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第30話 準備

校外学習の組が決まった日の放課後。


俺たち4人は、学院を出て学園都市の商店街へ向かった。


「まず必要な物を確認するわよ」


セレナが歩きながら、学院から配られた持ち物の一覧を見る。


「食料」


ミアが言う。


「それは学院から支給されるって何度言えば分かるの?」


「追加分」


「まだ言ってるの?」


「大事」


「他にあるでしょう」


セレナが紙を指でなぞる。


「雨具、予備の布、火を起こす道具、簡単な治療用品。水筒は各自。野営用の道具は学院から貸し出し」


「思ったより少ないですね」


「基本的な物は学院が用意してくれるみたいね」


ルークが横から紙を覗き込む。


「足りない物を買うというより、自分たちで必要だと思う物を追加する感じかな」


「そうみたいですね」


3日間とはいえ、順調なら2日ほどで着く。


荷物を増やしすぎても移動しにくくなる。


必要な物と、あったら便利な物。


その辺りを考える必要がありそうだ。



最初に入ったのは、旅用品を扱う店だった。


店内には鞄やロープ、簡単な調理器具、雨具などが並んでいる。


「これ」


ミアが手に取ったのは、かなり大きな袋だった。


「何に使うんです?」


「食料」


「だから、そんなに持っていかなくても」


「入る」


「入るかどうかじゃないのよ」


セレナが袋を取り上げる。


「自分で持つって言った」


「3日間ずっと?」


「うん」


「途中でアルに渡すの禁止だからね」


「なんでアル?」


「なんとなく」


ミアが俺を見る。


「持ってくれる?」


「今聞きます?」


「ほら!」


セレナが言う。


「いや、まだ何も答えてませんよ」


「どうせ頼まれたら持つでしょ」


否定しようとして、少し考える。


たぶん持つ。


「……必要なら」


「やっぱり」


セレナが呆れたようにため息をついた。


ミアは少し満足そうだった。



俺は店の中を見て回る。


予備の紐。


布。


小さな袋。


簡単な道具。


前の仕事でも、いざという時に使える物を少し持っておくことは多かった。


用途が1つしかない物より、何通りか使える物の方がいい。


「アル、何見てるの?」


ルークが隣に来た。


「ロープです」


「学院からも支給されるよね?」


「ありますけど、もう少しあってもいいかなと」


「何に使うの?」


「荷物を縛ったり、何か固定したり。足場が悪い場所でも使えるかもしれません」


「なるほど」


ルークが少し考える。


「じゃあ僕も持とうかな」


「そんなに何本もいらないと思いますよ」


「それもそうか」


必要以上に持っていっても仕方ない。


結局、少し長めのロープを1本だけ追加することにした。



次は食料品を扱う店。


入った瞬間、ミアの歩く速度が変わった。


「速い」


ルークが笑う。


「放っておくと全部買いそうね」


セレナが後を追う。


「全部は買わない」


ミアが振り返る。


「必要な分だけ」


「あなたの必要な分が信用できないのよ」


俺たちも追いかける。


保存の利くパン。


干し肉。


木の実。


乾燥させた果物。


持ち運びやすそうな物が並んでいる。


ミアは真剣な顔で棚を見ていた。


魔法の授業より集中している気がする。


「これと、これ」


「多くない?」


「普通」


「誰の普通よ」


「私」


「でしょうね」


結局、ミアは自分で持つことを条件に、いくつか追加の食料を買った。


「本当に全部持つんですよ?」


俺が聞く。


「持つ」


「途中で重いって言っても知りませんからね」


「アル」


「何です?」


「その時はお願い」


「今の話聞いてました?」


ルークが吹き出した。


セレナは頭を押さえている。


「アルが甘いからよ」


「まだ持つって言ってませんよ」


「断れるの?」


また答えに困る。


「……状況によります」


「ほら」


何なんだ、このやり取りは。



買い物を終える頃には、日が少し傾き始めていた。


学院へ戻る途中、ミアが突然足を止める。


「アル」


「はい?」


「今日、やる?」


「何をです?」


「土」


ああ。


小さく動かす練習か。


「戻ってからですか?」


「うん」


「元気ですね」


「やりたい」


「じゃあ少しだけ」


「私も見る」


セレナが言う。


「また?」


「いいでしょ」


「別にいいですけど」


「僕も見ていい?」


ルークまで言った。


「見るほど面白いものじゃないですよ」


「ミアがそこまで気に入ってるなら、ちょっと興味がある」


「そう」


ミアがなぜか頷いた。


俺が決めることじゃないらしい。



学院へ戻り、訓練場の端へ向かった。


人の少ない場所を選ぶ。


「じゃあやってみます?」


「うん」


ミアが地面へ手を向ける。


少し間を置いて、土が動いた。


盛り上がった範囲を見る。


以前よりは小さい。


それでも、俺が動かす範囲とはかなり違う。


「これくらい?」


ミアが聞く。


「30cmくらいですかね」


「まだ大きい」


「ですね」


ミアがしゃがみ込んで、自分が動かした場所を見る。


「アルは2、3cm」


「この前測った時はそれくらいでしたね」


「10倍」


「だいたい」


「もう1回」


今度はさっきより集中している。


土が動く。


少しだけ小さくなったようにも見えるが、大きな違いはない。


それに、動くまでに少し時間がかかっている。


「難しい」


「俺も最初からできたわけじゃないですよ」


「ずっと練習した?」


「まあ、それなりには」


「じゃあ、すぐは無理?」


「たぶん」


ミアが地面を見る。


諦めるかと思った。


「じゃあ続ける」


そう言って、もう1度構える。


やっぱり諦めないらしい。



「でも、不思議ね」


セレナが言った。


「何がです?」


「ミアの方がずっと大きな魔法を使えるのに、小さく動かすのはアルの方が上手いのね」


「使ってきた時間の違いじゃないですか?」


「それだけかな」


ルークが言う。


俺はそちらを見る。


「どういう意味です?」


「いや、昨日の授業でも思ったんだけど」


ルークはミアが動かした地面と、俺が試しに動かした場所を見比べる。


「大きな魔法を使えることと、小さな魔法を正確に使えることは、思ってる以上に別の技術なんだろうなって」


「リディア先生も似たようなこと言ってましたね」


「うん。ミアは大きく出す方が得意で、アルは必要な分だけ出す方が得意」


ミアがルークを見る。


「アル」


「え?」


「アルベルトじゃなくて、アル」


「そこ?」


「今日から」


「そうなんだ」


ルークが笑う。


「じゃあ僕もアルって呼んでいい?」


「別にいいですよ」


「じゃあアル」


「はい」


「急に短くなったね」


「自分で言ったんでしょう」


セレナが呆れる。


「これで全員アルね」


「そうみたいですね」


この世界に来た時は、自分の名前すら分からなかった。


ローデリック様に教えてもらったアルベルトという名前。


セレナがアルと呼ぶようになって、今ではミアとルークまでそう呼んでいる。


悪い気はしなかった。



「できた」


ミアの声で地面を見る。


さっきより少し小さい。


それでも30cm前後はある。


「どう?」


「さっきよりはいいんじゃないですか?」


「2、3cmは?」


「まだ遠いですね」


「そう」


ミアは少しだけ悔しそうに地面を見る。


「明日もやる」


「校外学習の準備もしてくださいよ」


「する」


「食料以外も」


「……する」


今、間があった。


セレナも気づいたらしく、ため息をつく。


「私が確認するわ」


「お願いします」


「何でアルがお願いするのよ」


ルークがまた笑った。



校外学習まで、あと数日。


4人で行動するのは初めてだ。


セレナは判断が早い。


ミアは魔力が強い。


ルークは何でも器用にこなす。


俺は――まあ、できることをやればいい。


まずは3日間。


全員で目的地まで着く。


それが今回の課題だった。

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