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第70話 セレナの予選

第2グループの64人が、魔法陣の前へ集まっていく。


その中にセレナの姿がある。


さっきまで隣にいたせいか、観覧席から見ると少し変な感じがした。


「セレナ、どこ?」


戻ってきたミアが俺の横に座りながら聞く。


「今映りましたよ。あそこです」


空中に浮かぶ映像の1つを指す。


セレナは森の中でも、比較的木の多い場所へ転送されていた。


周囲を確認してから、すぐに少し開けた方へ移動していく。


「ミアみたいに人探しには行かないですね」


「普通はそうでしょ」


ルークが笑う。


「何」


ミアがルークを見る。


「別に」


「私も普通」


「17人倒した人が言います?」


「食堂」


「それで全部説明しようとしないでください」


開始を知らせる音が響いた。


第2グループの予選が始まる。


セレナはすぐには戦わなかった。


木々の間を進みながら、ときどき足を止めて周囲を見る。


「慎重ですね」


「セレナらしいんじゃない?」


ルークが言う。


「最初から無駄に魔力を使う必要もないしね」


ミアとは真逆だ。


あっちは1人1ポイントと聞いた瞬間に、人を探し始めた。


「聞こえてる」


「悪口じゃないですよ」


「ならいい」



しばらくして。


セレナが足を止めた。


前方から2人の生徒が来る。


向こうも気づいた。


一瞬だけ3人とも動かない。


「セレナ・エルフォードだ」


「C級だよな」


「どうする?」


小声で相談している。


セレナは特に構えない。


「来ないなら、私は行くけど」


そう言って横を抜けようとする。


「待て!」


片方が魔法を放った。


水。


セレナの進行方向へ広がる。


もう1人は風属性らしい。


風が水を巻き上げた。


「相性悪そうですね」


火に対して水。


しかも風までいる。


セレナが一歩下がる。


「2人で来る?」


「悪いけどな」


「ルール違反じゃないだろ」


「それはそうね」


セレナの周囲に炎が灯った。


その炎が細く伸びる。


1本。


2本。


3本。


矢のような形になった。


「火の矢?」


俺が言う。


「速さ重視ね」


ルークが答える。


セレナが手を振る。


3本の火矢が一斉に飛んだ。


風属性の生徒が風をぶつける。


2本は逸れる。


でも1本が脇を抜けた。


その隙に水属性の生徒が足元へ水を広げる。


セレナは炎を地面へ落とした。


ジュッと音がして、一気に蒸気が広がる。


「見えない」


ミアが言う。


映像の中が真っ白になる。


次の瞬間。


蒸気の向こうから風が飛び出した。


でも。


セレナはもうそこにいなかった。


「右」


俺が言った。


木の陰。


セレナの右手に細長い炎が集まっている。


今度は矢じゃない。


もっと太く、長い。


槍みたいな形。


「炎の槍か」


そのまま一直線に放たれた。


風属性の生徒が慌てて風を出す。


でも、さっきの火矢とは威力が違う。


風を押し破る。


地面のすぐ横へ突き刺さり、爆発した。


衝撃で生徒の姿勢が崩れる。


そこへ短い火矢がもう1本。


胸元に当たった。


姿が消える。


セレナ・エルフォード 1


「1人」


ミアが言う。


「数えなくていいですから」


残った水属性の生徒が距離を取る。


水を前へ広げた。


「火じゃ相性悪いでしょ!」


確かに。


正面から火力だけをぶつけるなら不利だ。


でも、セレナは炎を大きくしなかった。


右手に火矢を2本。


左手には薄い風。


「風?」


俺が言う。


「補助に使うみたいね」


ルークが答える。


セレナが風を横へ流す。


蒸気が一気に動いた。


視界が開く。


同時に、火矢が左右から飛ぶ。


相手は水で防ぐ。


2本とも消えた。


でも、その間にセレナは前へ出ていた。


身体能力強化。


一気に距離を詰める。


足元に短い炎が弾ける。


相手が反射的に後ろへ下がる。


その先。


地面がわずかに盛り上がった。


「土まで?」


ほんの少し。


足場をずらす程度。


でも、それで十分だった。


相手の姿勢が崩れる。


セレナが右手を引く。


炎が集まる。


今度は短い槍。


近距離用の炎槍。


そのまま突き出す。


水を出す暇もない。


炎が胸元で弾けた。


姿が消える。


2ポイント。


「結構使いますね。他の属性」


「基本くらいなら、使える人は珍しくないよ」


ルークが言う。


「でもセレナはやっぱり火が主役だね」


それは分かる。


風も土も、全部火を通すために使っている。


ミアみたいに属性そのものを次々入れ替えて戦う感じではない。



その後も、セレナは無理に相手を探し回ることはなかった。


進路上で会えば戦う。


危険なら離れる。


共闘している人数が多ければ避ける。


ただし、一度戦うと決めるとかなり攻撃的だった。


火矢で牽制する。


炎の壁で進路を塞ぐ。


扇状の炎で近づかせない。


炎槍で一点を狙う。


遠距離でも近距離でも、同じ火を形を変えて使っている。


結界が最初に狭まった頃。


セレナは5ポイント。


十分上位にいる。


「ミアより普通ですね」


俺が言う。


「何」


「褒めてます」


「私も普通」


「まだ言うんですか」


ミアは少し不満そうだった。



映像が切り替わる。


別の場所で、大きな風が吹いた。


1人の生徒が地面を転がる。


「レオ」


俺が言った。


レオナード・ハルヴェイン。


風属性。


この前、俺と模擬戦をした相手だ。


相変わらず剣も使っている。


ただ。


あの時より少し戦い方が落ち着いて見えた。


前みたいに感情のまま魔法を出す感じがない。


相手の動きを見て、距離を詰める。


風を使うのも必要な時だけだ。


「レオも同じグループだったんですね」


「そうみたいだね」


ルークが答える。


表示を見る。


レオナード・ハルヴェイン 4


「順調ですね」


「元々強いもの」


ミアが言う。


「珍しくちゃんと褒めますね」


「強いから」


「そのままですね」



さらに結界が狭まる。


残り32人。


20人。


15人。


戦える範囲が小さくなるほど、セレナも戦闘を避けられなくなっていった。


残り10人。


セレナは8ポイント。


レオは7ポイント。


2人ともまだ残っている。


「この2人、当たりそうですね」


俺が言う。


「ありそう」


ミアも映像を見る。


その予想はすぐに当たった。


森の中央に近い場所。


木々の間からセレナが出る。


反対側からレオ。


2人とも同時に止まった。


「あなたなのね」


セレナが言う。


「そうらしい」


レオが剣を抜く。


「ここでやる?」


「ああ」


「そう」


セレナの周囲に火が浮かぶ。


「なら、やりましょう」


レオが先に動いた。


風を使って一気に距離を詰める。


セレナが指先を振る。


火矢が5本。


角度を変えて一斉に飛んだ。


レオは風を広げる。


3本が逸れる。


残り2本を剣と身体の動きでかわす。


「速い」


そのまま距離を詰めてくる。


セレナが地面へ手を向けた。


炎の壁。


一気に立ち上がる。


レオは止まらない。


風を正面へ叩きつける。


炎が左右へ割れる。


その隙間を抜けてくる。


セレナの右手に炎が集まる。


火球じゃない。


長く。


鋭く。


大きな炎槍。


「来る」


俺が言う。


槍が一直線に飛ぶ。


レオが剣を振る。


同時に風。


炎槍の先端がわずかにずれる。


横の木へ直撃。


爆発。


幹が大きく揺れた。


「こっちはちゃんとC級って感じですね」


「何その感想」


ミアが言う。


レオはその爆発を利用するように距離を詰める。


剣の間合い。


横薙ぎ。


セレナは身体能力強化でかわす。


すぐに両手を広げる。


扇状の炎が至近距離で広がった。


レオが風をまとって後ろへ飛ぶ。


距離が空く。


「近づいても簡単じゃないですね」


「火は近距離でも強いからね」


ルークが言う。


またレオが踏み込む。


今度はセレナが先に火矢を散らす。


右。


左。


上。


レオが全部避ける。


その間に、セレナは別の魔法を作っていた。


細く収束した炎。


槍よりさらに細い。


「何です、あれ」


「貫く方に寄せてるね」


ルークが言う。


炎が放たれる。


レオが風で逸らす。


それでも完全には逸れない。


肩の横をかすめて地面へ刺さった。


小さな爆発。


レオが一瞬だけ止まる。


その隙にセレナが距離を取った。



何度か攻防が続く。


火矢。


炎槍。


炎の壁。


扇状の炎。


レオは風と剣で突破し続ける。


セレナも簡単には近づかせない。


「かなり相性いいですね」


「どっちが?」


ミアが聞く。


「お互いに」


距離を取りたいセレナ。


近づきたいレオ。


どちらかが一方的に有利という感じではない。



レオが踏み込む。


セレナが炎を正面へ放つ。


風がぶつかる。


火が横へ大きく流れた。


その瞬間。


「危ない」


俺が言った。


炎が風に乗った。


レオの正面ではなく、左右へ一気に広がる。


視界が赤く染まる。


レオからセレナが見えなくなった。


「また隠した」


ミアが言う。


最初の2人を相手にした時と似ている。


ただ今回は、蒸気じゃない。


自分の炎そのものを使って視界を奪った。


レオも気づいた。


すぐに後ろを見る。


いない。


右。


いない。


左。


その時。


炎の向こうから風が吹いた。


レオの身体が少しだけ傾く。


セレナの風だ。


ほんの一瞬。


姿勢をずらしただけ。


でも、その正面にセレナがいた。


両手の間に炎が集まっている。


今までの炎槍より太い。


でも火球ほど広くない。


一点に圧縮された、大きな炎の槍。


「来る」


ルークが言った。


炎槍が真正面から撃ち出された。


レオも風を正面へ叩きつける。


激突。


爆発。


レオの身体が後ろへ飛んだ。


地面を転がる。


でも。


消えない。


「耐えた」


俺が言う。


レオが剣を地面について立ち上がる。


「……今のは危なかった」


「まだ立つのね」


「当然だ」


セレナがまた炎を作る。


その時だった。


森の奥から土の槍が飛んできた。


2人とも反応する。


レオは横へ。


セレナは小さな炎槍で弾く。


「第三者」


「予選だからね」


ルークが言う。


さらに2人の生徒が近づいてきた。


セレナがレオを見る。


レオもセレナを見る。


「続きは?」


レオが聞く。


「あとで」


「そうだな」


2人は同時に別方向へ離れた。



残り8人。


結界はさらに縮まる。


ここからは戦闘が一気に増えた。


セレナが1人倒す。


9ポイント。


レオも別の生徒を倒す。


8ポイント。


残り6人。


別の場所で2人が戦い、1人が消える。


残り5人。


ここまで来れば、生存順位の加点も見えてくる。


「セレナ、かなり有利ですね」


「そうだと思う」


ルークが頷く。


撃破数も十分。


ここまで残っている。


本戦進出はかなり近い。


でも。


セレナは休まなかった。


「まだ行くんですね」


「セレナだから」


ミアが言う。


確かに。



残り4人。


セレナ。


レオ。


そして2人。


そのうち1人が、レオの風魔法を受けて消えた。


残り3人。


レオが息を整える。


セレナは少し離れた場所。


そしてもう1人。


土属性の男子生徒が、地面を壁にしながら2人から距離を取っていた。


結界がまた狭まる。


逃げる場所がなくなる。


最初に動いたのは、土属性の生徒だった。


地面から何本もの土槍が飛び出す。


セレナが横へ動く。


レオは風で逸らす。


次に大きな土壁。


セレナの火矢を防ぐ。


その反対側からレオの風が回り込む。


土壁の端が削れる。


セレナがそこへ炎槍を撃ち込む。


土壁を貫く。


中で爆発。


土属性の生徒が姿を消す。


残り2人。


セレナとレオ。


「またですね」


俺が言う。


2人とも少し疲れている。


レオが剣を構えた。


「今度は邪魔されないな」


「そうね」


セレナの周囲に炎が浮かぶ。


「どっち勝つと思う?」


ミアが聞く。


「難しいですね」


さっきも決着はつかなかった。


ただ。


セレナの方が魔力は少し多く残っているように見える。


レオが走る。


セレナの周囲に火矢が浮かぶ。


1本。


2本。


3本。


4本。


5本。


一斉に飛ぶ。


レオが中央を抜ける。


何本かを風で逸らす。


残りをかわす。


その先。


セレナはすでに炎槍を作っていた。


レオが踏み込む。


炎槍が飛ぶ。


風。


ぶつかる。


炎槍が崩れる。


「突破した」


でも。


それが終わりじゃなかった。


崩れた炎が、そのまま周囲に広がる。


レオの視界を覆う。


「また隠した」


次の瞬間。


セレナが炎の中から出る。


至近距離。


右手には短い炎槍。


レオが剣を上げる。


炎槍が剣とぶつかる。


風が弾ける。


セレナが左手を向ける。


今度は扇状の炎。


レオが後ろへ下がる。


その瞬間。


足元が少し盛り上がった。


土。


ほんのわずかな段差。


レオの踏み込みがずれる。


「今」


俺が言った。


セレナの両手の間に炎が集まる。


一気に圧縮される。


最後の炎槍。


今までで一番太い。


レオもすぐに風を正面へ集める。


炎と風がぶつかった。


一瞬止まる。


でも。


炎が押す。


少しずつ。


前へ。


レオの風が散った。


炎槍が胸元へ届く。


次の瞬間。


レオの姿が消えた。


森にセレナだけが残る。


第2グループ終了。


観覧席から拍手と歓声が上がった。


魔法空間が白く光る。


セレナが戻ってくる。



「お疲れさまです」


俺が言う。


「疲れた……」


「おつ」


ミアが言う。


「軽いわね」


「でも1位」


「まあね」


少し嬉しそうだ。


レオも戻ってくる。


セレナを見る。


「負けた」


「そうね」


「次は勝つ」


「本戦で当たればね」


「そのつもりだ」


悔しそうではある。


でも、この前みたいに感情的にはなっていない。


少しして、結果が表示された。



第2グループ 予選結果


1位 セレナ・エルフォード 14ポイント


2位 レオナード・ハルヴェイン 11ポイント


3位 アデル・ローレン 7ポイント


4位 マルク・フェスター 6ポイント



「14」


ミアが言う。


「ミアの22がおかしいんですよ」


「8違う」


「数えなくていいです」


セレナが結果を見る。


「本戦には行けたわね」


「1位ですよ」


「予選でしょ」


「ミアよりちゃんとしてる」


ルークが笑う。


「何よそれ」


「ミアは予選1位でもう食堂のこと考えてたから」


「食堂大事」


「ほら」



そして。


第3グループの集合が始まる。


ルークが立ち上がった。


「次、僕だね」


「ようやくですね」


「何が?」


「ルークがどう戦うのか、ちゃんと見たことないので」


「普通だよ」


「絶対それ言うと思いました」


ルークが笑う。


ミアが聞いた。


「何人倒す?」


「どうしようかな」


「いっぱい倒せばいい」


「ミアと同じ戦い方は疲れそうだからなあ」


ルークはそう言って、魔法陣へ向かって歩き出した。

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