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エルフの森からの脱出  作者: 甘頃


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2/11

現状把握



今、この場で僕がするべきことはただ一つ。

この森から脱出することだ。


「はい、ご飯」


いつの間にか髪の短いエルフが帰ってきて、

格子の隙間から木皿を出した。

皿には木の葉のようなものや木の実が

盛られており、色鮮やかではあった。

ただあまりにも美味そうに見えないので、

思わず肉を探してしまった。

残念ながらそういった食いでのあるものはなく、

仕方なく木の実を一つ鼻に近づける。

特に刺激臭や異臭はしない。

人間に食えるだろうか。


「毒なんか入ってないよー」


髪の短いエルフが怪訝に見つめながら言ってきた。

毒の心配は確かにぬかっていたが、

そもそも別の心配をしているのだ。

だが言葉が通じると思われたくないので、

しばらく嗅いだり触ったりしておく。

何とか一番食えそうな、

村の周りでもよく見かける木の実を見つけた。

しかし口にしたことはなく、

家族から口にするなとも言われていた。

恐る恐る口の中に入れる。そして丹念に舐め回す。

毒の警戒もそうだが、

青臭さにしり込みし噛み潰せずにいるのだ。

意を決して実を舌で奥歯に運び、

嚙み潰す準備をする。


『グチュ』


酸っぱい。

人間が好んで食べない木の実の平均的な味。

一番食べられそうなものでこれだから、

他のは期待できそうにないな。

もはや無感情で葉っぱや木の実を食み続ける。

ああ、肉が食べたい。

そのどれもが苦味や酸味しかなく、

出来損ないのチーズの甘みすら恋しくなる。

皿の中にある食物は全て食べきったが、

腹に溜まっている気がしない。

こんな食事をしているから、

エルフは痩せているのだろうか。

とりあえず皿を格子の前に置いておくと、

看守の一人がすぐに回収しどこへ行った。

改めて部屋を観察する。

脱出できそうな窓はなく、

隙間といえば目の前の格子のみ。

ただこの格子状の植物、

開け閉めするために手を引っ掛ける場所がない。

そいうえば、未だこの格子を開けているところを

見たことがない。

格子の隙間の幅は、

大人の腕が入り僕の頭は入らない程度の幅。

どこを観察しても、

鍵穴どころか扉と格子の境目すら見当たらない。

この格子もまた、

魔法の力で作られているということだろうか?。

この格子が脱出不可能ならば、

枝が密集している床や壁、天井はなおのことだ。


「あんまり見ないの」

「ごめん」


一瞬僕のことを注意したのかと肩を跳ねさせたが、

エルフ同士の会話だった。

髪の短いエルフが、

僕のことをまた見ていたのだろうか。

人間はそんなに珍しいのだろうか?。

それとも男の方が珍しいのか?。

そういえば男のエルフをまだ見ていないな。

今まで見た三人全員女だ。

エルフは男が少ない種族?

そういうのは聞いたことも読んだこともないな。

単純に人間の男が珍しくて

観察していただけだろう。お互い様だ。

改めて、何か脱出の糸口はないだろうか。

そういえば小便をした穴があったな。

小便を注いだ穴を覗き込むと、

こぶし大の深淵がこちらを覗き返すばかりだった。

異臭はしない、

底に汚物が溜まっている訳ではなさそうだ。

我慢して少し引っ掻いても、

ここの枝だけ特別

柔らかいということもなさそうだ。


「何してるの?あの子⋯」

「そっちこそ見てるじゃん!」


牢の前の二人のエルフが、

かろうじて聞こえる声で話している。

言いたくもなる気持ちも分かる、

排泄した穴を嗅いでいるのだから。

何にせよ穴は脱出には使えそうにないだろう。

こうなると早くも手詰まりか。

飯が三食渡されるとも限らない。

あまり動き回らない方がいいだろう。

寝転んで、

なにかいい案が浮かんでくるまで思案するか。

にしても災難だったな。

たった数歩領土に踏み込んだだけで捕まるとは。

偶然巡回している所を見つかったんだろうな。

本当に災難だ。

⋯本当に偶然か?。

領土に踏み込むまで

今か今かと待たれていたのはそうだろう。

しかしいつから見られていた?。

エルフの領土に近づき始めた頃から?。

もしかして僕が村を出た頃から?。

そう想像した瞬間鳥肌が立った。

いや、それならば領土に踏み込んだ時、

背後の木々から降りてくる可能性が高いはず。

急いで回り込んだという線も捨てられないが。

警備を厳重にしているというのが

正しい見方だろう。

それなら男のエルフが見張るのが合理的なはず。

男のエルフはどこかに出払っている?。

警備もできないほどに?。

一番最初に頭に過ぎるのは、戦争の準備。

兵士として何処かに集結させている可能性。

エルフは近々どこかの国と

戦争を起こそうとしている?。

可能性の話でしかないが、

今の僕の状況を鑑みるに非常に現実味がある。

となると僕はただ刑を執行されるのではなく、

何かに利用される可能性もある。

とは考えてみたものの、

未だ向こうからそういった接触はない。

僕が言葉を操れないほど幼いと

素直に騙されてくれている。

見た目の年齢的にも人間なら

言葉が通じると思うものだが、

エルフだと違うのか?。

人間の年齢に対して

どれ程言語能力を有するか知らないだけか?。

寿命は個人によってまちまちな種族だと聞く、

見た目を重視しないだけの可能性もある。


「ねぇ」

「私語厳禁」

「いいじゃん誰もいないんだし」

「虜囚がいるでしょう?」

「言葉通じてないみたいだよ?

それに寝てるみたいだし」

「あなたはもう⋯」


二人のエルフがなにやら話し始めた。

やはり言葉が通じていないと思っているようだ。

更に好都合なことに眠っているとも

勘違いしてくれている。聞き耳を立てていよう。


「私達、これからどうなるんだろうね」

「さあ⋯上からの通達が無ければ、

なんとも言えないわ」

「お家に帰りたいなー」

「こんな時のための私達でしょう?

しっかり役に立たなきゃ」

「はーい」


会話が終わってしまった。

もうちょっと情報を引き出したかったが仕方ない。

想像していた可能性の中から、

確定情報は何も得られなかった。

しかし何らかの有事であることは

会話から察することができた。

このまま寝ていたらもっと

話し込んでくれないかな。

髪の短いエルフは口が軽そうだ。

その思いに反して、

牢の前の二人は中々話さなかった。

雑談をする気分でもないという緊張感が、

向こうから伝わってくる気がする。

時が止まったように、静寂がその場を支配する。

空気の動きも、日の動きもないこの空間は、

一層静寂を感じさせる。

段々と、自分の鼓動や

そこから来る体の微細な揺れが感じ取れる。

そこまで感覚に飢えているからこそ、

僅かな違いも感じ取れるというもの。

地面が小さく揺れ、

僅かに足音のような音も聞こえてくる。

分かる、二人分の足音だ。

片方は武骨な音、上司のエルフだろう。

もう片方は小さく小刻み、知らない足音だ。


「「ははっ!」」


牢の前の二人が急に大きな声を出して、

思わず飛び起きてしまう。


「苦しゅうない」




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