているだけはある。
ヴィクトルが来る。
風で加速。
速い。
正面。
俺は避ける。
横から火。
下がる。
足元へ水。
土を盛る。
3人の連携は。
さっきより良くなっている。
何度も。
他の生徒を相手にしてきたからだろう。
ヴィクトルが前。
火と水が後ろ。
ヴィクトルを避ければ。
その先へ魔法が飛んでくる。
「逃がすな!」
風。
横へ。
火。
土壁。
水。
地面を傾ける。
俺も。
さっきより。
疲れている。
5人を倒した直後だ。
長引かせたくない。
ヴィクトルを見る。
一度。
戦っている。
風で加速する時。
最初の踏み込みが強い。
そこ。
ヴィクトルが来る。
足を踏み込む。
俺は土をずらした。
「なっ――」
踏み込みが外れる。
加速する瞬間。
体勢が崩れた。
俺は横へ。
拳。
背中。
「ぐっ!」
ヴィクトルが前へよろける。
でも。
消えない。
すぐに振り返る。
風。
近い。
身体が押される。
俺も後ろへ。
「ヴィクトル!」
後ろから火属性の生徒が叫ぶ。
火球。
俺へ。
避ける。
その隙にヴィクトルが体勢を戻す。
「今の……」
ヴィクトルが足元を見る。
警戒した。
次から。
同じ手は使いにくい。
さすがC級。
それに。
ここまで残っている。
簡単じゃない。
3人がまた動く。
今度はヴィクトルが無理に前へ来ない。
火。
水。
俺を動かす。
逃げる方向へ。
風。
追い込む。
上手い。
俺は土壁を作る。
火を防ぐ。
横へ。
水。
避ける。
ヴィクトルの風。
少し受ける。
身体が流される。
そこへ。
火属性の生徒。
身体能力強化。
近づいてきた。
拳。
受ける。
重い。
もう一撃。
避ける。
蹴り。
腕で受ける。
そのまま。
腕を掴む。
崩す。
でも。
横から水。
離れる。
「惜しい!」
ヴィクトルが笑う。
まだ余裕がある。
3人。
やっぱり面倒だ。
俺は少し下がる。
3人が追う。
木。
岩。
斜面。
周りを見る。
使える。
俺は右へ。
ヴィクトルたちも来る。
少し狭い場所。
右に岩。
左に木。
俺が入る。
「追い込んだぞ!」
火属性の生徒が先に来る。
俺はさらに下がる。
水属性。
ヴィクトル。
3人が近づく。
今。
俺は地面を盛り上げた。
真ん中。
火属性と水属性の間。
「っ!」
2人が離れる。
ヴィクトルが風で越えてくる。
俺はそっちへ。
拳。
風で逸らされる。
蹴り。
ヴィクトルが下がる。
さらに。
土をずらす。
逃げる方向を変える。
そこへ。
火属性の生徒が戻ってくる。
3人がまた集まる。
その時。
ヴィクトルが後ろを見た。
一瞬。
火属性。
水属性。
2人とも。
かなり息が上がっている。
「ヴィクトル!」
火属性の生徒が言う。
「もう少しだ! 3人で押せば――」
「そうだな」
ヴィクトルが答えた。
風が集まる。
俺も構える。
来る。
そう思った。
でも。
風が向いたのは。
俺じゃなかった。
「え?」
火属性の生徒が振り返る。
遅い。
強い風。
2人へ。
「ヴィクトル!?」
火属性と水属性の生徒が。
まとめて吹き飛ばされた。
岩。
木。
強く身体を打つ。
2人とも。
かなり消耗していた。
魔法空間の判定が入る。
ほぼ同時に。
2人の姿が消えた。
ヴィクトル・レインズ 8
俺は。
少し。
止まった。
「……仲間じゃなかったんですか?」
ヴィクトルがこちらを見る。
「仲間?」
笑う。
「予選だぞ」
少し離れた場所。
さっきまで2人がいた場所を見る。
「最後は全員敵だろ」
確かに。
ルール違反じゃない。
共闘して。
最後に裏切る。
禁止されていない。
でも。
「最初からですか?」
俺が聞く。
「何が?」
「最後に落とすつもりだったんですか?」
ヴィクトルは答えなかった。
ただ。
笑った。
それで十分だった。
人を使って。
ポイントを取る。
必要がなくなれば。
自分で落とす。
俺とは。
全然違う。
「これで8」
ヴィクトルが表示を見る。
「お前は7か」
風が集まる。
「ここでお前を落とせば9だ」
「そうですね」
「悪いな」
「別に」
俺も構える。
「俺もヴィクトルさんを倒せば8なので」
ヴィクトルの表情が変わった。
「……やっぱり気に入らないな、お前」
「よく言われます」
「嘘つけ!」
風。
前へ。
今度は。
1対1。
さっきより。
ずっとやりやすい。
ヴィクトルが風で加速する。
拳。
避ける。
蹴り。
受ける。
風が身体を押す。
一歩下がる。
すぐ。
俺も前へ。
拳。
ヴィクトルが避ける。
次。
蹴り。
腕で受ける。
風で距離を取ろうとする。
足元。
土をずらす。
「またそれか!」
踏み込みが崩れる。
俺は距離を詰める。
ヴィクトルが風を放つ。
近い。
まともに受ける。
身体が押される。
でも。
下がりすぎない。
地面を蹴る。
もう一度。
前へ。
「しつこい!」
ヴィクトルの拳。
避ける。
懐。
拳。
腹。
「ぐっ!」
さらに。
腕を掴む。
ヴィクトルが風を使う。
振りほどこうとする。
強い。
でも。
離さない。
足。
崩す。
身体が傾く。
その方向。
土を少し盛る。
ヴィクトルの足が引っかかった。
一瞬。
身体が浮く。
肩を入れる。
そのまま。
投げる。
地面。
「がっ――」
ヴィクトルが倒れる。
すぐに起きようとする。
でも。
その前。
拳。
姿が消えた。
アルベルト 8
森が静かになった。
俺は息を吐く。
「……疲れた」
さすがに。
かなりきつい。
5人。
そのあと3人。
連戦だ。
でも。
これで。
残っている人数は。
俺は周囲を見る。
静か。
本当に。
誰もいない。
その時。
少し離れた場所から。
足音。
俺は構える。
木の向こう。
1人。
女子生徒。
剣。
リシア。
「……やっぱり」
リシアも俺に気づいた。
止まる。
俺は。
その横に表示されているポイントを見る。
リシア・フェルド 7
俺。
8。
ほとんど変わらない。
「かなり取ってますね」
俺が言う。
リシアも俺の表示を見る。
「アルベルトさんも」
少しだけ。
風が吹いた。
リシアの髪が揺れる。
剣を抜く。
俺も構えた。
周囲には。
もう。
俺たち以外の気配がない。
さっきヴィクトルを倒した時点で。
残ったのは。
俺と。
リシア。
2人。
第4グループ。
最後の戦いが始まる。




