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第11話 土属性

数日後、お嬢様の属性検査が行われた。


場所は屋敷の一室。机の上には、透明な水晶が置かれている。


俺も見学させてもらうことになった。


「これに触ればいいの?」


「はい」


検査を担当する男が答える。


「触れた状態で、ゆっくりと魔力を流してください」


「分かったわ」


お嬢様が水晶に手を置く。


俺は少し離れたところから、その様子を見ていた。属性検査を見るのは初めてだ。


「属性によって色が変わるんですよね?」


「ああ」


ローデリックさんが答える。


「火、水、風、土。それぞれに対応した色がある」


「2つ使える人なら?」


「基本的には、最も強く適性が出ている属性の色が現れる」


「じゃあ、検査だけだと他の属性があるか分からないことも?」


「そういうことだ」


なるほど。


思っていたより単純ではないらしい。


「じゃあ、何色にもならなかったら?」


検査を担当していた男がこちらを見る。


「まずは魔力を正しく流せているか確認します」


「それでも変わらなかったら?」


「検査器具の不具合を疑います。その後、別の器具や方法でもう一度調べます」


「それでも?」


男は少し考えてから答えた。


「……私は、属性が確認できなかった者を見たことはありません」


「そうなんですね」


少なくとも、この人の知る限りでは全員に何かしらの属性があるらしい。


「アル、質問多い」


お嬢様が言った。


「気になるので」


「今日は私の検査よ」


「ちゃんと見てますよ」


「なら静かに見てなさい」


「はい」


しばらくして、水晶の中に色が広がった。


検査を担当していた男が確認する。


「火属性ですね」


「火」


お嬢様が水晶を見る。


「よかったですね。希望通りじゃないですか」


以前、何の属性がいいか聞いた時、お嬢様は迷わず火と答えていた。


「そうね」


「もっと喜ぶかと思いました」


「何で?」


「強そうだから火がいいって言ってたでしょう」


「別に、分かっただけでしょう?」


お嬢様は水晶から手を離す。


「これから使えるようになればいいのよ」


「お嬢様らしいですね」


「どういう意味?」


「そのままです」


「絶対何か含んでるでしょう」


「ないですよ」


「怪しい」


結局、俺が何を言っても疑われた。



それから1年。


俺は13歳になった。


お嬢様は火属性の魔法を習い始めていた。最初は小さな火を出すところからだったが、少しずつ扱えるようになっている。


俺は相変わらず、屋敷の仕事をしながら文字や計算を学び、カイルさんとの稽古を続けていた。


魔力を扱うための基本練習もしている。


そして、ようやく俺も属性検査を受ける日が来た。


「緊張してる?」


お嬢様が聞く。


「少し」


「火だったら?」


「料理に使います」


「まだ言ってる」


「便利でしょう」


「水だったら?」


「掃除に使えそうですね」


「風」


「洗濯物」


「土」


「畑?」


「全部生活じゃない!」


「生活大事ですよ」


「もっとこう、戦うこと考えなさいよ」


「剣も習ってますよ」


「下手だけど」


「避けるのは上手くなりました」


「逃げることばっかり」


「死なないの大事ですから」


「それはそうだけど……」


話しているうちに、少し緊張が抜けた。



検査は、お嬢様の時とほとんど同じだった。


透明な水晶の前に座る。


「手を置いてください」


「はい」


水晶に触れる。


冷たい。


「ゆっくり魔力を流してください」


目を閉じ、これまで練習してきた通りに身体の中にある魔力を意識する。


それを手のひらへ、ゆっくり流していく。


やがて、水晶が光った。


目を開けると、中に色が広がっている。


検査を担当していた男が確認した。


「土属性ですね」


「土」


思わず繰り返した。


「はい」


横を見ると、お嬢様も水晶を見ている。


「土かあ」


「何です、その反応」


「別に」


「絶対何か思ったでしょう」


「思ってないわよ」


「本当に?」


「本当」


少し怪しい。


でも、俺自身はそこまで残念ではなかった。


「土属性って、何ができるんです?」


「土や石などを動かすことができます」


「地面も?」


「もちろんです」


「道を直したりできます?」


「……できますね」


「畑は?」


「使えます」


「穴を掘ったり?」


「できます」


「便利じゃないですか」


検査を担当していた男が少し困ったように笑った。


「生活や仕事では、非常に有用な属性ですよ」


「戦いだと?」


聞くと、少しだけ間があった。


「一般的には、あまり高く評価されていません」


「そうなんですか?」


「土は重く、動かすにはそれなりの魔力が必要です。それに、攻撃として使おうとすると速度を出しにくい」


「なるほど」


「防御には向いています。壁を作ることもできますし、地形を利用することもできる。ただ、戦闘では火や風の方が扱いやすいと考える者が多いですね」


「水よりも?」


「相性もありますから、一概には言えません。ただ、土属性が戦闘向きではないと思われているのは確かです」


「ふーん」


水晶を見る。


土属性。


戦闘ではあまり人気がない。


でも、別に戦うためだけに魔法を使うわけでもない。


「アル」


「はい?」


「残念?」


お嬢様が聞いた。


「何がです?」


「土だったこと」


「別に」


「本当に?」


「はい」


「だって、戦うのにはあまり向いてないって」


「土でも強くなればいいんじゃないですか?」


「簡単に言うわね」


「それに」


水晶から手を離す。


「道、直せるんですよね?」


「そこ?」


「便利じゃないですか」


「あなた、本当にそういうことばっかり」


「大事ですよ」


前の世界で現場仕事をしていた時、地面を触る仕事なんて珍しくなかった。


掘る。埋める。均す。固める。水が流れる場所を考える。


もちろん、俺は道路を設計していたわけでも、専門的な研究をしていたわけでもない。ただの現場作業員だ。


それでも、土や地面が生活にどれだけ関わっているかくらいは知っている。


「土か」


悪くない。


そう思った。



数日後。


俺は庭に立っていた。


目の前にあるのは、何の変哲もない地面だ。


手を向け、魔力を流す。


「……動け」


何も起きない。


もう一度、地面を意識する。


「動け」


すると、目の前の土がほんのわずかに盛り上がった。


「おお」


本当にわずかだった。


それでも、確かに俺が動かした。


「できた」


もう一度やってみる。


今度は少し横へ。


土が動く。


「面白いな」


何度か繰り返していると、少しずつ感覚が分かってきた。


ただ、思っていたより疲れる。


「これ、大きく動かすの大変そうだな」


しゃがみ込み、地面を見る。


土。


石。


固い場所。


柔らかい場所。


同じ地面でも全部違う。


魔法として強いのは、きっと大きな壁を作ったり、大量の土を一気に動かしたりすることなんだろう。


でも、地面を眺めているうちに、一つだけ疑問が浮かんだ。


全部動かす必要って、あるのかな。

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