タイトル未定2026/06/30 18:34
翌日、孝江は自らの構想を実現する為、庄之助の家に向かっていた庄之助の家はこの村の名主であり建屋は村唯一の瓦葺で土蔵もある立派な造り、村の入り口から見ると一番の高台にあり一際輝いていた、孝江は門をくぐり玄関まで門道に敷かれた敷石を軽やかにひとつひとつ跳びながら玄関へ向かった。
「たかちゃん、何用かい?」
庭先で掃き掃除していた吾平が声をかけてきた吾平は庄之助の家で半ば奉公人の様な事をしているのだが丁度、吾平にも同じ要件があり好都合と庄之助を呼んでもらった、しばらくすると庄之助は粋な柄の着流しで現れると見せびらかす様に一周回ってみせた、野良着に綿入りの百姓とは大違いで流石名主の息子といった具合であったが特に興味を示す事なく孝江は要件を告げた。
「庄之助、吾平ついておいで」
庄之助はその横柄な態度に怒ってみせたが孝江に気がある庄之助の語尾は段々尻窄みになると渋々了承しそれを受け入れた、吾平は庄之助の付録でありで庄之助に漏れなく付いてくる聞くまでもなかった、残るは三郎太だが三郎太の家は木こりをやっており村とは少し離れた山の中に住まいがある刻は限られており孝江は思慮を巡らせた、多少憂鬱な刻を過ごす羽目にはなるが山へ行く手間と改めて話す手間が省けると意を決して吾平へ三郎太を呼んでくる様頼んだが勿論、吾平は断るとそこで孝江は庄之助を見てすぐ視線を外した。
「吾平呼んで来い、今日は終いでいい」
庄之助は容易く孝江の術中に陥ると吾平を三郎太の元へ行かせた当の吾平も二刻も働かずしてお役御免と喜び勇んで駈歩で向かって行った、しかしここからが“韓信の股くぐり”である、孝江は苦痛の時間を堪え忍び庄之助と二人祠へ向かった。
「たかちゃん聞いてくれて俺、今度こそ⋯」
『今度とお化けは見た事ない⋯』
「実はなうちは先祖代々⋯」
『自慢の糞は犬も食わぬ⋯』
「なぁたかちゃん、たかちゃん⋯」
孝江は庄之助が言い出す事に全て諺で茶々を入れていた無論、心の中であるが、だがしかしこれが意外に面白く孝江は庄之助の次なる言葉を待っていたが返事もせぬ孝江に痺れを切らし名を連呼してきた、流石にこれは不味いと返事をするとよりによって異なる事を言い出してきた。
「なぁ泰夫の何処が良いんだ?」
諺遊びが裏目に出てしまったと今更に後悔したが改めて聞かれても孝江に答える術はなかった好いていると言えば好いてはいるがそれは後天的理由であり馴れ初めはと訊かれると“なんとなく”以外は浮かばなかった、しかし孝江の暮らしにおいて“なんとなく”と言う言葉は許されないあらゆる事象には理由があり事象と理由が結びつかないと夜も眠れないのだ、許嫁と言う事象に対し“なんとなく”と言う理由、孝江の頭脳を持ってしても“なんとなく”止まりの人生最大の謎であった、孝江が庄之助に対して何と答えて良いものか苦悩していると救世主が現れるではないか予想に反し早々と三郎太を連れ吾平が戻ってきたのだ孝江は嬉しさのあまり普段絶対にやらない頭上で手を振る仕草をして庄之助に背を向けた、背後では当然庄之助の舌打ちが聞こえてきた。




