第23話 入学時能力測定
入学式を終えた翌日、俺たち新入生は学院の訓練場に集められていた。
今日は入学時の能力測定を行うらしい。
入学そのものはすでに決まっているので、ここで結果が悪かったからといって追い出されるわけではない。
1年目のクラス分けにも、この結果は使われない。
能力でクラスが分かれるのは2年生から。1年目の成績や実技、それまでの級なんかも含めて決めるらしい。
今日はあくまで、学院側が新入生の現在の能力を把握するためのものだ。
最初に行われたのは筆記試験だった。
読み書きや計算、歴史、魔法に関する基礎知識。
6年前なら問題文を読むことすらできなかった俺も、今では普通に答えられる。
ローデリックさんやセレナ、それに屋敷のみんなのおかげだ。
もっとも、歴史については自信がない。
覚えることが多すぎる。
筆記試験が終わると、次は魔力量と属性の測定だった。
訓練場には大きな水晶が置かれている。
属性検査で使ったものと似ているが、こちらの方がずっと大きい。
「測定結果をもとに、現時点での級も判定する」
教師の説明に、生徒たちがざわついた。
級。
魔法使いや戦闘能力を示す時によく使われる評価だ。
下からF、E、D、C、B、A、S、そしてX。
学院を卒業する頃には、C級程度に到達する生徒が多いらしい。
つまり、入学時点でC級ならかなり優秀ということになる。
ただし、今回の判定で重視されるのは魔力量と属性だ。
剣の腕や実戦経験、戦い方の上手さまでは含まれない。
名前を呼ばれた生徒から順番に、水晶へ手を置いていく。
結果が出るたび、教師が記録していった。
E級。
D級。
時々C級が出ると、周囲から声が上がる。
そんな中、1人の女子生徒が水晶の前へ出た。
小柄な少女だった。
淡い灰色の髪は肩より少し長い程度で、特に飾っている様子もない。表情はぼんやりとしていて、少し眠そうにも見える。
これから自分の評価が決まるというのに、緊張しているようには見えなかった。
少女が水晶へ手を置く。
魔力が流れ込んだ瞬間、強い光が広がった。
さっきまでとは明らかに違う。
「属性、雷」
教師が記録用紙から顔を上げる。
珍しい属性らしい。
さらに測定結果を確認して、一瞬だけ動きを止めた。
「判定、B級」
訓練場がざわめいた。
「B級?」
「入学時点で?」
「誰だ、あの子」
本人は周囲の反応を気にした様子もなく、水晶から手を離した。
そのまま眠そうな顔で戻っていく。
変わった子だ。
B級という結果より、本人の反応の薄さの方が妙に印象に残った。
その後も測定は続いた。
しばらくして、今度は男子生徒が前へ出る。
淡い金色の髪に青い瞳。
学院都市に来た日に見かけた顔だ。
周囲の反応を見る限り、やはりかなり有名らしい。
「ルーク・ヴァレンベルク」
教師が名前を呼ぶ。
ヴァレンベルク侯爵家の令息。
ルークが水晶へ手を置く。
光が広がり、やがて色が定まった。
「属性、闇」
周囲がまたざわついた。
珍しい属性だからだろう。
教師は測定結果を確認する。
「判定、C級」
「やっぱりCか」
「火魔法も使えるって聞いたぞ」
「闇属性なのに?」
「さすがヴァレンベルク侯爵家だな」
周囲から聞こえてくる声に、ルークは笑って軽く手を振っている。
C級。
入学時点なら十分すぎるほど高い評価だ。
それでも本人は、特に嬉しそうでも悔しそうでもなかった。
その笑顔も自然に見える。
ただ、学院都市で一瞬だけ見せた妙な表情を思い出すと、どこまでが素なのか少し分からない人でもあった。
やがてセレナの名前が呼ばれた。
「行ってくるわ」
「頑張ってください」
「測るだけでしょ」
そう言いながら、セレナは水晶の前へ向かった。
赤みを帯びた栗色の髪が揺れる。
手を置くと、水晶が鮮やかな赤に染まった。
「属性、火」
やっぱり火属性だったか。
昔から火がいいと言っていたから、本人としても望み通りだろう。
魔力量が多いことは以前から分かっていたが、実際に見るとかなり強い光だった。
教師が結果を確認する。
「判定、C級」
周囲から小さなどよめきが起きる。
入学時点のC級。
普通に考えれば、かなり高い。
セレナが戻ってきた。
「C級でしたね」
「まあ、悪くないわね」
平静を装っているが、口元が少し緩んでいる。
「嬉しそうですね」
「普通よ」
「そうですか」
「何よ、その顔」
「何でもないです」
「アルもCくらい出るんじゃない?」
「どうでしょう」
俺は自分の手を見る。
魔力量だけなら、昔から多いと言われてきた。
ただ、属性は土だ。
土属性は戦闘面での評価が低い。
どの程度になるのかは分からない。
そして、俺の名前が呼ばれた。
「アルベルト」
前へ出て、水晶の前に立つ。
教師に促され、手を置いた。
魔力を流す。
水晶が光り始める。
周囲から小さなどよめきが聞こえた。
教師も測定器を確認している。
「魔力量は……平均の2倍以上か」
やっぱり多いらしい。
そのまま光の色が変わっていく。
最後に残ったのは、もう見慣れた土色だった。
「属性、土」
さっきまで少し騒がしかった周囲が静かになる。
教師が結果を確認した。
「判定、E級」
今度は別の意味でざわついた。
「E?」
「魔力量、かなり多かったよな?」
「でも土属性だろ」
「そこまで下がるのか」
なるほど。
思っていた以上に、属性の評価が大きいらしい。
俺は水晶から手を離した。
E級。
セレナとの賭けは、俺の勝ちだ。
別に嬉しくはないけど。
級が低くても、昨日までできていたことが急にできなくなるわけじゃない。
戻ろうとした時だった。
ふと視線を感じた。
そちらを見る。
少し離れた場所にいたルークと目が合った。
笑顔は消えていない。
ただ、さっきまで他の生徒を眺めていた時とは少しだけ違う。
俺と水晶を交互に見ている。
何かを考えているようだった。
俺が首を傾げると、ルークはいつもの人当たりのいい笑顔で軽く手を上げた。
俺も軽く返して、セレナのところへ戻る。
「E級だったわね」
「そうですね」
「気にしてないの?」
「特には」
「本当に?」
「はい。できることが減ったわけじゃないですし」
セレナが少し呆れたような顔をした。
「アルらしいわ」
「それより」
「何?」
「俺の勝ちですね」
「…………」
「Dって予想してましたよね?」
セレナが露骨に目を逸らした。
「覚えてないわ」
「学院に来る前、ローデリックさんの部屋で賭けたでしょう」
「そんな昔のこと覚えてない」
「数日前ですよ」
「忘れた」
「都合いいなあ」
「何を賭けるか決めてなかったでしょ」
「負けた方が何かするって」
「具体的に決めてないなら無効よ」
「貴族って怖いですね」
「学院では身分関係ないわよ」
「こういう時だけ使う」
「何か言った?」
「何も」
少しだけ笑った。
その日の測定は、それで終わった。
俺の入学時の評価はE級。
属性は土。
魔力量だけなら平均の2倍以上。
それでも、学院が最初につけた評価はE級だった。
まあ、いい。
評価が正しいかどうかなんて、今の俺には分からない。
これから授業も実技も始まる。
自分がどのくらいできるのかは、その中で分かっていくだろう。




