タイトル未定2026/06/30 18:34
村へ戻る頃には陽は沈み辺りは夜の帷に包まれていた、しかし今日で五日目、孝江は新たな賜物が届いているはずと心躍らせ祠へ向かった、洞穴を塞ぐ板を手早く外し中へ入ると微かな月光が洞穴内を頼りなく照らしていた、しかしそれは入り口近辺で奥は空間そのものがあるのか不安になる程の暗闇、脳裏を一瞬"︎︎︎︎神隠し"︎︎がよぎった、孝江は意を決し壁伝いに奥へ進んだ、すると前回賜物が置いてあった辺りだろうか膝に異物が当たる感触がした孝江は壁から手を離し手探りでその異物を探った、軽く叩いてみるとそれは木箱のようで特有の打撃音が音と痛みで返ってきた、孝江は首を傾げた賜物は五尺程あると思っていたが木箱の長手は三尺程で到底あの鉄砲が納まる寸法ではない孝江は中を改めようとしたが天板で封されており暫く抵抗してみたが天板が外れる気配はなく孝江はとりあえず今日は諦め明日にでも泰夫と訪れようと決め祠を後にした。
流石に横浜からの往復駈歩が応えたのか翌日、目が覚めたのは昼を少し過ぎた頃で孝江は慌てて着の身着のままで泰夫の家に向かった、しかし千代が対応にでると泰夫は薪木採りに山へ入ったそうで帰りは夕刻になると言われ孝江は至極残念そうな顔でひとり祠へ向かった、祠に到着すると榊を交換し供物を備えると手を合わせて感謝の意を告げ、まだ確認していないが新たな賜物への感謝も告げた、立上ると裏へ周り慣れた手つきで風穴を塞ぐ板を外した、洞穴は壁面が結露で軽く湿り輝きを放っていたが気にせず奥へ進むと当然木箱が積んであったしかも二箱、更に奥にもう一箱、孝江は木箱へ近付き天板を確認すると数箇所釘が打たれており素手で外す事は叶わず外へ出ると梃子になりそうな物を拾い天板を剥がしにかかった、ようやく天板が外れると中には黄土色の封紙に包まれた何かが入っており孝江はそれを抱え上げると横の木箱の上に置き封紙を捲った、中身からは鉄砲に違いはなかったが泰夫の物よりはかなり短尺な物が現れた、その鉄砲は孝江が構えても違和感がない大きさで実際孝江はそれを携えてみると流石に女の細腕では疲れるが持てない代物ではなかった、その姿は主観ではあるが悪くないのではと孝江の口角は無意識に上がっていた。
木箱の中には更に三つの封紙に包まれた同型の鉄砲があり孝江はそれを取り出すと下の木箱の天板も剥ぎ取った、中には同じ鉄砲が四挺、更に隣の木箱には二挺と見た事もない素材の小箱が所狭しと並んでいた今回の賜物は鉄砲が十挺と小箱が多数、その木箱の中にはこの鉄砲を説いた文が入っており孝江は腰を下ろし早速読み上げてみた、今回の賜物は泰夫の鉄砲が遠長しであるのに対してこの十挺は咫尺の鉄砲であった、しかし的との隔たりは最大で七町程あり咫尺も遠長しも兼ねる戦素人でも重宝しそうとわかる鉄砲であった、孝江は手慣れた手つきで銃の上部に付く遠眼鏡を外し覗いてみた風穴の入口から祠越しに遠くの田畑が見えた、これは泰夫の銃に付いていた遠眼鏡と変わりなかった、では咫尺の時は如何するのだろうと文に目を通すとあの小箱の中に遠眼鏡の代わりになる物が入っているとの記述を見つけ早速その中からひとつ取り上げると小箱を開けてみた、中からは敢えて例えるなら窓、それは小さな小さな窓であった半信半疑でそれを取り付け銃を構えてみるとその窓の中心には小さな赤い丸印が表示されていた孝江は瞬時にその意図がわかった、的にこの赤い丸に合わす事で弾は難なくそこに当たるのだ、それにこの窓であれば覗き込む必要はなく自分の見る景色の中で標的に素早く赤丸を合わせさえすれば良いのだ、しかもこの鉄砲は連続して弾を射出できるらしく的が幾つあろうと連続で素早く赤丸を重ねれば的は次々と、孝江は腕に鳥肌が立つのを覚えた。
孝江は封紙で鉄砲を包直し一挺だけ家に持ち帰るつもりで入口の壁に立て掛けた、そしてふとある事を思い出し振り返った確か前回、泰夫の鉄砲の時には弾、泰夫が言う"︎︎︎︎金の筍"︎︎が同時に置いてあった筈、弾がなければ唯の鉄塊、無用の長物、人を殴る事は出来るがそれなら手頃な棒切れの方が振りやすい孝江は木箱の辺りを探したが前回の様な深緑色の箱は見つからず木箱に腰を下ろすと踵でコツコツと木箱を蹴った。
「孝江居るのか?」
突然、孝江を呼ぶ声がするとヌッと泰夫が顔を出し現れた、泰夫はあざとく新たに置かれた賜物を見つけると目を輝かせていたがその上に腰を下ろす孝江の表情は暗い泰夫は孝江の横へ腰を下ろし訳を聞いた。
「あっ泰夫さん」
余程気に掛かっているのかようやく気付いた孝江は泰夫の方を向き冴えない笑顔で今回の賜物について語った泰夫は孝江の座る隣の木箱から鉄砲を取り出すと乱雑に封紙を捲り鉄砲を取り出すと慣れた手つきで構えてみせた、泰夫は孝江に手を出すと過去をなぞる様に撃ってみようと言い出した、孝江は当然そう来るだろうと溜息をつき首を振った。
「今回は弾がないのです」
すると泰夫は予想に反してそれをあっさり受け入れると次の機会にでも来るのだろうとまるで他人事の様に簡単に言って鉄砲を裸のままで木箱に仕舞っていた、その姿はまるで子供が飽きて放ったらかしていた物を親に言われ片付けている様でいい歳の大人を捕まえて難はあるが可愛らしくも思え孝江はきっと今、泰夫は背負う鉄砲をかなり気に入っており他の鉄砲には興味はないそんな具合であろうとその姿を見守っていた。
孝江はその泰夫愛用の鉄砲を眺めると自分なりに鍛錬を積んできたのであろう先端はかなり煤けていた、文には命中精度と安全性を保つ為に毎日清掃は必要とあった清掃の頃合いであろうと手入れをするから預かりますと言うと泰夫は自分でやると言い出した、よしんば分解は出来たとしても組立は到底不可能であろうもし不具合でもあればあの威力だ考えただけで恐ろしくなると孝江は寒気を感じそれを断った、だが泰夫はでは教えてくれと言い出すのだ正直、泰夫だけに構っておけないのが現実だが実戦となれば今回の賜物から鑑みて泰夫の役割はひとり遠方にて行う事となるだろう、そこで不具合を起こせば諸々障害になるであろうと孝江は貴重な刻を割き泰夫へ整備要領を教授した。




