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第49話 処分

連れてこられたのは、生徒会室の隣にある小さな部屋だった。


机が1つ。


椅子が4つ。


それだけの簡素な部屋だ。


俺とレオナードは並んで座らされ、その向かいにリシアが座っている。



「まず確認します」


リシアが紙を置く。


「ハルヴェインさん。あなたは廊下でアルベルトさんに向けて攻撃魔法を放った。間違いありませんか?」


レオナードが少し黙る。


「……はい」


「故意ですか?」


「違います」


「では、どうして発動したんです?」


「感情的になって……魔力の制御を誤った」


「つまり、攻撃する意思はなかった?」


「はい」


リシアが何かを書き込む。


「アルベルトさん」


「はい」


「今の説明に異議は?」


「ないです」


「本当に?」


「はい。俺も、最初から撃つつもりだったようには見えなかったので」


リシアがこちらを見る。


「それでも発動した事実は変わりません」


「分かってます」


「分かっているなら結構です」


少しだけ圧が強い。



「怪我はありませんね?」


「はい」


「制服の損傷は?」


「ないです」


「壁には傷があります」


「ああ」


「そこは学院側で確認します」



レオナードが口を開く。


「修理費が必要なら、僕が払います」


「それは学院が判断します」


「分かりました」


さっきまでとは違って、かなり素直だ。


たぶん自分でもやりすぎたと思っているんだろう。



「次に」


リシアが俺を見る。


「なぜ避けられたんですか?」


「え?」


「かなり近い距離でした」


「見えてたので」


「見えていた?」


「魔法が出る前に、風が集まってたので」


「それだけで?」


「まあ」


リシアの目が少し細くなる。


「反応が早いですね」


「訓練してるので」


「何の?」


「護衛とか、近接とか」


「なるほど」


それ以上は追及されなかった。



少しして。


扉が開いた。


入ってきたのはエドガー先生だった。


「状況は?」


「確認中です」


リシアが答える。


「攻撃の意思はなかったと本人は説明しています。ただし、感情的になって魔法を制御できなかったことは認めています」


「そうか」


エドガー先生がレオナードを見る。


「ハルヴェイン」


「はい」


「学院内で攻撃魔法を暴発させる意味は分かっているな?」


「……はい」


「分かっている人間がやったのか?」


レオナードが黙る。


「すみません」


「私に謝ってどうする」


「……」


視線が俺に向く。


一瞬。


レオナードの口が動く。


でも。


言葉が出てこない。



「まあ、俺は――」


「アルベルト」


リシアに止められた。


「はい」


「あなたは少し黙っていてください」


「……はい」


なんで俺が怒られてるんだろう。



エドガー先生が少しだけ笑いそうになった気がした。


「怪我がなかったのは幸運だった」


「はい」


「今回はそれで済んだ。だが次も同じとは限らない」


レオナードは俯く。


「分かっています」


「本当に?」


「はい」


「なら、今後は感情が乱れた状態で魔法を使うな」


「はい」


「授業以外の攻撃魔法使用についても、しばらく制限する」


レオナードが顔を上げた。


「どれくらいですか?」


「まず1週間」


「……分かりました」


思ったより軽い。


でも。


学院で魔法を学ぶ人間にとって、攻撃魔法を1週間使えないのは結構大きいかもしれない。



「それと」


エドガー先生が続ける。


「放課後の訓練場利用も同じ期間禁止だ」


「それも?」


「当然だ」


「……はい」


今度は少し効いた顔をした。



「アルベルト」


「はい」


「お前も」


「俺も?」


「廊下で揉め事になっているなら、もう少し早く教師を呼べ」


「俺、揉めてたつもりなかったんですけど」


「それが問題なんだ」


「え?」


「相手が明らかに感情的になっていただろう」


言われてみれば。


そうだった。


「危険になる前に離れる判断も護衛には必要だ」


「ああ」


カイルさんにも似たようなことを言われそうだ。


「分かりました」


「本当に?」


「先生までそれ言うんですか」


リシアが小さく頷いている。


味方がいない。



事情確認は、それから少し続いた。


セレナとミアも呼ばれ、それぞれ話をしたらしい。


俺たちの説明に大きな違いはなかった。


結果。


レオナードは1週間、授業外での攻撃魔法使用と訓練場の利用を禁止。


さらに生徒会と教師から注意。


それで一旦終わりになった。



部屋を出る。


廊下には、セレナとミアが待っていた。


「アル」


「はい」


「大丈夫?」


「大丈夫ですよ」


「何もされなかった?」


「俺が?」


「一応当事者でしょ」


「先生にちょっと注意されました」


「なんでアルが?」


「俺も思いました」


リシアが後ろから出てくる。


「適切な距離を取ることも必要です」


「まだ言うんですか」


「大事なので」


セレナが少し笑う。


「気が合いそうね」


「誰と誰が?」


「アルとリシア」


「合ってませんよ」


リシアも即座に言った。


「合っていません」


「そこだけ息合ってる」


セレナが笑う。



ミアがレオナードを見る。


「怒られた?」


「……ああ」


「訓練できない?」


「1週間」


「大変」


「他人事だな」


「他人だから」


「そうだな」


レオナードは少しだけ苦笑した。


思ったより普通に返す。



セレナが腕を組む。


「それで?」


「何が?」


「アルに言うことあるんじゃないの?」


レオナードの顔が固まる。


「あ」


俺もなんとなく分かった。


謝罪か。



「別に俺はいいですよ」


「アル」


セレナの目が怖い。


「……じゃあ黙ってます」


また怒られたくない。



レオナードが俺を見る。


「アルベルト」


「はい」


「さっきは……」


また止まる。



長い。



「言えないんですか?」


セレナが言う。


「急かすな」


「何分かけるつもりよ」


「今言おうとしてる」


「なら言えばいいでしょ」


「セレナ嬢は少し黙っていてくれ」


「嫌よ」


また始まりそうだ。



「レオナード」


俺が呼ぶ。


「何だ」


「無理なら今じゃなくてもいいですよ」


「……」


「俺は怪我してないですし」


「だから、そういう問題じゃありません」


横からリシア。


「まだいたんですか」


「います」


「すみません」


怖い。



レオナードが少し息を吐いた。


それから。


「悪かった」


短く言った。


「感情的になった。撃つつもりはなかったが、それは言い訳にならない」


俺は少し驚いた。


ちゃんと言えるんだ。



「分かりました」


「……それだけか?」


「はい」


「怒ってないのか?」


「別に」


レオナードが変な顔をする。


「君は本当に……」


「何です?」


「いや」


首を振った。


「なんでもない」



セレナはまだ少し不満そうだったけど。


ミアはもう興味を失ったのか、窓の外を見ている。


リシアは紙を抱え直した。



「では、この件は一旦これで終了です」


「はい」


「ただし」


リシアがレオナードを見る。


「再発した場合は、今回より重い処分になると思ってください」


「分かっています」


「本当に?」


「……今日はそれを何回聞かれるんだ」


少しだけ。


レオナードの声にいつもの感じが戻っていた。



俺たちはその場で別れた。



帰り道。


セレナが俺を見る。


「本当に怒ってないの?」


「怒ってないですよ」


「なんで?」


「撃つつもりじゃなかったって言ってたし、謝ったので」


「簡単ね」


「ずっと怒ってても仕方ないでしょう」


「そうだけど」


ミアが横から言う。


「アル、忘れそう」


「何を?」


「今日のこと」


「さすがに覚えてますよ」


「明日は?」


「覚えてます」


「1週間後」


「……たぶん」


「ほら」


「そんな大事なことですか?」


セレナがため息をついた。


「本当に気にしないわね」


「気にした方がいいですか?」


「少しくらいは」


「じゃあ少しだけ気にしときます」


「絶対適当でしょ」


「ばれました?」


「ばれるわよ」


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