第27話 魔力の限界
学院での本格的な授業が始まった。
その日の授業は魔法基礎。
教室の前には黒板があり、その横にはいくつかの水晶や見慣れない魔道具が並べられている。
教壇に立ったのは、魔法実習でも担当だったリディア・フェルナー先生だ。
「今日は、魔法を使う上で必ず知っておかなければならないことを話します」
リディア先生は黒板に3つの言葉を並べた。
魔力量。
属性。
制御。
「すでに魔法を使える人も多いでしょう。中には、私より優れた魔法を使える人もいるかもしれません」
教室の何人かが少しざわつく。
「ですが、使えることと理解していることは別です。学院では魔法を使うだけではなく、なぜそうなるのかも学んでもらいます」
なるほど。
ガレスさんから魔法を教わっていた時も、似たようなことを言われた気がする。
もっとも、俺の場合は途中から質問ばかりしていたけど。
「まずは魔力量。これは、その人が一度に扱える魔力の大きさとは別です。身体の中にどれだけ魔力を蓄えておけるか。その総量を指します」
先生が水晶の1つを持ち上げる。
「入学時の測定でも確認しましたね」
俺も受けた。
平均よりは多いと言われたが、属性が土だったせいで最終的な評価はE級になった。
「そして属性。火、水、風、土。基本的にはこの4つが最も一般的です」
黒板に4つの属性が書き足される。
「属性によって、魔力をどのような現象として扱いやすいかが変わります。ただし、属性だけで強さが決まるわけではありません」
少し意外だった。
学院では土属性の評価が低い。
それを考えると、もっとはっきり優劣があるものだと思っていた。
「属性には相性があります。ですが、それは絶対ではありません」
火は風に強い。
風は土に強い。
土は水に強い。
水は火に強い。
先生はそう説明した。
「同じ実力なら有利不利は生まれます。しかし、魔力量、制御、技術、経験によって覆る程度のものです」
黒板の最後の言葉を指す。
「そして制御」
先生が手を上げる。
小さな水の球が浮かんだ。
それがゆっくり形を変える。
球。
細い棒。
薄い板。
また球。
「どれだけ正確に魔力を扱えるか。どれだけ余計な魔力を使わず、必要な現象を作れるか」
ミアを見る。
昨日まで地面を小さく動かす練習をしていた。
大きな魔法を使えるミアでも、数cmだけ土を動かすのは難しいらしい。
「大きな魔法を使えるから、制御が上手いとは限りません。逆も同じです」
やっぱりそういうものらしい。
先生は水の球を消した。
「そして、もう1つ」
黒板に新しく言葉を書く。
魔力枯渇。
教室の空気が少し変わった。
「これは必ず覚えてください」
先生の声もさっきまでより真剣だった。
「魔力は使えば減ります。休めば回復します。ですが、限界を超えて無理に魔力を使おうとすると、身体そのものに影響が出ます」
頭痛。
吐き気。
めまい。
意識障害。
そこまでは俺にも経験がある。
13歳の頃、調子に乗って魔法を使い続けて倒れた。
あの時は数日休めば元に戻った。
「軽い場合は休息で回復します。しかし、重度の場合は違います」
先生が一度教室を見回した。
「死亡例もあります」
誰も喋らなかった。
「助かっても、魔力を生み出し、蓄える身体の機能に損傷が残ることがあります」
「それって……」
誰かが小さく声を出した。
先生が頷く。
「以前と同じ量の魔力を扱えなくなる場合があります」
教室がざわついた。
俺も少し驚いた。
魔力が減って、そのまま戻らないことがある。
「どれくらい減るんですか?」
前の方の生徒が聞いた。
「損傷の程度によります。重い例では、以前の半分ほどまで最大魔力量が低下した記録もあります」
半分。
かなり大きい。
「回復は?」
「時間とともに戻る例もあります。しかし、必ずではありません」
リディア先生は黒板を軽く叩いた。
「だからこそ、自分の限界を知ることが重要です」
魔法を使えることと、使い続けられることは違う。
強い魔法を1回撃てるからといって、それを何度も使えるとは限らない。
当たり前のことだけど、実際に死ぬことまであると言われると重みが違う。
「学院では、魔力を使い切るまで訓練させることはありません。ですが、実戦ではそうはいかない場合もあります」
先生の言葉を聞きながら、自分の手を見る。
俺の魔力量は平均より多い。
だから今まで、そこまで深く考えたことがなかった。
でも、多いから安全というわけでもない。
限界はある。
授業の後半は、自分の魔力量を感覚で把握するための訓練になった。
小さな魔法を繰り返し使い、どの辺りから疲労を感じ始めるか確認する。
ただし、限界までは使わない。
「アル」
隣からミアが呼んだ。
「はい?」
「まだ平気?」
「平気です」
「私も」
「ミアは魔力量多いですからね」
「アルも」
「俺はミアほどじゃないですよ」
「でも多い」
「まあ、平均よりは」
ミアが小さな雷を指先に出して消す。
俺は地面を少しだけ動かす。
こういう訓練なら、俺の魔法はかなり燃費がいい。
必要なところだけ。
ほんの少しだけ。
使う魔力そのものが少ない。
「ずるい」
ミアが言った。
「何が?」
「減らない」
「小さくしか使ってないですから」
「私も小さくしてる」
ミアの足元で、土が30cmほど盛り上がった。
「それは小さいんですか?」
「前より」
「確かに前よりは」
「じゃあ小さい」
「基準がミアなんですよ」
ミアは気にせず、また地面へ手を向けた。
授業が終わり、次の教室へ向かう。
廊下を歩いていると、前から来た生徒たちの声が耳に入った。
「――本当らしいぞ」
「でも、土属性だろ?」
「だから騒ぎになってるんだって」
土属性。
思わず、そちらを見る。
何人かの生徒が興奮した様子で話しながら通り過ぎていった。
「何かあったのかしら」
セレナも振り返る。
「さあ」
少し進むと、別のところからも似た話が聞こえてきた。
土属性。
新しいX級。
そして、第8位。
「X級?」
さすがに足が止まる。
世界に10人しかいないはずだ。
その1人が新しく決まったらしい。
しかも土属性。
「アル」
セレナが俺を見る。
「ええ」
「気になるわね」
「さすがに」
誰なのか。
どうやって戦うのか。
土属性で、どうやって世界の10人に入ったのか。
「次の授業が終わったら、少し調べてみます?」
「そうね」
俺たちはそのまま次の教室へ向かった。




