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第62話 聖剣

人の流れに沿って歩いていくと、通りの先に大きな石造りの建物が見えてきた。


神殿というほど豪華ではない。


むしろ、古い遺跡の周囲をあとから整備したような造りだった。


「あそこ?」


俺が聞く。


「そう」


ルークが答える。


建物の前には柵が設置され、その外側にはかなりの人が集まっている。


見物人だけでも多い。


聖剣へ挑戦するために来たらしい人もいるが、全員が中へ入れるわけではないようだった。


入口の近くでは兵士たちが人の流れを整理している。


「思ってたよりすごいわね」


セレナが周囲を見る。


「そりゃそうでしょ。聖剣だし」


ルークはいつも通りだった。


俺たちが近づいていくと、受付にいた中年の男性がこちらを見た。


その視線がルークで止まる。


「ああ、ルーク様」


「こんにちは」


「本日はどうされました?」


「友人を連れてきたんです。3人とも試させてもらえますか?」


男性は俺たちを見る。


「もちろんです。少々お待ちください。中の順番を調整します」


「あ、すぐ入れるんですね」


俺が思わず言う。


男性が少し笑った。


「ルーク様には発掘の段階からかなりご支援いただいておりますので」


俺はルークを見る。


「かなり?」


「まあ、少しね」


「今かなりって言われてましたけど」


「人によって基準は違うから」


「便利ですね、それ」


セレナも少し呆れたようにルークを見る。


「寄付してたって話、本当に結構な額だったんじゃないの?」


「発掘ってお金かかるからね」


「答えてないわよ」


「そう?」


ミアがルークを見る。


「いっぱい?」


「そこそこ」


「いっぱいだ」


「ミアまで」


ルークが笑う。


受付の男性が書類を確認しながら言った。


「ルーク様は発見直後にも一度挑戦されていますし、その際も優先してご案内しております」


「やっぱりもう来てたんですね」


「言ったでしょ」


「その時もすぐ?」


「寄付してたから、少し早めに見せてもらえたんだよ。それに名のある貴族は、だいたい一度は抜きに来させられるしね」


「来させられるんですか」


「聖剣だからね」


それだけで話が通じるらしい。


少しすると、奥から別の職員が出てきた。


「準備できました。こちらへどうぞ」


思っていたより早い。


外にはあれだけ人がいるのに。


寄付というのは本当に強いらしい。



中へ入る。


建物の中は、外から見るより広かった。


壁や床は整備されているが、奥へ進むほど古い石が増えていく。


遺跡そのものを残したまま、周囲だけ使えるようにしたらしい。


「この辺りが元々の遺跡?」


セレナが聞く。


「そうですね」


案内している職員が答える。


「聖剣が見つかったのは、さらに奥です」


「どれくらい掘ってたんです?」


「長いですよ。途中で予算が尽きかけたことも何度かありました」


その言葉に、俺はまたルークを見る。


「何?」


「いや」


「寄付の話?」


「してません」


「顔に出てるよ」


それなら言う。


「ルークが止めなかったんですね」


「せっかく掘ってたからね」


「その結果が聖剣ですか」


「運がよかった」


また軽く言う。


でも、聖剣が出るまで掘らせたという事実だけ考えると、結構すごいことをしている気がする。



しばらく進むと、開けた場所へ出た。


中央だけ天井が高い。


古い石床の真ん中に、台座がある。


そして。


そこに剣が刺さっていた。


「……あれ?」


思わず声が出る。


もっと派手なものを想像していた。


光っているとか。


周囲にものすごい魔力が満ちているとか。


そういうものを。


でも、見た目だけなら意外と普通だった。


長い間地中にあったはずなのに、刃や柄が傷んでいない。


それくらいだ。


「聖剣」


ミアが言った。


「ですね」


「普通」


「俺も思いました」


「失礼よ」


セレナが小声で言う。


「もっと光ってると思いません?」


「分からなくはないけど」


台座の周囲には警備の兵士と、管理を担当しているらしい職員が何人かいる。


順番を待っている人もいた。


貴族らしい服装の人。


騎士らしい人。


冒険者らしい人。


見たところ、普通の見物客とは少し違う。


「今はまだ誰でも試せるわけじゃないんですよね?」


俺が聞く。


「はい」


案内していた職員が頷く。


「発見されてからは、まず候補になりそうな方を優先しています」


「候補?」


「名のある貴族、軍人、高位の冒険者、それから各地で実績のある方などですね」


「強い人から試してるんですね」


「最初はそうなります」


ただ、それでも抜けていない。


「かなりの人数が試したんですか?」


セレナが聞く。


「ええ。かなり」


「X級1位も?」


「はい」


職員は迷わず答えた。


「《魔族キラー》も挑戦されています」


やっぱり本当だった。


「それでも抜けなかったんですよね」


「はい」


「じゃあ、今の強さはあまり関係ないんでしょうか」


「そう考える者は増えています」


職員が聖剣を見る。


「過去の記録でも、聖剣に選ばれた時点で最強だった者ばかりではありません。選ばれた後に大きく力を伸ばした例もあります」


「じゃあ、どうやって選んでるの?」


ミアが聞く。


職員が苦笑する。


「それが分かれば苦労しないのですが」


「確かに」


ミアは納得した。



少し離れたところで、1人の男が挑戦していた。


両手で柄を握る。


力を込める。


動かない。


さらに力を入れる。


それでも剣はびくともしなかった。


男はしばらく粘ったあと、諦めて手を離した。


次の人も同じだった。


「本当に全然動かないんですね」


「僕もそうだったよ」


ルークが言う。


「あ、ルークもやったんでしたね」


「うん」


「どんな感じでした?」


「普通に抜けなかった」


「それだけ?」


「それだけ」


ミアがルークを見る。


「力入れた?」


「入れたよ」


「本気?」


「本気」


「見たかった」


「何を?」


「ルークが必死に引っ張ってるところ」


セレナが吹き出した。


「ちょっと分かるわ」


「ひどくない?」


「私も」


「ミアまで?」


ルークが肩をすくめる。



少し待ったところで、職員に呼ばれた。


「では、まずお1人どうぞ」


3人で顔を見合わせる。


「私から行くわ」


セレナが一歩前に出た。


「いいんです?」


「誰かが最初にやらないと進まないでしょ」


「それもそうですね」


セレナが台座の前に立つ。


柄を握る。


少し力を入れる。


動かない。


もう一度。


今度は両手。


それでも変わらなかった。


「……本当に動かないのね」


セレナが手を離す。


「どうでした?」


「普通の剣を引っ張ってる感じ。でも、全然動かない」


「次」


ミアが前へ出る。


早い。


「ミア、こういう時だけ積極的ですね」


「気になる」


「出店ほどじゃないでしょう?」


「比べるものじゃない」


そう言いながら台座へ立つ。


柄を握る。


引く。


動かない。


「もう1回」


「何回やってもいいですよ」


職員が少し笑う。


ミアはもう一度引いた。


やっぱり動かない。


「駄目」


「残念でしたね」


「うん」


そこまで残念そうでもない。


「じゃあ、最後はアルね」


セレナが言った。


「やっぱり俺ですか」


「3人しかいないんだから、そうなるでしょ」


「確かに」


ルークを見る。


さっきまでと同じ顔で笑っている。


「アル」


「何です?」


「頑張って」


「だから、力で抜くものじゃないでしょう」


「でも、抜けるかもしれない」


「まだ言ってるんですか」


「なんとなくね」


「その『なんとなく』、信用できないんですよ」


ルークは笑った。


でも。


ほんの少しだけ。


さっきまでより、俺を見る目が真剣に見えた。


気のせいかもしれない。


俺は台座の前へ進む。


近くで見ると、やっぱり不思議な剣だった。


古い遺跡から出てきたはずなのに、汚れもほとんどない。


柄にも錆びた様子はない。


「そのまま握って、引き抜いてください」


職員が言う。


「魔力とかは?」


「特別なことは必要ありません。自然にしていただければ」


「分かりました」


右手を伸ばす。


柄に触れる。


冷たい。


それ以外は、普通だった。


俺は聖剣を握った。

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