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第69話 1人1ポイント

俺たちは観覧席へ移動し、空中に映し出された森を見上げていた。


セレナは俺の右隣。


そのさらに隣にルーク。


そして映像の中には、大きな木のそばへ転送されたミアの姿がある。


周囲を見回している。


「始まるわね」


セレナが言った。


森の各所に転送された64人。


全員の配置が終わった直後、空間全体に開始を知らせる音が響いた。


同時に、あちこちで魔法が飛び始める。


火。


風。


土。


少し離れた場所では、もう剣を抜いている生徒もいる。


「いきなりですね」


「1人倒せば1ポイントだからね」


ルークが答える。


「近くにいるなら、最初から狙う人も多いと思うよ」


ただ。


ミアは動かなかった。


木のそばに立ったまま、周囲を見ている。


「……何してるんです?」


「探してるんじゃない?」


セレナが言う。


「何を?」


「人」


その時だった。


ミアが右へ顔を向ける。


木々の間から、1人の男子生徒が出てきた。


向こうもミアに気づく。


一瞬止まった。


そして、そのまま引き返した。


「逃げましたね」


「賢い」


ルークが言う。


入学時B級。


一年生なら、ミアのことを知っている者も多い。


森の中でわざわざ正面から戦いたい相手ではないだろう。


ミアが逃げていく生徒を見る。


少し首を傾げた。


そして、追った。


「追うんですか?」


「食堂1年かかってるもの」


セレナが言う。


ミアは身体能力強化を使っているらしい。


前を逃げる生徒との差が一気に縮まる。


男子生徒が振り返った。


風魔法。


数本の風の刃が飛ぶ。


ミアが横へ動いて避ける。


止まらない。


もう一度。


今度は大きい。


ミアが片手を上げた。


雷が飛ぶと思った。


でも。


先に地面が盛り上がった。


「土?」


俺が思わず言う。


男子生徒の足元だけがわずかに持ち上がる。


踏み込みがずれた。


体勢が崩れる。


そこへ細い雷。


直撃。


次の瞬間、姿が消えた。


観覧席の近く。


魔法陣の外側に、さっきの男子生徒が転送されてくる。


近くの教師がすぐに確認へ向かった。


大きな怪我はない。


映像の中。


ミアの前に、小さな数字が一瞬だけ浮かんだ。


1。


「1ポイント」


俺が言う。


「今、土使いましたよね?」


「使ったわね」


セレナが答える。


ルークは特に驚いていない。


「前から複数属性を使えるって噂はあったでしょ」


「噂じゃなかったんですね」


「みたいだね」


ミア本人は気にした様子もなく、また歩き始めた。



隠れる気はあまりない。


むしろ、人を探しているように見える。


「嫌な予感しかしないんですけど」


「何が?」


セレナが聞く。


「ルール説明の時に言ってたでしょう」


俺は真似する。


「1人、1ポイント」


ルークが吹き出した。


「まさか」


「いや、ミアならあるわ」


セレナも否定しなかった。



それからしばらく。


予感は当たった。


ミアの前方に2人の生徒がいる。


一緒に動いているらしい。


片方は土。


もう片方は火。


向こうもミアに気づいた。


「ミア・ハーヴェルだ」


「2人でやるぞ」


声まで拾われている。


「ちゃんと協力してますね」


「正しい判断だと思う」


ルークが言う。


土壁が立つ。


その横から火が飛ぶ。


ミアが避ける。


次。


地面がせり上がり、逃げ道を塞ぐ。


そこへ火。


「いい連携ね」


セレナが言った。


ミアが一歩下がる。


足元に水が広がった。


「今度は水?」


俺が言う。


薄く広がった水で、火属性の生徒の踏み込みが滑る。


その隙にミアが横へ抜ける。


土属性の生徒が壁を作る。


今度は風。


小さな風が土煙を一気に横へ流す。


視界が開いた。


「全部使うんですね」


「軽い魔法ならね」


ルークが言う。


「でも、やっぱり雷が一番速い」


ミアが土属性の生徒へ距離を詰める。


相手が地面へ手を向ける。


間に合わない。


雷。


姿が消えた。


2ポイント。


残った火属性の生徒が一瞬止まる。


今度は逃げようとする。


ミアが片手を向けた。


風。


背中を押すように吹いた風で、相手の身体がわずかに前へ流れる。


踏ん張ろうとした瞬間。


足元に土が盛り上がる。


姿勢が崩れる。


そこへ雷。


姿が消えた。


3ポイント。


「……普通に全部使ってますね」


「雷だけじゃないのね」


セレナも少し驚いている。


ルークが笑った。


「才能ある人ってこういう感じなんだろうね」


「ルークが言うと嫌味に聞こえますよ」


「何で?」


「自分も複数使うでしょう」


「僕は練習したから」


「ミアは?」


「多分、感覚」


それはありそうだった。



予選はミアだけを映しているわけではない。


空中には複数の映像が浮かび、各所の戦闘へ切り替わっていく。


共闘する者。


木の上に隠れる者。


川沿いを移動する者。


積極的に戦う者。


ほとんど動かない者。


「本当に性格出ますね」


俺が言う。


「戦い方だけじゃないね」


ルークが森全体を見る。


「誰と戦うか。いつ逃げるか。どこで休むか。その辺も大事だと思う」


「ルークならどうします?」


「秘密」


「自分の番が後だからですか?」


「もちろん」


「ずるいですね」


「アルも最後なんだから考えればいいじゃん」


それはそうだ。


俺は森を見る。


木。


岩。


斜面。


川。


それから、地面。


俺なら――。


「アル」


セレナに呼ばれた。


「何です?」


「顔が真剣」


「ちょっと考えてただけです」


「自分の番?」


「まあ」


ルークが笑う。


「楽しみだね」


「何がです?」


「アルがどうするか」


「普通ですよ」


「それはないと思う」


失礼な。



その頃には、ミアのポイントは5まで増えていた。


表示されている中ではトップ。


「もう5人」


セレナが言う。


「まだ行きそうですね」


「行くでしょうね」


ミアは止まらなかった。


火で進路を変える。


水で足元を滑らせる。


風で体勢を崩す。


土で逃げ道を狭める。


雷も使う。


身体能力強化まで混ぜる。


見ているこっちの方が、次に何を使うのか分からない。



しばらくすると。


森の外周が光り始めた。


「結界だ」


ルークが言う。


行動できる範囲が狭まり始めたらしい。


外側にいた生徒たちが、一斉に内側へ移動し始める。


当然、人同士の距離も近くなる。


その中で。


ミアのいる方向へ4人の生徒がまとまって近づいていた。


「あれ、ミア狙ってません?」


「そうみたいね」


4人とも互いに距離を保ちながら、少しずつ包囲するように動いている。


「1人じゃ無理なら4人で、ってことかな」


ルークが言う。


ミアも気づいた。


足を止める。


正面。


右。


左。


後ろ。


完全に囲まれかけている。


その少し外側では、別の2人が戦いながらこちらへ近づいていた。


「結構まずくないですか?」


俺が言う。


4人が同時に動いた。


風。


火。


水。


土。


違う方向から一気に魔法が飛ぶ。


ミアの周囲に雷が走った。


いつもの細い雷じゃない。


一瞬で、空気が変わった。


次の瞬間。


白い光が森の一角を埋めた。


轟音。


雷が地面を走り、木々の間を一気に広がっていく。


4方向から攻撃していた生徒たちを飲み込む。


さらに、その近くで戦っていた2人まで雷の範囲に入った。


映像が白く染まる。


そして。


1人。


2人。


3人。


4人。


5人。


6人。


次々と姿が消えた。


観覧席が静かになった。


「……6人?」


俺が言う。


ルークが少し目を見開いている。


「6人だね」


「4人に狙われてたんですよね?」


「うん」


「2人増えてません?」


「近くにいたからね」


セレナが額に手を当てた。


「相変わらず火力おかしいわね……」


映像の中。


ミアの前に数字が浮かぶ。


11。


本人はそれを見て、少しだけ頷いた。


観覧席のあちこちから声が聞こえる。


「今の何だ?」


「6人消えたぞ」


「範囲広すぎない?」


「本当に一年生か?」


ミアはそんなことを知るはずもなく、普通に歩き始めた。


「……あれでまだ戦うんですね」


「魔力、かなり残ってると思うよ」


ルークが言う。


「大きかったけど、前よりずっと絞れてる」


「今ので?」


思わず聞き返す。


ルークは少し笑った。


「前だったら、もっと広かったと思う」


それは否定できなかった。



そこからも、ミアはポイントを増やしていった。


大規模な雷を何度も使うことはない。


火。


水。


風。


土。


雷。


必要なものを、その時々で使う。


身体能力強化まで混ぜる。


見ているこっちの方が、何属性を使っているのか分からなくなりそうだった。



残り人数が20人を切った頃。


ミアのポイントは14。


まだトップ。


そして映像が別の場所へ切り替わった。


1人の男子生徒が剣を振っている。


派手な魔法はない。


相手の攻撃をかわし、間合いに入り、剣を当てる。


相手が消えた。


「ディーン」


俺が言った。


ディーン・クロフォード。


入学時は俺と同じE級。


でも、剣の腕はかなり高い。


級だけなら目立たない。


けれど剣を持つと、動きの無駄がほとんどなくなる。


「まだ残ってたんですね」


「むしろ残ると思ってたわ」


セレナが言う。


ディーンの表示を見る。


ディーン・クロフォード 5


「結構倒してますね」


「剣中心でこれはすごいね」


ルークが言った。


ディーンは相手を倒したあとも追い回さない。


敵がいなければそのまま移動する。


必要以上に戦わない。


ミアとはかなり違う。



さらに結界が狭まる。


残り10人。


ミアは16ポイント。


ディーンは6ポイント。


そこから1人、また1人と減っていく。


残り5人。


ミア。


ディーン。


そして、あと3人。


戦場はかなり狭くなっていた。


1人が脱落。


残り4人。


別の場所でもう1人が倒れる。


残り3人。


ミア。


ディーン。


そしてもう1人。


最後の1人は岩場を使いながら粘っていた。


だが、結界がさらに狭まる。


逃げ場がなくなる。


ディーンが先に見つけた。


相手も剣を構える。


風魔法が飛ぶ。


ディーンがかわして前へ出る。


もう一度。


避ける。


距離を詰める。


最後は懐へ入り、剣を当てた。


姿が消える。


ディーン・クロフォード 6


残り2人。


森の中にいるのは、ミアとディーンだけだった。


「最後、この2人ですか」


俺が身を乗り出す。


「面白そうね」


セレナも映像を見る。


ルークは何も言わず、2人を見ていた。


森はもうかなり狭い。


すぐに2人は互いを見つけた。


ディーンが足を止める。


その先で、ミアも立ち止まった。


「最後はミアか」


ディーンが剣を構える。


「うん」


「遠いままだと勝てないな」


「そうだね」


ミアの周囲に雷が走る。


少し間があった。


「学食はあげない」


ディーンが一瞬黙った。


それから笑った。


「そこなのかよ」


「大事」


「知ってる」


ディーンが腰を落とす。


先に動いたのはディーンだった。


身体能力強化。


一気に距離を詰める。


ミアが雷を飛ばす。


ディーンは横へずれ、さらに前へ。


次の雷。


また避ける。


最小限の動きで軌道から外れている。


「上手い」


俺が思わず言う。


「遠距離じゃ勝ち目が薄いものね」


セレナが言った。


ディーンが剣の間合いへ入る。


横薙ぎ。


ミアが後ろへ下がる。


ぎりぎり。


「近い」


ミアが言う。


「そうしないと勝てないからな」


次の斬撃。


ミアが身体をひねってかわす。


雷を撃つ余裕を与えない。


「ディーン、本当に剣上手いですね」


「だからE級でもここまで残れるんだろうね」


ルークが言う。


ディーンがさらに詰める。


ミアが下がる。


後ろには木。


ディーンの剣が振られる。


その瞬間。


ミアの身体を巡る魔力が変わった。


身体能力強化。


一気に横へ抜ける。


ディーンの剣が空を切った。


距離が開く。


ミアが雷を撃つ。


ディーンが避ける。


次。


また避ける。


3発目。


ディーンがその間を抜けて前へ出る。


「まだ行くんだ」


セレナが言う。


ディーンが踏み込む。


その時。


ミアも前へ出た。


俺が声を出す。


逃げない。


身体能力強化で、ミアが一気に距離を詰める。


ディーンも予想していなかったのか、わずかに反応が遅れた。


剣を振る。


ミアが低く潜る。


すれ違う。


その瞬間。


細い雷がディーンの脇腹へ触れた。


バチッ。


ディーンの身体が止まる。


次の瞬間。


姿が消えた。


森に残ったのは、ミアだけだった。


予選第1グループ終了。


観覧席から大きな歓声が上がった。


魔法空間が白く光る。


ミアが魔法陣の上へ戻ってくる。



「お疲れさま」


俺たちが近づく。


「おつ」


ミアが答えた。


「最後、結構危なかったですよね」


「ディーン強い」


「ですよね」


「近いと嫌」


かなり素直な感想だった。


俺は少し気になっていたことを聞く。


「それよりミア」


「何?」


「途中のあれ、やりすぎじゃないですか?」


「どれ?」


「6人まとめて消したやつですよ」


「あれ?」


ミアは少し考える。


「範囲、抑えた」


「……あれで?」


「うん」


ミアがほんの少し胸を張った。


珍しく得意そうな顔をしている。


「効率よくした」


「ドヤ顔するところです?」


「うん」


「本人は成長したつもりなのよ」


セレナが笑う。


「実際、前より制御できてると思うよ」


ルークも言った。


「そうなんですけど……」


6人まとめて消した直後に言われると、素直に褒めにくい。


ミアは満足そうだった。



少し離れた場所では、ディーンも戻ってきていた。


大きく息を吐いてから、ミアを見る。


「最後のあれ、やられたな」


「うん」


「前に来ると思わなかった」


「だから行った」


「そういうことか」


ディーンが苦笑した。



少しして、大きな板に結果が表示された。



第1グループ 予選結果


1位 ミア・ハーヴェル 22ポイント


2位 ディーン・クロフォード 9ポイント


3位 ノア・ベルク 7ポイント


4位 エリオット・グレイン 6ポイント



ミアは17人撃破。


さらに生存順位1位の5ポイント。


合計22ポイント。


ディーンは6人撃破に、生存順位2位の3ポイント。


合計9ポイント。


「22」


ミアが言う。


「圧倒的ですね」


「あと4回」


「もう本戦の話ですか?」


「うん」


「食堂?」


「1年」


「やっぱり」


セレナが笑いながら立ち上がる。


第2グループの集合が始まっていた。


「次、私ね」


「頑張ってください」


ミアも言う。


「頑張って」


ルークが手を上げる。


「無理しないでね」


「もちろん」


セレナは魔法陣へ向かって歩いていった。


次は第2グループだった。

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