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エルフの森からの脱出  作者: 甘頃


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10/11

エルフの魔法と人間の悪あがき




元から揺らぐことはなかったが、

さらに決意が固まった。ロルとともに脱出する。

脱出には出口の廊下を

突き止めることが不可欠だった。

それに加え、

ロルの部屋を突き止めるという工程も増えた。

ロルの魔法が使えないとなると、

僕個人での力で牢を脱出する必要性が生まれる。

腐った実を擦り付けた壁を見る。

色は落ち着いて他と遜色無くなってきている。

だが枝に触れると、

その中身が空洞になっていることがよくわかる。

中身が細くなった枝は、

後からでも簡単に隙間を作ることができる。

仮に時間をかけて壁の奥へと実を

擦り込んでいったならば、穴を作ることができる。

しかしこの牢は天井、壁、

床共に外へと繋がっている。それではだめだ。

穴を作ることができても、

看守からは丸見えだろう。

そこでトイレの穴を使う。

元々ある穴を広げ僕が入れるようにし、

断熱層に横穴を開け潜って脱出穴を作る。

脱出穴はどこに繋げようか。

なるべく近くで出入りしやすく、

目に付きにくい場所。

看守の視線がどう動くか考えみよう。

まず牢の前にいる時は外側を向いている。

何か用事があって移動する時は左に向く。

帰ってくる時は右を向いている。

恐ろしく単純に考えても、

およそ死角らしい死角が無いように思える。

いや、およそ今の看守に全く用のない

場所が存在する。僕よりも右側の牢だ。

看守が僕よりも右の牢に

足を運んだところは見たことがない。

廊下までは見るだろうが、

牢まで見るということは

ほとんどないと言っていい。

しかし別の牢に穴を作ったところで

格子から抜け出さなければ意味を成さない。

そこで格子の真下に穴を作る。

皿と腕を通せるようにか格子の下に隙間がある。

念を入れて二つ右隣の牢まで穴を掘り進めようか。

もし見られてもいいように

何か偽装をする必要があるな。

普通に枝に実を擦り付けると、

枝の中身だけが限りなく収縮される。

トイレの変色した枝のように、

皮だけ取れて元より色味の変化が

薄いのは使えるかも。

だが穴の出入り口の両方に小便をかけるのか⋯。

いささか抵抗がある。

トイレの穴を使用している時点で、

汚しさに目をつぶるしかないのはそうなのだが。

臭いで穴がバレる可能性もある、

少量ずつ小便をかけて誤魔化すしかないだろう。

実を消費するタイミングは、

看守が料理を持ってきたあと皿を回収する時。

かなり長期的な計画になるだろう。

その間にロルの謹慎がとかれるかもしれない。

だがやらない理由などない。

少しでも早く脱出するためには。


『ムズ』

「ん⋯」


トイレがしたくなった。それも大きい方を。

トイレを見つめる。

この穴は脱出の生命線であり、

希望の架け橋であり、帰郷の窓口である。

と同時に用を足すためのトイレでもある。

人生最大の葛藤が生じる。

この穴にするべきか否か。する場合は、する。

だがしないとなった時どこにするのか。

部屋の隅?臭すぎる。

何より異常性を察知され脱出穴がバレかねない。

やはり穴にするべきなのか。

した場合どれほど計画が頓挫するのだろうか。

雨が降るまでの間?直前に降ったから

次に降るのはいつ頃になるだろうか。

そこまでに我慢できるかと言われれば

絶対にできない。決壊してしまうだろう。

やはりするしかないのか。

いや計画が⋯ロルが⋯

でもそれよりも大事にものが⋯。


「ふう⋯」


看守に凝視されながらスッキリする。

やはり我慢はよくない。

こんな閉鎖的な空間で異臭が開放されるのも、

心身共に健康に良くないだろう。

最近の食事が悪かったからかあまり

形のいいものは出なかった。


「はぁ⋯」


看守がため息をついた。

そこまで臭うほどだったのだろうか。

突如看守が格子の一部分に魔法をかけ、

人が通れるほどの隙間を作った。


「出てきて」


ズボンを履き言われた通り牢から出る。

出ろと言われたのは初めてだ。

看守は無言で格子を閉じ、

左隣の牢の格子を開けた。


「入って」


なるほど。雨が降った直後にトイレをしたから、

牢が移されたのか。大人しく従う。

格子が閉じられ、

何事もなかったように看守は配置についた。

これでこれから計画的にことを進めれば、

自分の不始末によって

計画が停滞することはなくなるだろう。

何かの拍子に元の牢を覗かれない限りは、

計画は水面下に進むだろう。

次からは雨の降っているタイミングなどで

用を足すとしよう。

このままこの牢で過ごすことになるだろうか。

ここにロルを呼べる枝はない。

もし元の牢に戻れるのだととしたら、

雨が降るまで腐りかけの実は温存しておこう。

数日後、雨が降っても牢は元に戻らず、

愛想の悪い看守は何も言わなかった。

この牢で過ごすことが決定したのだろう。

一人での戦いが本格的になった。

目標は二つ右隣の牢の格子の隙間、

費やされる時間の検討はついていない。

日に数回の食事の度に食べられる野菜を選別し、

腐りかけの実を隠す。

皿が回収され看守が持ち場を離れた時に、

穴に手を入れ実を擦り付ける。

それが終わると何事も

無かったかのように寝転び、一日を過ごす。

次の食事の時、

前回擦り付けた箇所を慎重に押して穴を形作り、

同じ工程を繰り返す。

最初はトイレの穴を広げることに実を費やした。

バレないようゆっくりと広げた。

最初は腕だけ入る大きさだったのが

頭も入るようになり、

上半身が入るようになった。

断熱層は柔らかく、

体を押し込むと枝が折れて

端から修復され始めた。

実を使って枝を変形させ

穴を形作る要領で掘り進めるのがいいだろう。

まず一度断熱層の周りを一周押し固めて、

ゆとりのある空間を作る。

落ちるほどでは無いが、

下に外と繋がる穴があるので

作業をしやすくするためだ。

穴を掘り進める方向は、

牢の対角線よりやや内側に

角度を向けた方向に決めた。

途中から穴に部屋の光が入らなくなり、

暗い空間で掘り進めることとなる。

しかし自分の体を使い

何度も直線具合を確認することで、

問題を解決した。

心配だったのは、修復機能とは別に

時間をかけて枝が流れていく構造だ。

それは杞憂だったようで、

一度枝を変形させられれば

同じ形を維持し続けてくれた。

むしろ穴が補強され断熱層の中で

より作業がしやすくなった。

地下での進み具合を地上で

シミュレーションする。

方向と距離の参考にするのだ。

なるべく地下と同じ体勢、

速度で進み具合を測る。

未だ看守に勘づかれてはいない。

何日か経った所で、

地上でのシュミレーションが壁に到達した。

壁の真ん中やや手前側に位置していた。

いい角度で穴を進められた。

ここからは穴は壁の奥へ行き、

シュミレーションが難しくなるだろう。

感覚だけで格子への到達を測る必要がある。

何か指標はないだろうか。

体の脛、太腿、上腕、

前腕などでより細かく穴の距離を測る。

この牢を隣の牢だと仮定して、

壁の厚みを加味し大体の距離を予測する。

試行回数を重ね情報を積み重ねる。

それでもまだ正確と言うには程遠い。

暗闇を掘り進め、食事を摂り、寝る。

それ以外は穴とロルのことを考える。

かなり進めた時ふと思い至ったのは、

途中で上に穴を開け経過を確認すること。

距離的には二つ右隣の牢に

到達していてもおかしくない。

少し周りに空間を作り、直上に掘り進める。

やがて床の太枝に到達する。

太枝は中々にしつこく、

一本反らせるのに実を

いくつも要することになった。

何本も反らせて穴の形にし、

それを同じように上昇しながら続ける。

やがて穴に光が漏れ始める。

光が零れる小さな穴を覗き込むと、

牢の天井が見えた。

行き過ぎて廊下にたどり着いてしまうことを

心配したが、安心した。

穴を広げ、僕の頭が通る大きさにする。

頭を押し込んで上の空間に飛び込む。

どうやら牢屋のやや左側、

格子まであと少しという場所に出たようだ。

測った距離から、

ここが一つ右隣の牢でないことはわかる。

つまり後少し、右前方に穴を掘り進められれば、

脱出の足がかりができる。

今ここで上に穴を開けたことにも、

なにか意味が見いだせるかもしれない。

例えばそう、穴が開通した際には

穴を開けっ放しで戻ることになるだろう。

事前に穴を開ける床にの太枝に、

どうにかして伸縮させる細工をすれば解決出来る。

小便をかけた枝に実を擦りつければ、

そこまで枝が収縮しないことが分かっている。

カモフラージュと扉の役割を兼ねて、

牢の中から出口に予め小便をかけよう。

今頭を出しているこの穴にも

カモフラージュを施してもいいかもしれない。

ならばまずこの牢の中の穴を、

出られるくらいまで広げなければならない。

穴の周りの太枝に実を擦り付け、

反らせながら肩が入る大きさまで広げる。

数日の後、肩が通るようになり

全身を穴から出せるようになる。

そして地下の穴の角度から、

最も開通しそうな格子の下の隙間を特定する。


「ふぅ⋯」


その格子の下の隙間と牢の中の穴に

少しだけ小便をかけ、残りを牢の中で済ます。

予め残しておいた実を擦り付け、

色を元の色のようにしてカモフラージュする。

連日同じことを繰り返し、

蓋の役割をしている床の太枝が

柔軟性を持つようになった。

次からは地下の穴の掘削を再開し、

実を一つだけ開通予定地に毎回擦るようにする。

二つの壁を越えて、

トンネルは格子の下と思しき場所に到達する。

そこから上へ上へと穴を広げ、

とうとう歪な形の硬い太枝の床に着く。

やはり格子は多少

地面に突き刺さっているようだ。

まずその場に少し広い空間を作る。

そこから格子の隙間を探し、

そこ目掛けて上に穴を掘る。

枝が太いため断熱層より時間はかかったが、

その分強度が維持されている。

一本、また一本と枝を退けていくうちに、

穴に光が差し込む。

穴を覗き込むと、目の前に格子が見えた。

目標にたどり着けたらしい。

牢の中で一度上に掘った経験が

大いに役に立ったようだ。

光が差し込んでいる穴に指を突っ込むと、

力はいるが太枝を曲げることができた。

下から実を擦り込みながら、

指を使い手を使い腕を使って太枝を曲げる。

光が漏れるほど穴が、

僕が通れるくらいの穴に成長した。

格子の下に頭を出す。

そして外に向かって体をくねらせ、

肩、腰、足の順に床から出す。

僕は今、廊下に立っている。

自力で格子のある牢から脱出したのだ。

はやる気持ちを抑え、

元の穴に戻り穴を閉じて自分の牢に戻る。

これで翌日から、

看守の目を盗んで牢を

抜け出しロルを探すことができる。

念を入れて行動を起こすのは

つまみ食いをするエルフの時にしよう。

もう長いこと粗末な食事をしたせいで、

日の終わりには立つのも辛くなってくる。

体力温存のために今日はもう寝よう。

明日が楽しみだ。静かに目を閉じる。





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