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第66話 一年生大会

翌朝。


昨日の夜、少しだけと言いながら結局かなり長くルークと訓練してしまった。


身体能力強化までやったせいで、脚に少し疲れが残っている。


「眠そう」


席に着いた俺を見て、ミアが言った。


「ちょっとだけ」


「夜更かし?」


「訓練してました」


「1人で?」


「途中からルークと」


ミアがルークを見る。


「夜もやってるの?」


「たまにね」


「昨日は結構遅くまでやってましたよね」


「アルも最後までいたでしょ」


「誘ったのルークじゃないですか」


「帰ってもよかったよ?」


「それ言われると俺が悪いみたいになるんですよ」


セレナが呆れたように俺たちを見る。


「授業中に寝ないでよ」


「そこまでは眠くないです」


「アル」


ミアが言う。


「何です?」


「今日もやる?」


「何でミアまで参加する気なんですか」


「暇だったら」


「そのくらいなんですね」


「うん」


やる気があるのかないのか、相変わらず分かりにくい。



朝の授業が始まる少し前。


エドガー先生が、いつもより大きな紙を持って教室へ入ってきた。


教壇の横に貼る。


「授業の前に連絡がある」


紙の一番上には、大きな文字が書かれていた。


一年生。


大会。


「今年も一年生大会を行う」


教室が一気に騒がしくなった。


「やっとか」


「いつ?」


「全員出るの?」


周囲から声が上がる。


どうやら知っていた生徒も多いらしい。


「静かにしろ」


エドガー先生が言う。


少しして声が収まった。


「開催は約1か月後。参加するのは一年生全員だ」


「全員?」


思わず口に出た。


先生がこちらを見る。


「そうだ。基本的に辞退は認めない」


「俺もですか?」


「お前も一年生だろ」


「そうですけど」


「なら出ろ」


逃げ道はなさそうだ。


セレナが小声で言う。


「何で嫌そうなのよ」


「目立つじゃないですか」


「レオとあれだけやっておいて今さら?」


「好きで目立ったわけじゃないですよ」


少し離れたところでレオがこっちを見た。


聞こえていたらしい。


目が合う。


レオは少しだけ笑った。


前なら違う反応だった気がする。



「大会は個人戦だ」


先生が説明を続ける。


「学院内の訓練場を使い、予選と本戦に分けて行う。細かな組み合わせや規則は後日発表する」


「武器は?」


誰かが聞く。


「学院で許可されている訓練用武器。魔法も使用可能。ただし、危険と判断された攻撃は禁止する」


「級は関係ないんですか?」


別の生徒が聞いた。


「関係ない」


先生は即答した。


「これは級を決める試験じゃない。今の自分が、同じ一年生の中でどこまで戦えるかを見るためのものだ」


その言葉で、少し空気が変わった。


級。


入学した時から何度も聞いてきた。


俺はE級。


セレナはC級。


ミアはB級。


ルークはC級。


でも、実際の戦い方まで同じように並ぶわけではない。


レオとの勝負でも、それは分かった。


「順位も出るんですか?」


「出る」


また教室がざわつく。


「上位は学院内でも記録に残る。今後の実技評価にも参考程度には使われる」


「優勝したら何かある?」


誰かが聞いた。


「ある」


先生が手元の紙を見る。


「優勝者には、実技系の一部授業について免除を申請できる権利が与えられる」


「本当に?」


「ただし、成績や担当教師の判断次第だ。好き勝手に休めるわけじゃない」


少しだけ残念そうな声が上がる。


「それから」


先生が続ける。


「学院食堂を1年間、無料で利用できる」


ミアが顔を上げた。


「……1年?」


教室の何人かが笑った。


先生もミアを見る。


「そうだ。1年間だ」


「全部?」


「通常の食事の範囲ならな」


ミアが少し姿勢を正した。


さっきまで大会にそこまで興味があるようには見えなかったのに。


「準優勝は半年。3位は3か月だ」


「優勝する」


ミアが小さく言った。


俺は隣を見る。


「さっきまでそんなやる気なかったですよね?」


「今決めた」


「食堂で?」


「1年」


「そこまで大事なんですか」


「かなり」


セレナが笑う。


「分かりやすいわね」


「毎日食べられる」


「今も毎日食べてるでしょう」


「無料」


「そこなんですね」


ルークも笑っている。


「ミア、急に強敵になったね」


「最初から強い」


「それもそうだね」


本人はもう完全に優勝するつもりらしい。



「ほかにも上位者には訓練施設の優先利用などがある。詳細は後日掲示する」


エドガー先生が説明を締める。


「目的は順位だけじゃない。自分より上の相手と戦うことも、普段戦わない相手を見ることも経験になる」


教室を見回す。


「1か月ある。出る以上は準備しておけ」


説明が終わり、授業が始まる。


ただ、教室の空気はいつもと少し違っていた。


誰が強い。


誰と当たりたくない。


誰なら勝てる。


そんな話が、休憩に入るたびに聞こえてくる。


昼休みには、もう勝手な予想まで始まっていた。


「やっぱりミアじゃないか?」


「B級だもんな」


「でもルークも強いだろ」


「レオナードもいる」


「セレナもC級だぞ」


「この前のアルベルト見ただろ」


俺の名前まで聞こえた。


聞こえなかったことにした。


「アル」


ミアが俺を見る。


「何です?」


「呼ばれてる」


「聞こえてません」


「聞こえてる顔」


「放っておいてください」


セレナが笑う。


「もう諦めたら?」


「何をです?」


「目立たない学院生活」


「まだ諦めてません」


「無理だと思う」


ミアまで言う。


「ミアは味方じゃないんですか」


「違う」


「即答しないでくださいよ」


ミアはそのまま食事を続ける。


しばらくして、俺が聞いた。


「本当に優勝狙うんです?」


「うん」


「食堂のために?」


「うん」


迷いがない。


「授業免除は?」


「別に」


「そっちはどうでもいいんですね」


「食堂1年」


「分かりました」


理由はともかく、今まで見た中で一番やる気のあるミアかもしれない。



食事を終え、教室へ戻ろうとしたところで声をかけられた。


「アルベルト」


振り返る。


リシアだった。


「リシアさん」


「大会の話、聞きましたか?」


「さっき説明されました」


「そうですか」


リシアは少しだけ俺を見る。


「楽しみにしています」


「何をです?」


「あなたの戦い方です」


前にも似たことを言われた。


生徒会の点検を手伝った時だったか。


「そんな大したものじゃないですよ」


「そうでしょうか」


「そうですよ」


「私はそう思いません」


真面目な顔で言われると困る。


「この前のレオナードとの勝負も見ました」


「あれは近づいただけです」


「剣を持っている相手に?」


「近づいた方がやりやすかったので」


リシアが少し考える。


「やっぱり面白いです」


「面白い?」


「はい」


そこだけ言って、リシアは軽く頭を下げた。


「では、大会で」


「あ、はい」


去っていく。


俺はその背中を見送った。



「狙われてるね」


隣から声がした。


ルークだった。


「何がです?」


「大会」


「嫌な言い方しないでください」


「リシアは強いよ」


「知ってるんです?」


「剣ならかなりね」


「へえ」


生徒会書記としての姿しかあまり見ていない。


真面目で、規則に厳しくて。


それくらいだ。


「ルークは戦ったことあるんです?」


「ないよ」


「なのに分かるんですか?」


「見ればある程度は」


「便利ですね」


「アルもそのうち分かるよ」


「またそれですか」


ルークが笑った。



放課後。


訓練場へ行くと、いつもより明らかに人が多かった。


普段ならすぐ帰る生徒まで残っている。


剣を振る者。


魔法を撃つ者。


身体能力強化を練習する者。


「みんな分かりやすいですね」


俺が言う。


「アルも来てるじゃない」


セレナが言った。


「俺は普段から来てます」


「今日はいつもより早かった」


「……たまたまです」


「大会気にしてる」


ミアが言う。


「少しだけですよ」


ミアはそのまま訓練場へ入っていく。


「ミアも今日はやるんですね」


「やる」


「昼までと全然違いますね」


「食堂1年」


まだ言っている。


セレナが笑いながらそのあとを追った。


「理由はともかく、やる気があるならいいんじゃない?」


ルークも続く。


「ミアが本気なら大変そうだね」


「他人事みたいに言わないでください。ルークも出るんでしょう」


「もちろん」


「優勝狙います?」


ルークは少し笑った。


「できるところまで」


「それ、一番信用できない答えです」


「何で?」


「絶対もっと考えてるからですよ」


ルークは答えず、訓練場へ入っていった。


俺もそのあとを追う。


1か月後。


どうなるかは分からない。


ただ。


食堂1年無料を知ったミアだけは、いつもより少し本気らしかった。

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