↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/92

第55話 剣を捨てて

3日後の放課後。


第2訓練場へ着くと、思っていたより人がいた。


「……多くないですか?」


訓練場の周りには、同じ1年生を中心に20人以上集まっている。


「そりゃ見に来るでしょ」


セレナが当然みたいに言った。


「なんで?」


「伯爵家の嫡男と、入学時E級の土属性が正式な模擬戦をするのよ」


「そう言われると、俺がすごく弱そうですね」


「実際、級だけ見たらそうでしょうね」


「ですよね」


少し離れたところでは、レオナードが訓練用の剣を確認していた。


いつもより表情が固い。


俺を見つけると、そのままこちらへ歩いてくる。


「来たな」


「約束しましたから」


「逃げるとは思っていない」


「3日前は確認してませんでした?」


「……もういい」


レオナードは小さく息を吐いた。



「アル」


ミアが呼んだ。


振り返ると、片手に紙袋を持っている。


「本当にお菓子持ってきたんですか?」


「うん」


「長くならないと思いますよ」


「念のため」


「何の念です?」


ミアは答えず、袋から小さな焼き菓子を1つ取り出した。


もう食べ始めている。



その隣では、ルークが女子生徒に声をかけられていた。


「ルーク君も見に来たの?」


「うん。友達の試合だからね」


「どっちが勝つと思う?」


「さあ。見てからのお楽しみじゃない?」


相変わらず受け答えがうまい。


女子生徒が離れると、ルークがこちらへ来た。


「アル、緊張してる?」


「少しだけ」


「意外」


「俺だってしますよ」


「逃げたい?」


「それはちょっと」


「まだ言ってるの?」


セレナが呆れた。



「お前たち、そろそろ準備しろ」


エドガー先生が訓練場の中央から声をかけてきた。


俺とレオナードが向かう。


中央には訓練用の片手剣が何本か並べられていた。


「今回の模擬戦は、学院の通常規則に従う」


先生が俺たちを見る。


「武器、魔法ともに使用可。致命傷につながる攻撃は禁止。俺が危険と判断した場合は強制的に止める」


「はい」


レオナードが答える。


俺も頷いた。


「勝敗は降参、戦闘続行不能、または明確な有効打で決める。分かったな?」


「はい」


「分かりました」


俺は置かれている剣を1本取った。


普段の実技で使っているものとほとんど同じ重さだ。


何度か軽く振る。


問題ない。



向かい側では、レオナードも剣を握っていた。


姿勢が変わる。


さっきまでの少し面倒そうな顔が消えた。


剣先がこちらへ向く。


ちゃんと強そうだ。



「アル」


セレナの声が飛んできた。


「怪我しないでよ」


「頑張ります」


「勝てとは言わないんですね」


ルークが笑う。


「それは本人が決めることでしょ」


「セレナらしいね」


ミアは焼き菓子を食べながら俺を見る。


「アル」


「何です?」


「避けて」


「それだけ?」


「大事」


「まあ、大事ですね」



先生が手を上げる。


訓練場が静かになった。



「始め!」



最初に動いたのはレオナードだった。


速い。


3日前に見た時より、一歩目が鋭く感じる。


真正面から距離を詰めてくる。


剣が横から振られた。


俺は一歩下がって避ける。


その瞬間、風が来た。


「っ」


剣を避けた方向へ押し込むような風。


体がわずかに流される。


そこへレオナードの2撃目が入った。


木剣で受ける。


乾いた音が響いた。



重い。



俺はすぐに距離を取った。


「なるほど」


思ったより厄介だ。


剣を避ければ、風で姿勢を崩される。


剣を受ければ、その間に次の動きを作られる。


風そのものの威力で倒すというより、剣を当てるために使っている。



レオナードがまた踏み込む。


今度は剣を上から振り下ろした。


受ける。


その直前。


足元に風が走った。


俺の右足が少し浮く。



「うわ」


慌てて体勢を立て直す。


木剣が肩のすぐ横を通った。


「危な」


「余裕そうに喋るな!」


「喋った方が楽なので」


「意味が分からない!」



観客の方から笑い声が聞こえた。


レオナードの眉間に皺が寄る。


でも動きは乱れない。


むしろさっきより速くなった。



剣。


風。


また剣。


単純に見えて、毎回少しだけ違う。


剣を振る直前に風を使うこともあれば、避けた先へ風を送ることもある。


3日前に見た時より、ずっとやりにくい。



「アル、押されてるわね」


セレナの声が聞こえた。


「そう見えるね」


ルークが答える。


「大丈夫?」


「たぶん」


ミアの声も聞こえる。


なんで本人より落ち着いてるんだ。



レオナードの剣をまた受ける。


力ではそこまで差がない。


むしろ純粋な腕力なら、俺の方が少し上かもしれない。


でも風が混ざる。


剣を押し返そうとした瞬間、横から風が当たった。


剣先がずれる。


レオナードがそこへ入ってきた。



近い。



俺は反射的に左手で相手の腕を取ろうとする。


「!」


レオナードがすぐに引いた。


そのまま風を使って後ろへ下がる。


捕まえられなかった。



「今、剣じゃなくて腕を狙ったか?」


距離を取ったままレオナードが聞く。


「はい」


「模擬戦だぞ」


「近接戦闘ですよね?」


「剣も持ってるだろ!」


「持ってるだけです」


「使え!」


「使ってますよ」


「そういう意味じゃない!」


また観客から笑い声が聞こえた。



でも。


レオナードは笑っていない。


さっき俺が腕を掴もうとしたのを警戒している。


距離を少し広く取るようになった。



なるほど。


近づけば俺が有利。


向こうも、それに気づいたらしい。



レオナードが剣を構え直す。


今度は来ない。


少し離れた位置から、左手をこちらへ向けた。



風が集まる。



「来ますね」


俺も剣を構える。



鋭い風が正面から飛んできた。


避ける。


もう1つ。


次は斜めから。


さらにもう1つ。



風だけで攻めてくる。



俺は左右へ動きながら避ける。


目に見えない分、剣より面倒だ。


完全に見えないわけじゃない。


砂や埃が少し動く。


空気の流れも感じる。


それでも近距離の剣ほど分かりやすくない。



「近づかせないつもりですね」


「当然だ!」


レオナードが答える。


「君の得意な距離で戦う理由はない!」



もっともだ。


少し感心する。


最初からずっと真正面で剣を振ってくると思っていた。


でも違う。


自分が不利だと思えば、すぐ戦い方を変える。



また風が来る。


今度は避けずに、少しだけ腰を落とした。


地面へ魔力を流す。



足元の土がわずかに沈む。


靴底が地面へ食い込むように固定される。



風を受ける。


体は押される。


でも、さっきほど流されない。



「……!」


レオナードの表情が変わった。



もう一度。


今度は前へ出る。



「行きますよ」


「来い!」



レオナードが風を放つ。


俺は地面を蹴った。


1歩。


もう1歩。



横から風。


体を少し傾けて抜ける。


正面。


地面を踏みしめる。


止まらない。



距離が縮まる。



レオナードも下がりながら剣を構えた。


あと数歩。



その時。


足元に強い風が走った。



さっきまでとは違う。


俺の足を止めるためじゃない。


地面の砂が一気に舞い上がった。



「うわっ」


視界が消える。



「アル!」


セレナの声。



まずい。



見えないまま、俺は止まった。



その直後。


左側から何かが近づく気配がした。



考えるより先に体が動く。


木剣を上げる。



ガンッ!



強い衝撃。



砂埃の向こうから、レオナードの剣がぶつかっていた。



「……防いだ?」


レオナードの声。



「俺もびっくりしてます」


「嘘をつけ!」


「本当ですよ!」



視界が戻る。


すぐ目の前にレオナードがいる。



近い。



俺は木剣を捨てた。



「は?」


レオナードの顔が固まる。



右手で剣を押さえたまま、一歩中へ入る。


左手で腕を取る。



「ちょっ――」



レオナードが風を放つ。


至近距離。


まともに受ける。



体が横へ押される。


掴みかけた腕が抜けた。



俺とレオナードが同時に離れた。



数メートル。


お互いに止まる。



俺は地面に落とした木剣を見る。


少し遠い。



レオナードもそれを見る。


それから俺を見る。



「拾わないのか?」


「今から取りに行ったら待ってくれます?」


「待つわけないだろう!」


「ですよね」



レオナードが剣を構える。



俺は素手のまま腰を落とした。



観客が少しざわついた。



「アル」


ルークの声が聞こえる。


少し笑っている。


「そっちの方がやりやすそうだね」



「まあ」


俺はレオナードを見る。



「そうですね」



レオナードの表情がさらに真剣になった。



「なら、そのまま来い」


「はい」



今度は俺から踏み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。