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タイトル未定2026/10/15 23:36

 内藤隼人こと土方歳三、多摩日野に生まれ武をもって名を立て新選組副長として乱世を駆けた男、その姿は美丈夫、その気性は烈火、優男にあらずして刃のごとき男前。

 面差しはただの色男ではあらず涼しい目元に、きりりと結んだ口元、時世が違えば土方ほど役者の似合う男はなかった、されば孝江は自前の白粉と紅を内藤に施し、牢破りの下手人を女方に仕立て役人どもの疑いを掻い潜ろうとしていたのだ、もし内藤が目覚めし時は皆揃い詰腹を言い渡されてもやむなき事ではあったが宗盛が取り繕うと役人は頬を赤らめ「そうであったか、身を厭えと伝えよ」と意味ありげな言葉を残して旅籠から去って行った。

 宗盛は障子から役人が去るのを見届けるや否や慌てて孝江とふたりで内藤に施し化粧を拭ってやった、改めて内藤の顔を覗き込んだふたりは唇の気色がなくなっただけで何処が変わったのだと首を傾げ顔を見合わせ笑った。

 

「杉、主人になにか少し腹に入れたいが用意はできるか聞いてきてくれるか」 


 宗盛は杉にそう伝えると杉は座敷の隅から黙って立ち上がると下へ降りていった、しばらくすると女中が安倍川餅と茶を人数分運んできてくれると座敷の入り口に置き何も言わず頭を下げ去って行った、入れ替わりで杉が座敷へ入ってくるとまた隅にゆき腰を下ろした孝江はこちらで共に食べようと言ったが杉はいいと告げ膝を抱え顔を埋めた。


「杉、どうしたの」


 孝江は餅を頬張りながら杉に聞いたが杉は何も語らなかった、されどそれこそなにかが杉の中で燻っている証、杉には孝江に似通った処があった孝江もそれを踏まえていた、孝江には杉に燻っているものが手に取るようにわかる、ゆえにそれは孝江の中でも燻っておるのだった。


「杉、私とて同じこと、こんな死に損ないを捨て置いて今すぐ泰夫さんのもとへ駆けつけたい、けれど内藤様は泰夫さんより託されたお方、おまえもそれは同じ、さすれば今は内藤様をお守りすることこそ我らの務め、これ以上は何も言わない」


 気付くと杉は目の前にいた、相も変わらず人としての気配を携えていない杉にひときわ宗盛は驚いていた、杉は腰を下ろし餅がのる皿に手を伸ばすがそこに残りしは黄粉だけ、杉は孝江を睨んだ。


「要らないと申したろ」


 宗盛は肩を揺らし笑いを堪え、孝江は茶を啜り最後の餅を呑み込んだ。


「⋯死に損ないで悪かったな」


 一同は内藤を見た、孝江は慌て立ち上がると皿に手が当たり宙に舞った、辺りは黄粉の香ばしくも甘き香りに包まれた。


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