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第68話 予選のルール

大会当日。


朝から学院の訓練場周辺は、普段とは比べものにならないくらい人が多かった。


一年生だけじゃない。


上級生。


教師。


見学に来ている生徒たち。


生徒会の姿もある。


訓練場の中央には、大きな魔法陣が4つ用意されていた。


その周囲を囲むように、観覧用の席まで作られている。


「思ってたより大きいですね」


俺が言うと、セレナが頷いた。


「毎年かなり盛り上がるらしいわよ」


「そうなんです?」


「一年生全員が出るからね」


ルークが言う。


「今年は256人だっけ」


「多いですね」


「8クラスあるから」


一年生256人。


普段同じクラスにいると、そこまで人数を意識することはない。


でもこうして全員集まると、かなり多い。


「アル」


ミアが俺の袖を引く。


「何です?」


「食堂」


「まだ始まってもないですよ」


「1年」


「分かってますって」


ミアは今日もやる気らしい。


理由は相変わらずだった。



少しすると、エドガー先生が前へ出た。


周囲の声が少しずつ静かになる。


「これから一年生大会の予選を始める」


教師たちが生徒を4つの集団に分けていく。


「予選は4グループ。1グループ64人」


ざわつきが起きる。


64人。


かなり多い。


「各グループの上位4名が本戦進出だ」


本戦16人。


つまり。


64人の中から4人。


「狭いですね」


俺が言う。


「6.25パーセントくらいだね」


ルークがすぐ答える。


「すぐ出てくるのやめてもらえます?」


「簡単だから」


「そういう問題じゃないです」


ミアが小さく呟く。


「4人」


「はい」


「そこに入ればいい」


「簡単に言いますね」


「入る」


食堂1年分がかかっている。



「予選は、単純な一対一ではない」


エドガー先生が続ける。


その言葉で、さらに周囲が静かになった。


「魔法空間内で行うサバイバル形式だ」


訓練場の中央にある魔法陣が光る。


その上に、薄い霧のようなものが立ち上がった。


やがて。


空中に森の景色が映し出される。


「うわ」


誰かが声を上げた。


かなり広い。


木々。


岩。


斜面。


小さな川まである。


見た目だけなら、本物の森とほとんど変わらない。


「この魔法空間の中に64人同時に入ってもらう」


先生が説明する。


「予選中は自由に移動していい。隠れるのも、逃げるのも、戦うのも自由だ」


「共闘は?」


誰かが聞いた。


「禁止はしない」


少しざわつく。


「ただし、個人戦だということは忘れるな。最後まで仲間でいる保証はない」


それはそうだ。



「評価はポイント制」


教師の1人が大きな板を掲げる。


「相手をリタイアさせるごとに1ポイント」


そこは分かりやすい。


「さらに、生存順位によって追加ポイントが入る」


板に数字が書かれる。


「最後まで残った1位には5ポイント」


「2位は3ポイント」


「3位は2ポイント」


「4位と5位には1ポイント」


俺は少し考える。


つまり。


倒した人数だけじゃない。


どれだけ長く生き残ったかも重要。


「ポイントの合計で上位4名を決める」


エドガー先生が言う。


「同点の場合は、撃破数、生存順位、戦闘内容を順に見て判断する」


かなりちゃんとしている。


隠れているだけでは厳しい。


でも、無理に戦い続ける必要もない。


「アル」


ミアが小声で呼ぶ。


「何です?」


「1人、1ポイント」


嫌な言い方だ。


「そうですけど」


「いっぱい倒せばいい?」


「間違ってはいませんけど」


「分かった」


「何を分かったんです?」


聞かなかったことにしたい。



「それから、一番大事なことだ」


先生の声が少し強くなる。


「この予選では、一定以上のダメージを受けた時点で強制リタイアになる」


魔法空間の映像が少し変わる。


生徒の姿をした光が攻撃を受ける。


次の瞬間。


その姿が消えた。


「空間側が、実戦なら戦闘続行不能と判断した時点で外へ転送する」


「怪我は?」


誰かが聞く。


「痛みや疲労はある程度残る。ただし、致命傷になる前に魔法空間側が弾き出す」


「じゃあ、かなり本気でやれる?」


「限度はある」


先生がすぐ返す。


「明らかに殺傷目的と判断した攻撃、過剰な追撃は禁止。違反した場合は失格だ」


当然だ。


「リタイアした者は、その時点で予選終了。それまでに獲得したポイントは残る」



エドガー先生が森の映像を指した。


「もう1つ」


森の外周に、薄い光の壁が現れる。


「時間が経つにつれて、行動できる範囲は狭くなる」


「狭くなる?」


セレナが小さく言う。


「最初は森全体を使える。だが一定時間ごとに外側から結界が縮まり、戦える区域が狭くなっていく」


映像の中で、光の壁がゆっくり森の中心へ近づいていく。


「結界の外に取り残された場合は?」


誰かが聞いた。


「すぐに失格にはならない」


先生が答える。


「ただし、外側にいる間は継続的にダメージ判定が入る。長く残れば、そのまま強制リタイアだ」


「じゃあ、ずっと隠れてるのは無理ってことですか?」


「ああ」


エドガー先生が頷く。


「予選は最後の1人になるまで続く。逃げ続けるのも戦術だが、最後まで誰とも会わずに済むと思うな」


なるほど。


時間が経てば、嫌でも生徒同士の距離が近くなる。


序盤は広い森。


終盤になるほど戦場そのものが狭くなっていく。


「アル」


ルークが小声で言う。


「何です?」


「最後の方、結構面白そうだね」


「見る側はでしょう」


「やる側もじゃない?」


「俺は嫌ですよ」


「でも最後のグループだよ?」


「まだ決まってないでしょう」


「もう順番出てるよ」


「え?」



「なお、予選は1グループずつ行う」


エドガー先生が続けた。


「他のグループの生徒は観戦可能だ。先に行われた戦いを見るのも勉強になる」


その言葉で、空気が少し変わった。


先に戦う方は、後のグループに全部見られる。


逆に。


最後に戦うグループは、先の3組を見てから入れる。



「順番を発表する」


名前が呼ばれていく。


第1グループ。


ミア。


「最初」


「ですね」


本人は特に気にしていない。


第2グループ。


セレナ。


「私、次ね」


第3グループ。


ルーク。


「僕は3番目か」


そして。


第4グループ。


俺の名前が呼ばれた。


その少し後。


「リシア・フェルド」


俺は顔を上げた。


「リシアさんも一緒ですね」


「そうみたいだね」


ルークが言う。


少し離れた場所にいたリシアと目が合った。


リシアは軽く頭を下げる。


俺も返した。


「最後ですね」


「全部見られるじゃない」


セレナが言う。


「逆に全部見れますよ」


「アル向きかもね」


ルークが笑う。


「何がです?」


「人の戦い方見るの好きでしょ」


「好きというか、見ちゃうだけです」


「同じじゃない?」


違う気もする。



第1グループの生徒たちが、魔法陣の前へ移動していく。


ミアもその中に混ざっている。


「ミア」


俺が声をかける。


「何」


「無茶しないでくださいね」


「しない」


「本当に?」


「食堂あるから」


「理由が違うんですよ」


セレナが笑う。


「頑張って」


「うん」


ルークも手を振る。


「見てるよ」


ミアが頷いた。


そして。


魔法陣の上へ立つ。



教師が確認する。


64人。


全員揃った。


「開始と同時に、それぞれ別の位置へ転送される」


エドガー先生が最後に言う。


「転送が完了した時点で戦闘開始だ」


周囲が静かになる。


魔法陣の光が強くなる。


ミアの姿が一瞬だけこちらを向いた。


「ミア」


「何?」


「優勝しても食べ過ぎないでくださいね」


「無理」


「まだ優勝してませんよ」


次の瞬間。


64人の姿が消えた。



空中に大きな映像が浮かび上がる。


森。


その中に、64人がそれぞれ別の場所へ現れる。


俺たちは観覧席へ向かった。


予選第1グループが始まる。

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