第51話 20cm
放課後。
予定通り、俺たちは訓練場の端に集まっていた。
「20センチ」
ミアが言う。
「分かってます」
「今日はやる」
「できるといいですね」
「できる」
自信だけは十分だった。
少し離れた場所に、ルークとセレナもいる。
結局、ルークも来た。
「何してるの?」
と聞かれたので、ミアが土を20センチくらいだけ動かす練習だと説明したら、そのまま見学することになった。
俺は地面の横に、短い棒を立てた。
棒には、地面から20センチくらいのところに目印をつけてある。
「今日はこれを目安にしましょう」
「20?」
「大体ですけど」
「分かった」
ミアが地面へ手を向ける。
魔力が流れる。
ボコッ。
土が盛り上がった。
俺たちは見る。
目印より、明らかに高い。
「……」
ミアも見る。
セレナが近づいてきた。
「どう?」
「まだ大きいですね」
俺が答える。
「20センチは越えてます」
「惜しい」
ミアが言った。
「前よりはかなり小さいですよ」
「もう1回」
「はい」
地面を戻す。
今度はミア自身でやった。
ただ。
戻す方でも少し動かしすぎて、最初より地面が低くなった。
「難しい」
「上げるのも戻すのも同じですからね」
「アルはなんでできる?」
「慣れですかね」
「それだけ?」
「たぶん」
今日、距離感のことで色々言われたばかりだ。
自分でも少し怪しい気はしてきた。
「アルがやってみてよ」
セレナが言った。
「いいですよ」
同じ場所を見る。
目印の半分くらい。
そのくらいを意識する。
地面へ魔力を流す。
土が静かに持ち上がる。
「止めた」
ミアがすぐ近づいてくる。
棒と見比べる。
「……半分くらい」
「そのつもりです」
「なんでできる?」
「またその話ですか」
「今日のは気になる」
「俺も少し気になってきましたよ」
ルークも地面を覗き込む。
「アルって、魔法を使う時も大きさを決めてるの?」
「決めるっていうか」
少し考える。
「ここまで、って感じです」
「ここまで?」
「はい」
指で示す。
「この辺から、この辺まで動かす。みたいな」
「頭の中で測ってる?」
「測ってないです」
「でも分かる?」
「なんとなく」
ルークが少し笑った。
「便利ななんとなくだね」
「本当にそうですね」
俺も否定できなかった。
「もう1回」
ミアが言う。
「どうぞ」
今度はかなり慎重だった。
魔力が流れる。
土が少しずつ持ち上がる。
俺は棒の目印と見比べる。
まだ少し低い。
ミアはそのまま続けた。
もう少し。
目印を越えそうになったところで、動きが止まる。
「……どう?」
「かなり近いですね」
ミアがしゃがみ込む。
棒と地面を見比べる。
「20?」
「そのくらいだと思います」
「できた?」
「ほぼ」
「ほぼ?」
「目印とぴったり同じじゃないですから」
ミアの顔が少し不満そうになる。
「もう1回」
「厳しいなあ」
3回目。
今度は俺が何も言わない。
ミアだけで調整する。
地面が上がる。
ゆっくり。
今までよりずっと慎重に。
そして。
止まった。
目印と、ほとんど同じ高さだった。
ミアが棒を見る。
俺を見る。
また棒を見る。
「……20」
「大体そのくらいですね」
「できた」
珍しく少し嬉しそうだ。
「よかったじゃない」
セレナが言う。
「うん」
「最初、30センチくらい動かしてたものね」
「もっと大きかった」
「そうでしたね」
俺も頷く。
少しずつだけど。
ちゃんと小さくなっている。
「次」
ミアが言った。
「まだやるんですか?」
「今度はもっと小さく」
「もう?」
「うん」
「今日は20センチが目標だったでしょう」
「できたから次」
「休憩という概念ないんですか」
「ある」
「じゃあしてください」
「あと1回」
「それ休憩じゃないですよ」
セレナが笑う。
ルークは少し離れたところから見ていた。
「こういう練習、結構地味だね」
「地味ですよ」
俺が答える。
「でも必要なんでしょう?」
「たぶん」
「そこは自信ないんだ」
「俺の場合、最初からこういう使い方が多かったので」
「なるほど」
「ルークもやります?」
「何を?」
「細かい魔力操作」
「僕は土属性じゃないよ」
「じゃあ見学ですね」
「扱いが雑じゃない?」
「できることないでしょう」
「それはそうだけど」
ルークが苦笑する。
「じゃあ私もやる」
セレナが言った。
「何を?」
「精密操作」
「火で?」
「悪い?」
「いや」
少し考える。
「同じ大きさの火球を何個も作るとか?」
「地味」
「今日はそういう日です」
「誰が決めたのよ」
「今決めました」
「また勝手に」
セレナが手を出す。
小さな火球が浮かぶ。
消す。
もう1つ。
今度は少し大きい。
「あ」
「違いましたね」
「分かってる」
もう一度。
今度はかなり近い。
「意外と難しいわね」
「でしょう」
「なんでアルが偉そうなの?」
「先生役なので」
「誰が決めたの?」
「俺です」
「やっぱり勝手じゃない」
その横で。
ミアはまた地面へ手を向けている。
「ミア」
「何?」
「休憩は?」
「した」
「いつ?」
「今」
「セレナと話してる間?」
「うん」
「短いなあ」
また土が動く。
今度は20センチより少し低いところで止まった。
「小さくなった」
ミアが言う。
「なりましたね」
「次はもっと」
「今日はその辺にしときません?」
「なんで?」
「魔力使いすぎると後でしんどいですよ」
ミアが少し考える。
「分かった」
意外と素直だ。
「じゃあ終わり?」
セレナが聞く。
「今日はですね」
「明日も?」
ミアが答える。
「やる」
「アル、大変ね」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「ミア」
「即答ですね」
ルークが笑う。
結局。
その日は20センチ前後まで抑えられたところで、練習を終えた。




