↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/92

第64話 一般開放

学院へ戻ってから数日。


朝の授業が始まる前。


教室に入ると、いつもより少し騒がしかった。


「何かあったんですか?」


席に着きながらセレナへ聞く。


「聖剣のことよ」


「聖剣?」


「一般にも開放されるらしいわ」


少し離れた席でも、同じ話をしている。


「本当に誰でも触れるようになるのか?」


「そう聞いたけど」


「じゃあ俺も行ってみようかな」


「お前が抜けたら驚くわ」


かなり広まっているらしい。


「決まったんですか?」


「まだ詳しい条件までは知らないけど、今までよりかなり広げるみたい」


そこへルークが教室へ入ってきた。


「おはよう」


「おはようございます」


ルークが席へ向かう途中で、セレナが呼び止める。


「ルーク。聖剣の一般開放って知ってた?」


「うん」


返事が早い。


「知ってたんですか?」


「昨日決まったみたいだよ」


「相変わらず情報早いですね」


「家にも話が来るからね」


ミアも教室へ入ってくる。


俺たちのところまで来ると、鞄を置いた。


「何の話?」


「聖剣が一般にも開放されるんですって」


セレナが答える。


「誰でも?」


「そうみたい」


ミアが少し考える。


「人、増える?」


「相当増えるんじゃない?」


ルークが言う。


「じゃあ、出店も増える?」


「最初に気になるのそこなんですか?」


「大事」


またそれだ。


「そういえば」


近くで話を聞いていた生徒が振り返った。


「もうあの街、聖剣目当ての客ですごいらしいぞ」


「俺たちが行った時もかなりいましたよ」


「今はもっとだって。宿も埋まり始めてるって聞いた」


別の生徒も話に入ってくる。


「なんかもう観光地みたいになってるらしいな」


「観光地?」


俺が聞き返す。


「聖剣を見に来るだけの人も多いんだって。屋台も増えてるし、聖剣の絵が入った菓子まで売ってるとか」


ミアが顔を上げた。


「菓子」


「そこだけ拾わないでください」


「どんなの?」


「知らないよ」


「今度行く?」


「もう一回行く前提なんですか?」


「増えてるなら」


聖剣より、完全にそっちが目的になっている。


セレナが苦笑した。


「でも、分からなくもないわね。実際に聖剣を見られるなんて、普通は一生ないでしょうし」


「抜けなくても見るだけで来る人はいますよね」


「それに、誰かが抜く瞬間を見られるかもしれない」


ルークが言った。


確かに。


いつ抜けるか分からないなら、それを目当てに滞在する人も出てきそうだ。


「街の人は嬉しいでしょうね」


「商売してる人はね」


ルークが笑う。


「宿、食事、馬車、出店。人が来ればお金も落ちるから」


「テオ先輩なら喜びそうですね」


「絶対何か考えてそう」


セレナが言う。


ありそうだ。



「でも急ね」


セレナが話を戻した。


「あれだけ貴族や軍人を優先してたのに」


「見つからないからじゃない?」


ルークが答える。


「有力そうな人を順番に試しても誰も抜けない。X級1位まで駄目だったんだから、今の強さを基準に探す意味も薄くなってきたんでしょ」


「それはそうですけど」


俺は数日前のことを思い出す。


聖剣を管理していた職員も、対象を広げる話は出ていると言っていた。


ただ。


「警備とか、人を増やす費用が大変って言ってませんでした?」


「その辺も何とかなったみたいだよ」


ルークがあっさり答える。


俺はルークを見る。


「……ルーク」


「何?」


「この前、寄付の話をしに戻りましたよね」


「戻ったね」


「また寄付しました?」


「したよ」


そこは否定しないらしい。


「どれくらい?」


「ちょっと」


「前にもそれ聞きました」


「じゃあ、そこそこ」


「増えましたね」


セレナもルークを見る。


「まさか一般開放の費用まで出したんじゃないでしょうね」


「僕1人で全部出したなんて言ってないよ」


「全部じゃないだけで出してるのね」


「さあ?」


笑っている。


かなり怪しい。


ミアがルークを見る。


「出店にも?」


「それは出してないよ」


「残念」


「何で僕が出店まで出さなきゃいけないの?」


「増える」


「勝手に増えると思うよ」


「ならいい」


満足したらしい。



そこへエドガー先生が入ってきた。


騒いでいた生徒たちが席へ戻る。


先生は教壇の前に立つと、教室を見回した。


「授業の前に1つ」


何となく内容が分かった。


「すでに噂を聞いている者もいると思うが、先日発見された聖剣について、挑戦できる対象を広げることが正式に決まった」


教室がざわつく。


「誰でもですか?」


誰かが聞いた。


「基本的にはな」


「学院の生徒も?」


「行くのは自由だ。ただし授業を休んでまで行くな。休日にしろ」


何人かが笑った。


「これまでは貴族、軍人、高位の冒険者など、現在の実績を基準に候補が選ばれていた」


先生が続ける。


「だが、それで使い手が見つかっていない。今後は身分や現在の級にかかわらず、希望者を受け付ける方向で準備が進められる」


「平民でも?」


「当然だ」


先生は即答した。


「聖剣が何を基準に使い手を選ぶのか分かっていない以上、こちらの都合で候補を狭める理由はない」


その言葉には納得できる。


俺たち4人だって全員抜けなかった。


それどころか、世界で1番強い人間まで失敗している。


強い順に試すだけでは駄目なのだろう。



「ただし」


エドガー先生が少し声を強める。


「一般開放が決まったからといって、明日から好き勝手に触れるわけではない」


騒いでいた教室が少し静かになる。


「すでに現地はかなり混雑している。見物客だけでも相当な数らしい」


「観光地みたいになってるって聞きました」


前の方の生徒が言う。


先生が少し嫌そうな顔をした。


「……その噂も聞いている」


教室に笑いが起きる。


「笑い事ではない。宿泊客も増え、露店や商人まで集まり始めているそうだ。一般開放となれば、さらに人が増える」


あの街の様子を思い出す。


俺たちが行った時ですら人は多かった。


あれ以上となると、かなりすごいことになりそうだ。


「だから警備体制、順番の管理、挑戦者の受付方法などを整えてから開始する。行くつもりの者は正式な発表を待て」


「先生はやらないんですか?」


誰かが聞いた。


「やらん」


「即答」


「今の話を聞いてなかったのか。俺より遥かに強い人間が何人失敗したと思ってる」


また笑いが起きる。


「まあ、一般開放が始まれば好きに試せ。ただし旅行気分で羽目を外すなよ」


先生が言う。


その横でミアが小さく呟いた。


「旅行」


嫌な予感がした。


「ミア」


「何」


「今、何考えました?」


「何も」


「出店ですよね」


「違う」


「じゃあ何です?」


「聖剣」


少し間があった。


「嘘下手ですね」


「聖剣も見る」


「“も”って言いましたよ」


セレナが吹き出した。



授業が終わったあと。


ルークが席を立とうとしたところで、俺は声をかけた。


「ルーク」


「何?」


「一般開放、本当に偶然です?」


「何が?」


「俺たちが行った時、費用が問題って話をしてましたよね」


「してたね」


「そのあとルークが残って寄付の話をした」


「したね」


「数日後に一般開放が決まった」


「決まったね」


「……怪しい」


「何が?」


全部だ。


セレナも横から入る。


「あなた、何て言ったの?」


「普通に、もっと広く探した方がいいんじゃないですかって」


「それだけ?」


「それだけだよ」


「本当に?」


「うん」


笑っている。


信用しにくい。


「いくら出したんです?」


俺が聞く。


「それは秘密」


「やっぱり結構出してるじゃないですか」


「秘密って言っただけだけど?」


「少額なら普通に言えますよね」


ルークは答えなかった。


代わりに鞄を持ち上げる。


「次の授業行こうか」


「逃げましたね」


「遅れるよ」


「絶対逃げた」


セレナが言う。


ミアも頷く。


「逃げた」


「3対1はずるくない?」


そう言いながら、ルークは笑って教室を出ていった。



その日の昼休み。


食堂でも聖剣の話は続いていた。


一般開放されたら行くという生徒。


一度見に行きたいだけという生徒。


もう一度挑戦したいという生徒。


そして。


「聖剣の形したパンが売ってるらしい」


そんな話まで聞こえてきた。


ミアの動きが止まった。


「……アル」


「行きませんよ」


「まだ何も言ってない」


「分かります」


「パン」


「やっぱり」


「聖剣も見る」


「もう見たでしょう」


「一般開放されたら変わってるかも」


「剣は変わらないと思いますよ」


ミアは少し考えてから、食事を続けた。


諦めたようには見えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。