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エルフの森からの脱出  作者: 甘頃


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11/11

情報収集




決行の初日。野菜くずをより分けて

青い部分を食べ、腐った部分はトイレに放る。

皿を出すと看守が面倒くさそうに回収し、

左へと歩いていった。脈を数え始める。

エルフの聴覚を危惧し、

足音が聞こえなくなってから穴に潜る。

そして先日開通した床から顔を出し、

出口を念の為閉じておく。

両の足で廊下の床を踏みしめる。

ロルによって簡単に踏めた床だった。

今一度しっかりと踏むまで、

どれ程の時間を要しただろうか。

ロルの魔法は凄いな。

慎重に歩を進め、廊下の先々を注視する。

看守はもう見えなくなっている。

相変わらず廊下に人の気配はなく、

牢は一様に空だった。

ロルの部屋はこの階の上にある。

最初にロルと話した時のことを思い出そう。

彼女は気づいた時には既に背後に立っていた。

天井から侵入していたのだ。

もし砦の中央からから天井伝いに

歩いてきていたなら、足音が聞こえていたはず。

聞こえていなかったということは、

直接天井に降りた可能性が高い。

ロルの部屋は、僕の牢の真上にある?

もちろん別の場所で謹慎しているかもしれない。

だが一番最初に調べる目星としては、

全く問題ないだろう。

砦の中央の大きな螺旋階段にたどり着く。

相変わらず植物とは思えないほど大きい。

上下を見渡して人がいないことを確認する。

招集もないのに人の気配がない。

螺旋階段を歩く足音が、

下の方で僅かに聞こえるくらいだ。

足音の主は看守だろう。

脈の時間では、折り返しの時間はまだ早い。

早速上へ上がっていく。

四方に廊下が伸びているので、

通り過ぎる廊下を一瞥しつつ四つめの廊下を見る。

長い長い廊下が続いているが、

牢屋のある廊下より明るく掃除されている。

砦の中の兵隊の居住区だろうか。

ここより下の四つの廊下は

全て牢のある廊下だった。

ここより上の廊下から、

エルフたちの生活に係る場所ということか。

もう一周、螺旋階段を上り

三つの廊下を一瞥する。

同じような構造の廊下だ。

四つ目の廊下の前で、足場の違和感に気づく。

枝で構築されている床が均されている。

沢山のエルフがここを行き来したのだろう。

廊下はそこまで長くなく見える。

装飾は今までよりもエルフのモチーフや

シンボルらしきものが散りばめられている。

そして何より、部屋には全て扉がつけられている。

牢や居住区に扉ははなかった。

部屋数は四つほど。廊下には人の気配はないが、

独特のものものしさがある。

ロルが言っていた、僕の牢より上にある

エルフが会議する場所とは、ここなのだろう。

ここにロルの部屋はあるだろうか。

調べたいが、もう時間だ。

そそくさと螺旋階段を降り、

長い廊下を歩いて僕の牢の二つ右隣の牢に着く。

格子の下の隙間にある、

よく見ると他と色が違う太枝を曲げ、穴に入る。

下から穴を閉じ、斜に掘り進められた穴を通り、

無事元の牢に着く。

およそ完璧と言ってもいい一連の動作。

自分でも惚れ惚れする程だ。

丁度、左の廊下から足音が聞こえてくる。

その音を聞きながら悠々と寝たふりをした。

僕の牢がある廊下の直上には、

エルフの居住区と物々しい場所があった。

ロルのあのなりで、一般のエルフと同じ

居住区にいる確率は低いだろう。

ともすれば、あの物々しい廊下にある

四つの部屋のどれか。

あるいはまた更に上の空間に、

ロルの部屋並びにロルの居場所があるはず。


「はぁ⋯」


ため息をつきながら看守が帰ってきた。

さっそく格子の前で座っている。

相変わらずこのエルフは職務怠慢が好きだな、

と性格を問うこともできる。

よく考えれば、看守は看守として

任用されている以上その素質がなければならない。

今それを大きく下回っているのに、

人選ミスだと断じるのは早い。

性格的な要因も含めて、

仕方の無い理由を考えられるかもしれない。

まず戦時という仮定ならば、

緊急で登用された訓練されていない人材という線。

それに加えて食料が不足し、

栄養が足りずに立つこともままならない可能性。

虜囚の少量をつまみ食いするくらいだ、

余程足りていないのだろう。

ここに来てこれまでの想像を

補強する素材が現れた。

もはや想像の域を出ただろう。

不安などもはや考えても尽きることはないが、

心配なのはロルだ。

ロルはこの森から脱出したいと言っていたが、

果たしてそれは正しいのだろうか。

エルフの戦争相手はまだ定かではない。

ドワーフや獣人の国が相手かもしれない。

だがもし人間の国と戦争していた場合、

脱出が非常にまずいことになる。

脱出に成功した場合、

それ即ち敵国への亡命という構図が完成する。

ロルのような家柄の良さそうな人物の場合、

その影響は計り知れない。

ロルはエルフによる多大な恨みを

受けることになるだろう。

二人の生き物では到底耐えきれないほどに。

それは自由の代償足り得るだろうか。

ロルの生き方は大いに尊重したい。

だが無謀なことはして欲しくはない。

なるべく安全に、そして彼女らしい

生き方をして欲しいと心底思う。

現時点での脱出というのは、

それに対してあまりにも不安要素がすぎる。

戦争が終わるまで待つ?なるべく

そうなればいいが、刑が執行されるのが早そうだ。

ドワーフの国へ亡命する?ドワーフの国は

人間の国の北にあり、方向は分かる。

だがドワーフはエルフとの仲が悪く、

亡命してもいい暮らしはできそうにない。

獣人の国に亡命する?獣人はどの国とも

親交がない。二人とも歓迎されないだろう。

それにエルフの国とは国境を接しておらず、

人間の国を経由する必要がある。

ロル一人が暮らすにしても、

やはり人間の国に行くのがいい。

戦争が無ければ。

ロルには悪いが、昨今の情勢はとても

脱出に向いているとは思えない。

混沌としているからこそ、ロルは今この時を

選んだのかも知らないが。

ロルにはエルフの国の範囲で自由を

模索して欲しい考えてしまうほどに、壁は高い。

全てを一挙に解決する冴えたやり方。

そんなのは最初から頭に浮かんでいる。

戦争を終わらせて、ロルを脱出させる。

そんなことが出来たら苦労はしないと、

考える前から分かっている。

だがもし、それを達成することができたら、

僕を見るロルの目はどうなるだろうか。

至極邪な考えだが、この牢で

大人しくしないことの全てがそれにかかっている。

もうロルの悲しい顔は見たくない、

そのためなら戦争だって終わらせてやる。

だがどうやって?この砦で

脱出どうこうしているうちは、

何の情報も掴めない。

⋯直上の会議室がありそうな廊下、

あそこにもしかすると情報があるかもしれない。

ロルの居場所を突き止めるのが先か、

情報を集めるのが先か。

次回の方針を決めよう。今回慎重に進んで、

たどり着いたのが物々しい廊下。

歩き慣れるとはいえ、

次回行けるとしたらそこよりも

やや上の空間だろう。

その空間に大きな収穫があるとは

確定していない。なら確実にことを進めよう。

次回は物々しい廊下に行き、

四つある部屋を調べ情報を集めよう。

もう考えることも無くなってきたので、

看守と共に寝るとしよう。




「ん⋯」


どれくらい時間が経っただろうか。

陽の光が差さない牢では時間感覚が分からない。

いつの間にか牢に野菜の入った

皿が置かれていた。

相変わらず手をつけられている。

皿には野菜くずと腐りかけの実が残され、

いつものように吟味して食べる。

実を隠して食べられないものを捨て、

皿で未だ座っている看守をつつく。


「ん⋯」


看守はこちらを一瞥したが、

無視して正面を向き直した。

寝直したのか知らないが、

これを持っていって貰わないことには

話が進まない。

看守が起きるまでこれでもかとせっつく。

するとようやく体を起こした。


「はぁー⋯」


とてつもなく大きなため息と共に、

看守は皿を回収して左に進んだ。

その足取りは重く、長い廊下に到達するまでに

今までの倍かかっていた。

それを参考にして長く上に滞在してもいいが、

念を入れていつも通りの時間でいく。

足音が聞こえなくなったと同時に

トイレの穴に入り、横穴を潜って右隣の牢に行く。

穴を広げて体を出し、

穴を塞いで今回も難なく抜け出すことに成功。

ゆっくり左へ歩き長い廊下を見ると、

奥の方でまだ看守が歩いていた。

急ぎ身を隠して、

看守が早く廊下を抜けることを祈る。

再度廊下を覗き込むと看守はいなくなっていた。

廊下を慎重に歩く。

おそらくこの慎重な歩き方でも、

看守を追い抜かしかねない。

だがこれ以上遅く歩くと時間が無くなるので、

足音に気をつけてそのまま歩く。

廊下を抜けると、下の方で

階段を下る音がはっきりと聞こえる。

看守は前回よりもやはり近い距離にいるようだ、

慎重に上を目指す。

人気のない螺旋階段を上り、

七つの廊下を順調に抜け、

例の廊下にたどり着いた。

物々しい廊下には部屋は左右二つずつ、

奥と手前に配置されている。

誰一人としていない廊下を、

それでも慎重に歩き左手前の

部屋の扉に手をつける。

ゆっくりのドアノブを回し、

音を立てずに扉を開ける。

扉は古めかしい見た目よりも軽く開き、

軋む音一つも立てずに開いた。

部屋の中はシンプルな構造で、

円卓と椅子しか置かれていない。

おそらくここで会議が開かれていたのだろう。

だがそれ故に殺風景だ。

会議に使われていた資料や道具はどこにある?

それほど遠くに納めはしないだろう。

だとしたら、残る三つの部屋のうちのどれか。

会議室を抜け対面の扉を開ける。

部屋の中はやや埃っぽく、そして薄暗い。

棚が整然と並んでいるように見える。

棚に並べられたものをよく見ると、

巻物が大量に並べられていた。

エルフも木を材料にする紙を使うのか。

魔法で作られたものかもしれない。

紙の状態を見るに、かなり古いものから

比較的新しいものまで置かれているようだ。

新しそうな巻物を手に取り、

閉じている紐を解き中を見る。

やはりと言うべきか、エルフ語で

書かれており読むことができない。

幾つか他の巻物も調べると、

絵付きのものが見つかった。周辺の地図らしい。

人間の国とエルフの国の国境らしき

構図が描かれており、建物らしき図形もある。

国境のエルフ側の一際大きな図形に、

他の図形から多くの矢印が差されている。

ここに人や物が集まっているということか?

この砦はほかの図形のどれかだろうか。

これで少なくとも、エルフの国が人間の国に

対して警戒を高めているのがわかった。

一瞬ある考えに捉われそうになったが、

瞬時に頭の片隅に追いやり平静を保つ。

砦の構造も調べたいところだが、

やはり時間が迫っている。

部屋を出て周りを見渡し、

安全を確かめて部屋を降りる。

慣れた足取りで階段を降り、廊下を歩き、

穴を潜って牢に戻る。

そして看守を待つが、いつもよりもかなり遅い。

もういつもの倍の時間を超えている。

やっと廊下から足音が聞こえてきた。

その足音は欠伸が出るほど間隔が空いている。

やがて看守が姿を見せると、

もはや座ることもせず横たわり始めた。

そしてすぐに寝息を立て始める。

こんな所で寝てしまったぞ。

この隙にまた上の階に行きたい気持ちが

湧き上がるが、さすがにそれは出来ない。

前と同じようにただ眠るしかない。

動くような体力もないし。



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