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第34話 救助

「いっぱい?」


「いっぱいです」


ミアが手を向けた。


次の瞬間、地面が大きく揺れた。


思わず足を開いて踏ん張る。


俺が指示した場所の土が盛り上がり、そのままこちら側へ押し出されてくる。


速い。


そして、やっぱり大きい。


「ミア、そこで止めて!」


「うん」


盛り上がった土が止まる。


かなりの量だ。


俺が同じことをしようとしたら、途中で魔力が尽きる。


「これをどうするの?」


セレナが聞いた。


「3人の方へ当たってる水を、少し外へ逃がします」


土を壁にして、流れを完全に塞ぐつもりはない。


そんなことをすれば、水は別の場所へ一気に溢れる。


そもそも、この濁流を正面から止められるほど頑丈なものを作れるとも思えない。


必要なのは、流れの向きを少し変えることだ。


「ミア。今の土を、あっちへ斜めに伸ばせます?」


「やってみる」


再び地面が動く。


「もう少し右です」


「こっち?」


「もう少し」


「ここ?」


「そこで止めてください」


大きく動かすのはミア。


俺は、その形を見ながら必要なところだけを少しずつ直していく。


盛り上がりすぎたところを下げる。


水が正面からぶつかりそうな場所を斜めにする。


流れが引っかかりそうな場所を削る。


全部を動かす必要はない。


必要なところだけでいい。


「来ます」


俺が言った直後、濁流の一部が盛り上がった土へぶつかった。


水が大きく跳ねる。


「アル!」


セレナの声が飛ぶ。


「大丈夫です!」


土の表面が削られる。


一瞬、崩れるかと思った。


だが持った。


水は盛り上がった土に沿って向きを変え、3人がいる場所から少し外れて流れていく。


全部じゃない。


川そのものが変わったわけでもない。


それでも。


「当たる水が減ってる」


セレナが気づいた。


3人の足元を見る。


さっきまで直接ぶつかっていた濁流が、明らかに弱くなっていた。


これなら少し時間を稼げる。


「ミア。もう少しだけお願いします」


「いっぱい?」


「今度は少しです」


ミアの動きが止まる。


「難しい」


「ですよね」


さっきまで30cm前後を小さくするのに苦戦していたんだ。


この状況で急に細かく動かせと言っても難しい。


「無理に小さくしなくていいです。俺が止めます」


「分かった」


ミアが魔力を流す。


地面が持ち上がる。


「そこ!」


止まった。


俺が想像していたより、かなり大きい。


「……多いですね」


「少しにした」


「ミア基準ではですね」


「うん」


こんな状況なのに、少しだけ力が抜けた。


セレナも短く息を吐いた。


「アル、次は?」


「これで今すぐ崩れる可能性は下がったと思います。でも、あそこから出さないと駄目です」


水の勢いを弱めただけだ。


3人がいる場所そのものが安全になったわけじゃない。


橋は壊れている。


こちら側へ渡らせるのも難しい。


なら。


「向こう側へ逃がします」


3人のさらに奥を見る。


少し高い斜面がある。


あそこまで行ければ、川からはかなり離れられる。


問題は、3人のいる場所と斜面の間にも水が流れ込んでいることだ。


本流ほどではない。


それでも、普通に歩いて渡れる量ではない。


「道を作る?」


セレナが聞く。


「作るというより、地面を戻します」


「戻す?」


「元々あそこは地面だったはずです」


水に削られ、低くなった場所を指差す。


「少し持ち上げれば、向こうへ渡れると思います」


「できる?」


「俺だけだと厳しいです」


ミアを見る。


「またいっぱい?」


「今度はそこまでいらないです」


「じゃあ半分」


半分がどれくらいなのか分からない。


「俺が止めるので、ゆっくりお願いします」


「うん」


ミアが魔法を使う。


水の下から土が持ち上がっていく。


やっぱり速い。


「そこ!」


ミアが止める。


水面から土が顔を出した。


幅は十分。


むしろ広すぎるくらいだ。


「ここからは俺がやります」


高すぎるところを少し下げる。


低い場所を持ち上げる。


水がまともに乗り越えないよう、上流側だけ少し高くする。


完全な道じゃない。


数人が急いで渡れればそれでいい。


「セレナ!」


「分かった!」


セレナが向こうへ向かって叫ぶ。


「こっちを通って! そのまま斜面の上まで逃げて!」


水音で聞こえにくい。


それでも、3人はこちらを見て頷いた。


最初の1人が動く。


俺たちが作った地面へ足を乗せる。


水はまだ流れている。


だが、さっきまでよりずっと浅い。


「そのまま!」


セレナが叫ぶ。


1人目が渡った。


2人目も続く。


最後の1人が足を乗せたところで、俺たちが作った地面の端が少し削れた。


「急いで!」


その生徒が走る。


途中で足を滑らせた。


「危ない!」


セレナが叫ぶ。


生徒は地面へ手をついた。


一瞬、身体が流れの方へ傾く。


だが、すぐにもう1人が腕を掴んだ。


そのまま2人で斜面へ駆け込む。


3人全員が高い場所まで辿り着いた。


「……よし」


力が抜ける。


助かった。


少なくとも、今すぐ流される心配はない。


「やった」


ミアが言った。


「ミアのおかげですよ」


「アルが場所決めた」


「2人のおかげでいいじゃない」


セレナが言う。


「そうですね」


「うん」


俺たちがそんなことを話している横で、ルークは川を見たまま動かなかった。


「ルーク?」


セレナが呼ぶ。


「ああ」


少し遅れて、ルークがこちらを見る。


「ごめん。無事でよかった」


表情はいつものルークに戻っていた。


ただ、さっきから何かを考えているように見える。


今は聞く時じゃない。



3人を助けたとはいえ、このまま向こう側に残すわけにもいかない。


先生たちがどこにいるのかも分からない。


「どうします?」


俺が聞くと、ルークが地図を開いた。


「少し上流に、川幅が広くなる場所がある。そこなら水の勢いも今より弱いかもしれない」


「渡れるところを探すの?」


セレナが聞く。


「無理ならやめる。でも、こっちと向こうで並行して進めばいい」


それが一番現実的だ。


俺たちは川から少し距離を取りながら上流へ進む。


向こう側の3人にも、斜面の高いところを同じ方向へ進むよう伝えた。



しばらく歩くと、川幅が広くなっている場所が見えてきた。


水量は多い。


だが、さっきの場所より流れは緩やかだ。


そこには学院が設置した簡易的な渡り場もあった。


橋というほど立派なものではない。


太い木材が何本か渡されているだけだ。


水はかなり近くまで来ているが、まだ流されてはいない。


「これなら渡れそうね」


セレナが言う。


「1人ずつ行こう」


ルークが先に進んだ。


足元を確かめながら向こう岸へ渡る。


「大丈夫だよ」


続いてセレナ。


ミア。


俺が最後に渡った。



向こう側で3人と合流する。


「ありがとう!」


1人が何度も頭を下げた。


「本当に、もう駄目かと思った……」


「怪我は?」


セレナが聞く。


「擦り傷くらい。歩ける」


他の2人も大きな怪我はなさそうだ。


「なら、まず川から離れましょう」


助けたからといって、ここが安全になったわけじゃない。


雨はまだ降っている。


川の水も増えたままだ。


俺たちは7人で、さらに高い場所へ向かうことにした。

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