↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
57/92

第57話 生徒会室

レオナードとの模擬戦から2日。


思っていたより、教室で声をかけられることが増えた。


「アル、あの時どうやって避けてたんだ?」


「普通に見て避けただけですけど」


「普通じゃなかっただろ」


「土魔法で足元を動かしたのって、どれくらい?」


「少しです」


「だから、その少しがどれくらいなんだよ」


「測ってないので分かりません」


そんなやり取りを、朝から何度か繰り返している。


級の話を聞かれることもあった。


本当にE級なのか。


どうしてE級なのか。


俺に聞かれても、入学時にそう評価されたとしか答えようがない。



「人気者」


昼休み。


ミアがパンを食べながら言った。


「ルークに言ってください」


「僕?」


ルークが顔を上げる。


「比べる相手が悪い」


セレナが言う。


「俺は別に人気が出たわけじゃないですよ。珍しがられてるだけです」


「似たようなものじゃない?」


「全然違います」


ルークの場合は女子生徒から声をかけられる。


俺の場合は、


『本当にE級?』


『なんで剣捨てたの?』


『もう1回投げてみて』


だ。


全然違う。



「投げて」


ミアが言った。


「嫌ですよ」


「なんで?」


「食堂です」


「あとで」


「ミアまで何なんですか」


「見たい」


「この前見てたでしょう」


「もう1回」


「人を見世物みたいに」


ミアは気にせずパンを食べ続けた。



「アルベルト」


後ろから名前を呼ばれた。


振り返る。


リシア・フェルドが立っていた。


「少しいいですか?」


「何です?」


「放課後、生徒会室まで来てもらえませんか?」


「また何かしました?」


「どうして最初にそれを聞くんです?」


「前に呼ばれた時がそうだったので」


「今回は違います」


「ならよかったです」


リシアが少し眉を寄せた。


「その反応もどうかと思いますけど」


「アル、怒られてる」


ミアが言う。


「まだ怒られてませんよ」


「今から」


「何で決めつけるんですか」


リシアが小さく息を吐いた。


「最近、あなたのことを聞いた会長が、一度話してみたいそうです」


「俺のこと?」


「模擬戦だけじゃありません。地面の状態や距離、細かい変化によく気づくらしいと聞いたそうです」


どこからそんな話が広がったんだろう。


「分かりました」


「放課後です。忘れないでくださいね」


「行きますよ」


リシアはまだ少し疑わしそうだった。



放課後。


俺が教室を出ようとすると、ミアがついてきた。


「ミアも訓練場行くんじゃないんですか?」


「あとで」


「俺、生徒会室ですよ?」


「知ってる」


「何でついてくるんです?」


「気になる」


「何が?」


「生徒会」


少し意外だった。


「興味あるんですか?」


「少し」


それなら別に止める理由もない。


セレナとルークは先に訓練場へ向かうらしい。


俺とミアは本館2階の生徒会室へ向かった。



扉を叩く。


「どうぞ」


中から声がした。



扉を開ける。


思っていたより普通の部屋だった。


大きな机。


何個かの棚。


壁際には書類の束。


中央の長机には3人の生徒がいた。


リシア。


柔らかい雰囲気の女子生徒。


そして、その向かいに座っている男子生徒。



「来ましたね」


リシアが言う。


「はい」


それから俺の後ろを見る。


「……ミアも?」


「うん」


「呼んだのはアルベルトだけなんですが」


「見学」


「まあ、邪魔しないなら構いませんけど」


ミアが頷いた。



男子生徒が立ち上がった。


「君がアルベルト?」


「はい」


「初めまして。テオ・マルセル。2年生で、生徒会長をやってる」


「アルベルトです。よろしくお願いします」


「知ってるよ。今日は僕が呼んだんだから」


テオ先輩が笑う。


名前は知っていた。


今の学院で一番強い生徒。


そんな話を聞いたことがある。


もっと近寄りがたい人を想像していたけど、目の前の本人は普通に笑っていた。



「学院の中じゃ身分も関係ないし、そんな固くならなくていいよ」


「分かりました」


「敬語はそのままなんだ」


「こっちの方が楽なので」


「ああ、そういうタイプか」


妙に納得された。



隣の女子生徒も立ち上がる。


「私はエレナ・ルーシェ。同じく2年生で、副会長をしています。よろしくね」


ルーシェ公爵家。


その名前はさすがに知っていた。


「よろしくお願いします」


「ミア・ハーヴェル」


ミアも短く名乗った。


「よろしく、ミア」


「うん」



「今日は他の生徒会の人はいないんですか?」


俺が聞く。


「今は別の仕事で出てるよ」


テオ先輩が答えた。


「他の役員はみんな3年生なんだ」


「そうなんですね」


「この3人だけってわけじゃないですよ」


リシアが付け足す。


「なるほど」



テオ先輩が俺を見る。


「最近、ちょっと噂になってるね」


「模擬戦ですか?」


「それもある」


テオ先輩は机に肘をついた。


「E級なのに妙に強い。土魔法の使い方が変。距離感がおかしいくらい正確。それと、地面とか通路とか、細かいところによく気づくらしい」


「最後の方は誰から聞いたんです?」


「先生とか、生徒とか色々」


思ったより見られているらしい。



「それで」


テオ先輩が少し笑う。


「いきなりなんだけど、生徒会に入らない?」


「嫌です」


一瞬、部屋が静かになった。


テオ先輩が瞬きをする。


「即答?」


「仕事増えそうなので」


エレナ先輩が口元を押さえて笑う。


リシアは額に手を当てた。


「もう少し考えません?」


「考えても同じだと思います」


「正直だなあ」


テオ先輩は怒るどころか、むしろ楽しそうだった。


「まあ、無理にとは言わないよ」


「ありがとうございます」


「じゃあ、本題」



テオ先輩が机の上に紙を広げる。


学院内の訓練場や通路、倉庫などの名前が並んでいる。


「今度、実技設備の点検をするんだ」


「点検?」


「訓練場の柵、標的、地面の状態、通路、倉庫。壊れてるところがないか確認する」


「先生がやるんじゃないんですか?」


「もちろん先生たちも見る。ただ、生徒が普段使ってて気づくこともあるからね」


なるほど。



「それで、細かいところを見るのが得意らしい君に手伝ってほしい」


「俺が?」


「うん」


「生徒会じゃないですけど」


「だから正式に頼んでる」


テオ先輩はあっさり言った。


「タダでやってもらうつもりもないよ」


その言葉に、ミアの視線が少し動いた。



テオ先輩が机の引き出しを開ける。


中から1枚の厚い紙を取り出した。


「これ」


机に置く。


装飾された招待券のようなものだった。



「実家が商売をやっててね。取引先からもらったんだけど、僕はなかなか行く機会がなくて」


「商売?」


「父が商人なんだ。店だけじゃなくて、いくつか事業もやってる」


かなり大きく商売をしているらしい。



テオ先輩が券を指で軽く叩いた。


「学院から馬車で2時間かからないくらいの街に、《ラ・メルシエ》っていう有名なレストランがあるんだ。予約がなかなか取れない店でね」


ミアの視線が完全に招待券へ移った。


「招待券だから、何人で行ってくれてもいいよ」


「どんな店?」


ミアが口を開いた。


「肉料理も魚料理もある。菓子もかなり有名らしい」


ミアの目が少しだけ変わった。


「行く」


「ミア?」


「アルがやるから、任せて」


そう言って、ミアはテオ先輩に向かって親指を立てた。



「いや」


俺はミアを見る。


「点検するの俺ですよね?」


「うん」


「何でミアが返事するんですか」


テオ先輩が笑いを堪えている。


「じゃあ、交渉成立でいいのかな?」


「まだ俺は何も――」


「成立」


ミアがもう一度親指を立てた。


「ミア」


「任せて」


「何を任せればいいんですか」


エレナ先輩まで笑っている。


リシアはため息をついた。



俺は招待券を見る。


何人で行ってもいいなら、セレナとルークも誘えばいい。


点検の内容も、そこまで無茶なものではなさそうだ。


「……まあ、いいです」


「やった」


ミアが言う。


「ミアは何もしないですよね?」


「応援する」


「いらないです」


「じゃあ食べる」


「それは報酬の方でしょう」


テオ先輩がとうとう声を出して笑った。



「じゃあ決まりだね」


「はい」


「助かるよ」


テオ先輩が点検表を俺の方へ寄せる。


「明日の放課後。リシアと一緒に回ってもらう」


「分かりました」


「ミアは?」


「行かない」


即答だった。


「そこは即答なんですね」


「点検はアル」


「勝手に役割決めないでください」


「もう決まった」


何なんだ、この人は。



俺は点検表を見る。


訓練場。


通路。


倉庫。


屋外設備。


思ったより確認する場所が多い。


「全部明日やるんですか?」


「無理なら2日に分けます」


リシアが答える。


「なるほど」


紙に書かれている順番を見る。


少し気になった。


「この順番で回るんですか?」


「その予定ですけど」


「だったら、こことここ入れ替えた方が早くないです?」


俺は2か所を指す。


「こっちの訓練場を見た後、そのまま裏の通路を通れば倉庫に行けますよね」


「行けますね」


「そこから外周を回って、最後に本館側へ戻れば、行ったり来たりしなくて済むと思います」


リシアが紙を見る。


エレナ先輩も覗き込む。


「確かに、その方が早いわね」


「でしょ?」


「どうして最初からこの順番なんですか?」


テオ先輩が少し目を逸らした。


「去年の紙をそのまま使った」


「会長」


「去年は途中で別の確認があったんだよ」


「今年はありません」


「じゃあ直そう」


リシアが無言でテオ先輩を見る。


「そんな目で見ないでよ」



「じゃあ明日、授業が終わったらここへ来てください」


「分かりました」


「忘れないでください」


「大丈夫です」


「本当に?」


「たぶん」


「絶対来てください」


「またそれですか」


リシアがため息をつく。



その横で、ミアは机の上の招待券を見ていた。


「ミア」


「何?」


「それ、まだ今日もらえませんよ」


「分かってる」


「ならいいですけど」


「店の名前、覚えた」


「早いですね」


「大事」


どうやらミアにとっては、生徒会よりそっちの方が重要らしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。