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第46話 実技訓練

午後の実技は、ルークが言っていた通り近接戦闘の基礎だった。


訓練場へ着くと、すでに木剣や防具が並べられている。


エドガー先生が生徒たちの前に立った。


「今日は魔法なし。武器を使った近接戦闘の基礎を確認する」


何人かが露骨に嫌そうな顔をした。


魔法が得意な生徒ほど、こういう授業はあまり好きじゃないらしい。


「学院にいる間は、魔法だけ使えればいいと思うなよ」


エドガー先生が続ける。


「距離を詰められた時。魔力が切れた時。魔法を組み立てる余裕がない時。そういう状況はいくらでもある」


俺としては、かなり納得できる話だった。


むしろ。


こういう方が慣れている。



「アル」


隣からミアが小さく呼ぶ。


「何です?」


「嬉しそう」


「そう見えます?」


「うん」


「魔法よりは分かりやすいので」


「やっぱり」


セレナが少し呆れたように言う。


「学院に来て、魔法より近接の方が得意ってどうなのよ」


「土属性なので」


「それ便利な言い訳にしてない?」


「少しだけ」


「認めるのね」



まずは基本動作からだった。


構え。


間合い。


踏み込み。


受け。


回避。


木剣を持った生徒同士で、決められた動きを繰り返す。


俺の相手は、同じクラスの男子生徒だった。


「よろしく」


「お願いします」


相手が構える。


俺も木剣を持つ。


「始め」


合図と同時に。


相手が踏み込む。


剣が振られる。


受ける。


少しずらす。


そのまま横へ流す。


次。


もう一度。


今度は踏み込みが深い。


木剣を合わせるより先に、一歩入る。


相手の腕へ自分の腕を当てて、軌道をずらす。


「え?」


「すみません」


距離が近くなりすぎたので、いったん離れる。


相手が少し戸惑った顔をした。


「今のあり?」


「たぶん」


「剣で受ける練習じゃないの?」


「そうでしたっけ」


遠くからエドガー先生の声が飛んできた。


「ありだ。だが相手を怪我させるなよ」


「はい」


「やっぱりありなんだ……」


相手が少し嫌そうな顔をした。



何度か繰り返す。


大体は問題ない。


ただ。


俺としては、相手の動きがかなり分かりやすかった。


踏み込む前に重心が動く。


剣を振る前に肩が上がる。


攻撃の方向も素直だ。


弱いわけじゃない。


でも。


バルガスさんと比べると、ずっと遅く感じる。


比較する相手が間違っている気もするけど。



「交代」


次の相手。


今度は女子生徒だった。


こちらも基本は同じ。


受ける。


流す。


避ける。


たまに距離を詰める。


最後に一度だけ、相手の木剣を持つ手首を軽く押さえた。


「……捕まった」


「すみません」


「なんで謝るの?」


「なんとなく」


「変なの」


少し笑われた。



周りを見る。


セレナは思ったよりしっかり動けていた。


剣そのものは得意というほどではない。


でも踏み込みが強い。


迷いなく前へ出る。


攻撃も素直で速い。


「そこ、力入りすぎ!」


相手に言われている。


「分かってるわよ!」


たぶん分かってない。



ミアは。


「遅い」


自分で言っていた。


「何が?」


相手の生徒が聞く。


「剣」


「君が?」


「うん」


ミアは木剣を振る。


振り方は悪くない。


でも。


明らかに慣れていない。


魔法の時とは全然違う。


「難しい」


「珍しいですね」


俺が横から言う。


「何が?」


「ミアが苦戦してるの」


「失礼」


「最近それ多いですね」


「アルが失礼だから」


「そうかな」


「そう」


断言された。



少し離れたところでは、ルークが別の生徒と練習している。


相手が攻撃する。


ルークは受ける。


避ける。


流す。


全部自然だった。


派手な動きはない。


でも無駄が少ない。


それを見ていると、昨日少しだけ訓練場へ行っていたのも納得できる。


「上手ですね」


俺が言う。


ルークがこちらを見る。


「見てた?」


「少し」


「恥ずかしいなあ」


「全然恥ずかしそうじゃないですよ」


「ばれた?」


「ばれます」


相手の生徒が困った顔をする。


「ルーク、まだ続ける?」


「あ、ごめん」


すぐに構え直した。



一通り基礎練習が終わる。


次は、軽い自由形式の攻防だった。


時間は短い。


勝敗を決めるわけではない。


相手の攻撃をどう受けるか。


どう間合いを取るか。


そういうところを見るらしい。



「アルベルト」


エドガー先生に呼ばれた。


「はい」


「次、お前は少し相手を変える」


「誰です?」


先生が顎で示した。


そこには、体格のいい男子生徒が立っていた。


同じ1年だ。


ただし。


同じクラスではない。


「他クラス?」


「そうだ」


「何で俺だけ?」


「動きが少し違うからな」


「悪い意味ですか?」


「自分で考えろ」


答えてくれない。



相手の男子生徒が木剣を持って前へ出る。


「よろしく」


「お願いします」


「聞いたぞ。模擬戦でディーンに勝ったんだって?」


「ああ」


どうやら知っているらしい。


「俺は見てないけど」


「そうですか」


「土魔法で転ばせたって話だったな」


「まあ、大体そんな感じです」


「今日は魔法なしだ」


「そうですね」


男子生徒が笑う。


「じゃあ普通にやろう」


「お願いします」



合図。


相手が一気に踏み込む。


速い。


さっきまでの生徒より明らかに速い。


木剣が横から来る。


受ける。


重い。


そのまま押し込まれる。


一歩下がる。


次。


上から。


避ける。


さらに追ってくる。


「お」


思ったより強い。


少し楽しくなる。



右から剣。


受けずに内側へ入る。


相手の肘へ手を添える。


崩す。


でも。


「っ」


相手もすぐに体勢を戻した。


上手い。


距離を取る。



「アル、楽しそう」


遠くからミアの声がする。


「集中してください!」


俺が返す。


「見てる」


「自分の相手見てください」


「終わった」


早いな。



相手がもう一度来る。


今度はフェイント。


上。


そう見せて。


下。


木剣が足元へ来る。


一歩引く。


そのまま相手の踏み込みに合わせる。


少しだけ横へ。


木剣を打ち込む。


相手が受けた。


その瞬間。


剣を押し合わずに。


手を離す。


「え?」


相手の力が空へ抜ける。


一歩入る。


肩。


肘。


重心。


昔、何度もやられた動き。


相手の腕を取って。


そのまま軽く崩す。



どさっ。



男子生徒が地面へ座った。



一瞬。


周りが静かになる。



「……剣は?」


相手が下から聞く。


俺は地面に落ちた自分の木剣を見る。


「途中で捨てました」


「なんで?」


「その方がやりやすかったので」


「剣の授業だぞ?」


「俺もそう思います」


「思ってるだけ?」


少し笑われた。



エドガー先生が近づいてくる。


「そこまで」


「はい」


相手へ手を差し出す。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫」


手を取って立ち上がる。


「強いな」


「ありがとうございます」


「E級なんだよな?」


「そうです」


「意味分からん」


最近よく言われる気がする。



「アル」


ミアが寄ってきた。


「今の何?」


「何って?」


「剣捨てた」


「必要なかったので」


「剣の授業なのに?」


「それ、さっきも言われました」


セレナも来る。


「普通、武器捨てる?」


「勝てるならよくないですか?」


「よくない気がする」


「先生は止めませんでしたよ」


3人でエドガー先生を見る。


先生は少し離れたところで、次の生徒を見ていた。


「聞こえてるぞ」


「どうなんです?」


「今日は近接戦闘の授業だ。剣術大会じゃない」


「ほら」


「ただし」


先生が続ける。


「木剣を放り投げて相手に当てたら減点する」


「投げませんよ」


「お前ならやりそうだから言った」


信用がない。



実技が終わる頃には、かなり汗をかいていた。


魔法を使わない分、今日は身体を動かした。


でも。


嫌いじゃない。



「アル」


帰り支度をしていると、ルークが来た。


「何です?」


「さっきの見てたよ」


「どれです?」


「木剣捨てたやつ」


「ああ」


「誰に教わったの?」


「バルガスさんです」


ルークの表情がほんの少しだけ止まった。


「バルガス?」


「はい」


「……バルガス・レオンハルト?」


「知ってるんですか?」


「有名だからね」


ルークはすぐに笑った。


「拳王に教わってたんだ」


「1年くらいですけど」


「へえ」


それだけだった。


いつも通りの声。



「アル」


今度はミアが呼ぶ。


「今日は何食べる?」


「切り替え早いですね」


「実技終わったから」


「まだ夕飯には早いですよ」


「昨日の肉」


「もうないです」


「なんで?」


「食べたからでしょう」


「残ってた」


「朝なくなりました」


「誰が食べた?」


「俺です」


ミアが黙る。


「何です?」


「……アルが食べたならいい」


「何その判断」


セレナが笑った。


ルークも笑う。


俺は木剣を返しに、訓練場の端へ歩いていった。

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