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エルフの森からの脱出  作者: 甘頃


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3/11

エルフの少女



「苦しゅうない」


牢の前の二人は跪いているように見え、

そして格子の隙間から足音の主の姿が覗く。

一人はやはりエルフの女上司。

もう一人は⋯見当たらない?。


「殿下の御前だ、平伏しろ!」

「ッ!」


上司エルフの手が格子から伸びて頭を掴まれ、

手首の力だけで地面に叩き伏せられた。

鼻の痛みに苦しみながら顔を上げると、

そこでやっともう一人の姿が目に入る。

跪いている部下のエルフ達と頭が並ぶ身長の、

煌びやかな装飾を纏った子供のエルフ。

見た目の年齢は僕より少し小さいくらいか。


「許可が出るまで顔を上げるな!」


また上司のエルフの手によって、

顔を地面に擦り付けられる。


「うぐぅ」

「ちょっと、そんなことしたら折角の

人間の顔が見れないじゃない」

「は、失礼しました」


髪の毛を引っ張り挙げられ、

無理やり顔を上げさせられる。


「全員、楽に」


三人の大人のエルフが、

直立し一様に手を後ろに組んだポーズをとる。

言葉が通じていないという設定なら、

ここは真似をするべかどうか。

身振りは目で見てわかるものなので、

三人と同じポーズをとる。


「貴様はせんでいい⋯!」


ハズレを引いてしまったか。

しかし今更止めることも出来ない。


「面白い奴。名前を言いなさい」

「殿下、

こやつめはまだ言葉も話せぬ歳かと」

「あらそう、馬鹿なのね」


設定が忠実に伝わっているのはいいことだ。

いいことなのだが、自分より幼い見た目のやつに

馬鹿と言われるのは癪に障る。


「中に入って、よく見てもいい?」

「ご命令とあらば⋯しかしご注意を。

何をするか分かりませんので」


僕が猛獣か何かに見えているのだろうか。


『バシッ!』

「うっ」


後ろ手に組んでいた手を、

そのままの形で蔓によって拘束される。

それに続いて足も。

バランスを崩し、また地面に倒れ伏してしまう。

折角立ち上がったのに。

上司のエルフの手振りで、

格子の植物の何マスかが解きほぐされる。

植物を操る魔法。

任意の場所に植物を生やすこともできるようだ。

手足を縛った蔓は地面から生えてきた。

空中に植物を出すことはできないのか?。

二人のエルフが牢に入ってくるが、

後ろ手に縛られているので顔を上げられない。


「顔を上げさせて」


両頬を上司のエルフにむんずと掴まれ、

無理やり顔を上げさせられる。


「あら、鼻血が出てるじゃない、

これじゃ顔がよく分からないわ」


指摘されて、ようやく自分の鼻筋に

生暖かい液体が垂れていることに気がついた。


「お目汚し、失礼いたしました」


言葉の直後、上司のエルフが手拭いを取り出し、

鼻筋についた血を拭った。

それと同時に淡い緑の光が一瞬顔を覆い、

光が収まると血は治まっていた。

血を止める魔法か何かだろうか。


「見事ね」

「恐縮です」


短い言葉が交わされた後、

壁にもたれかからされた。


「改めまして、こちらが人間の男子でございます。

齢は成人の半分以下かと」


年齢が低く見られているのは、

演技によって植え付けた設定の賜物だろう。

しかしそれ以外にも、

僕の見た目が年齢より

幼く見えるというのもあるだろう。


「うんうん、聞いた通り、

耳が短くて少し太っているわね」


相手がこちらを観察しているので、

こちらもまた相手を静かに観察できる。

殿下と呼ばれているエルフ。

その敬称はこのエルフを

高貴な女性だと説明している。

どういった人物に対する敬称かは、

いまいち思い出せない。

格子を挟んだ時から分かってはいたが、

やはり見た目は年下に見える。

今まで見た四人のエルフの中で、

一番長く艶のある金髪をしている。

仄かな光の中でその髪は、

自ら発光しているかのように瞬く。

こちらも観察していることに

気がついたのか目が合う。

そして翡翠の瞳が近づいてきた。

目の輝きもまた、

他のエルフとは比べ物にならない。

思わず目を逸らしてしまった。


「人間の瞳は面白みに欠けるわね。

他になにか変わったところってある?」

「身体中くまなく検査しましたが、

幼少期に現れる特有の斑以外には、何も」


眠っていた間に全身まさぐられたのか。

反射的に尻の穴が縮こまる。


「斑?それってどこにあるの?」

「臀部です」

「へー⋯。それ、見てみたいわ」


殿下がにわかにご乱心遊ばされた。


「⋯承服しかねます」

「もう一度言うわね、見てみたいわ」

「申し訳ありません、

私めには殿下のご両眼を汚すことなど、

ましてや人間のものなど」


上司のエルフが平伏する。ましてやは余計だが、

最もな意見である。


「もういいわ、勝手に見るわね」


殿下と呼ばれてるエルフの手が淡く光出した。

何かの魔法を出すつもりだ。

エルフの上司は何も言わず、手も出さない。

しかしこちらを睨みつけてくる。

まるで何か抵抗しろと訴えてくるような目つきだ。

拘束してきたのはそっちなのに。

お尻を見られるのを防ごうったって、

放屁するしか思いつかない。

そんなことをしたら処刑日が今日になってしまう。

それだけは防ぎたい。

とか考えているうちに、

かのエルフの手が目の前まで伸びてきた。

目の前?。


『ペラっ』


下賤に触れないためか、

魔法で邪魔なものを退けたのだろうか。

僕の前髪が淡い光に覆われて、

捲りあげられ額をさらした。


「あら?何もないじゃない」


それもそのはず、そこは臀部ではないのだから。

小難しく、脚部とか頭部とか似通った名前も

多いので、間違うこともあるだろう。

不思議そうな顔をしているエルフの少女の後ろで、

笑いを堪えているエルフが一人。


「臀部っておでこのことよね?」

「そ、そのはずですが⋯くふっ、

私の見間違えでした」

「もったいぶっていたから何かと思ったら⋯

つまらないわね」

「申し訳ございません」


目の前に迫った手が下ろされ、

同時に前髪も下ろされた。


「他に何か面白いものはあるかしら?」

「いえ、特段珍しいものはございません」

「そう、なら人間観察はこれで終わりね」


二人のエルフは牢から去り、

格子が惜しくも元の形に戻った。


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