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エルフの森からの脱出  作者: 甘頃


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4/11

ロル・リユル・ラーレッテ




二人のエルフは牢から去り、

格子が惜しくも元の形に戻った。

ひとまず一難は去ったが⋯さて。

どうやって拘束を解こう。

エルフの少女の勘違いの衝撃が強すぎて、

すっかり忘れていた。

この魔法をかけた上司のエルフも

きっと似たような心持ちだっただろう。

腕と足に力を込めるが、

蔓は緩むどころかびくともしない。

どうしたものか、エルフ達を

呼びかけようにも下手な言葉はかけられない。

ひとまず格子の傍に行くために、

ゆっくり膝を折る。そして慎重に前に進む。


「びっくりしたー、急に来たよね」


牢のエルフの一人が急に話し出した。


「殿下は普段こんな場所には来られないから⋯

心臓に悪いわ」


何とか格子の傍まで来たが、

こう話していると小さな音では気づかれないな。

しかし折角話し始めたのだから、

情報をできるだけ引き出そう。


「にしてもさっきの見てた?

さすがにおでこと『キュキュキュキュー!』


突如、鳥の囀りが

増幅されたような音が響き渡った。


「何事?」


二人のエルフは音を聞いた直後、

足早に牢の前を去っていった。


「あ⋯」


今更出た惜別の声が散っていった。

格子におかしな体勢で縋り付く人間だけが残る。

エルフ達がここに来るまでしばらくこのままか。

杜撰な扱いに腹が立ってきた。

今なら誰も見ていない。


「ったく、いい加減にしてくれよ⋯」


ありふれた言葉だったが、話すこと自体を

制限してきたからこその解放感を得られた。

エルフ達が戻ってくる気配はない。

もう少し喋ってもいいかもしれない。


「面倒なことになったなあ⋯どうやって脱出しよう」


ずっと頭の中で考えていたことを、

言葉に出して整理する時間が来てくれた。


「あら?」

「ッ!?」


背後から声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。

恐る恐る後ろを振り向く。

やはりそこには、

殿下と呼ばれていたエルフの少女がいた。

何故か牢の中におり、

何故か天井に穴が空いており、

何故か穴から蔦が垂れている。

よく見ると少女の腕が淡い光を纏っており、

垂れた蔦は僅かに唸っている。

植物を操って天井に穴を開け、

そこから蔦を伸ばして降りてきたのか。


「あなた今、言葉を⋯」


しまった、聞かれていたか。

とぼける振りをして誤魔化そう。


「?」

「⋯フヨウ、魔法を解き忘れてるわね」


フヨウ、あの上司のエルフのことだろうか。

少女の手がより光りだす。

もしかして拘束を解いてくれるのだろうか。


『ギュッ』

「痛っ!」


期待とは裏腹に、

手足の拘束が強く締め付けられた。

反射的に体が仰け反り、地面に横に倒れてしまう。


「痛っ⋯ね」

「ハッ!」


痛みの反射で、思わず言葉を話してしまった。


「今のを痛いっていう意味で喋ったのなら、

あなた本当は言葉がわかるんじゃないの?」

「⋯」


なんて酷いやつだ。

逆の立場ならもうちょっと緩く締めていたぞ。


「応えないならもっと強く締めるわよ?」

『ギュッ』

「わかりました!わかりましたよ!」


観念した瞬間、拘束が緩み始め

最終的に蔓が地面の中へ消えていった。

設定を自ら破ってしまったショックで、

未だ横になっている。

あのエルフの少女は、

こちらを見下しながらニヤニヤと笑っている。


「よかった、ちょうど話し相手が

欲しかったところなのよ」

「⋯何故?」

「緊急招集でエルフが皆いなくなってね、

フヨウの立場だとしばらく戻らないわ」

「⋯そう」


高貴なお方があっちこっち移動したら、

それこそ騒ぎになるんじゃなかろうか。


「!」


気が抜けて瞬きをした瞬間に、

少女と正面から目が合う。彼女も寝転んでいる。


「あなた、ここから抜け出したいんでしょ?」

「え⋯」


何故だろう、何故こうも手のひらで

転がされているように感じるのだろうか。


「まだ答えなくていいわ。

⋯私とお喋りしてくれたら、

少しは口が軽くなるかもね」


表面的には取引のように見えるが、

その奥にある真意が分からない。


「⋯何を話せば?」

「人間のことを教えて」


人間のこと。人間という種として

周りの人を見たことがないから、どう話そう。

エルフとの違いを通して考えれば分かりやすいか。

起き上がって喉を整える。


「人間は⋯肉を食べます」

「それは聞いたことあるわ。何のお肉を食べるの?」

「僕の村では⋯鶏とか兎と「兎!?」


少女との距離が一気に離れる。

その目は軽蔑や恐怖が入り交じっていた。


「あんなに可愛い生き物を殺して食べるの!?

人間はやはり野蛮な生き物だわ⋯」

「放置すると農作物を食い荒らすんです、

食べなくても駆除しなきゃいけないんです」


人間代表として人間を擁護する感覚は初めてだが、

引いてはならない一線を感じた。


「確かに、私たちエルフは木の実や葉を食すから、

うさぎとは食べ物で争わないわね」

「そうなんですか」


樹上生活していることは知っていたが、

そういう所で価値観が分かれるのか。


「面白いわね⋯あなた名前は?

私はロル・リユル・ラーレッテ」

「⋯ルドル・ファルス」


色々とおかしな交流を経た後に、名前を教え合う。

順序の狂いはもはやどうでもいい。


「ルドルね、ねえルドル、会話に障りがあるし、

あなたもくだけて話さない?」

「え!?それはその⋯不敬に値すると⋯」


突然何を言い出すんだ。

こちらは綱渡り状態なのに

さらに綱を細くするようなことを。


「他でもない私が許しているのよ?

それを誰が咎めるの?」

「いやでも⋯」

「まどろっこしいわね、

私は対等な関係が欲しいの。

だからこれは私のお願い」

「!?」


突然手を握られた。

さっきは僕のおでこも触らなかったのに。

輝く翡翠の瞳に見つめられる。

思わず目を逸らしてしまった。


「どうなの?」

「うーん⋯」


冷静に考えると、

声を出させたいがために

拘束を締めあげられた過去がある。

ここでロルのへそを曲げて、

寿命が縮む結果となるのはこちらも不本意だ。


「⋯分かったよ」

「やった!」




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