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タイトル未定2026/10/14 18:49

「くそっ、城下には退けん、南には清水湊、前へと進み北に逃げるか」


 斎藤は思い悩んでいた、城下へは宗盛達が向かっている戦の騒動が駿府城に伝われば挟み撃ちは免れない、四散して我ら逃げ仰せても城下は隅々まで改められ宗盛達が危うい、それは清水湊とて同じ、東海道における海運の要地なのだ、では退路は北にしかないが、まもなく敵は謙次の元へ差し掛かりそれも今や叶うまい。


「有渡山中にて四散して遊撃戦にて迎え撃ちますか」


 佐治がぼそりと呟いた、斎藤は有渡山たるものが何処にあるか知れず佐治へ聞いた。


「駿府と清水湊の間にあります、山とは名ばかりの岡続きの地で御座います」


 決まりだなと斎藤が言うと泰夫が謙次へ「討ち滅ぼすにあらず、誘き寄せるが本懐故、十名程でよい」と告げた、謙次はわたくしは如何にと問うてきたので射程の隔たりの外を保ちつつ此方へ退いて参れと告げた。


 東の空はやがて白み始めるであろう、雨上がりで空は澄み先んじて遠くに見ゆる富士の高嶺には笠を被るが如く輝いていた皆は戦をしばし忘れ魅入ってしまう始末、そこにそれをも霞む目も眩む輝きが放たれ皆の視線は下へ向いた。

 そこへ爆破の轟と烈風が押し寄せると顔を引き締めた、箱根では爆破の折、反撃すら忘れ逃げ惑うばかりであったが此度は早速、銃声が散り散りに響いてくるとあながち斎藤の物言いに違いはなかった。

 一同は固唾を呑み斎藤の次なる物言いを待っていたがそれは謙次が血相を変えて駆けてくる姿で見当違いと知れ、是貞は謙次へ急げと檄を飛ばした。

 やがて泰夫達の元にも流れ弾が届き始めたがその威は弱く、見えるにであれば棒で容易く叩き落とせる程であったがそれも束の間、泰夫達は物陰に身を潜め弾の入る金具を今一度確かめ鉄砲の後ろの摘みを引いた、小気味の良い音と共にこの鉄砲は目覚めるのだ。


「四散し各々、敵を引き付け散兵を討ちつつ後退、南へ逃げると見せ掛け有渡山を西より回り込み頂にて雌雄を決す」


 斎藤が号令を掛けた、此処より南は低岡が散在しており身を隠すには最適であった伏兵にて敵を削りつつ有渡山を目指し頂で殲滅、言うと行うでは話は別物、見込み違いの甘い考えであったやも知れぬが参謀なき今、これが最良と皆は信じ引金を引いた。


「耳栓の源もじき尽きます、危うきときまで源を封じておくがよいかと」


 泰夫が斎藤にそう申すと斎藤は「やまやまではあるが四散すれば同士討ちも危うい」と異を唱えたが泰夫は斎藤に説いてやった。


「斎藤様、その鉄砲の上に付いております遠眼鏡の数々は全て夜鷹を映し出せば紅に染まります、紅に染まりし人影は夜鷹で御座います」


 孝江と別れる折、ようやく鉄砲を渡されいたがいまだ心得ぬ斎藤は童のように泰夫へ扱いを聞いていた、されど耳栓を閉じるとなれば一抹の不安が斎藤をよぎっていた。


「大丈夫ですよ、斎藤様には刀が御座いましょう」


「案じてなどおらぬわ、アホうが」


 明らかな強がりに泰夫は声を潜め笑った、すると斎藤が誰に伝えるでなく呟いた。


「死ぬな、上で待っておるぞ」


「承知…

 

更々御座いません…


奇遇で御座いますな、拙者もそう思うておりました」


 様々な返答に斎藤はほくそ笑み耳栓の摘みを押した、ぷつりと音がすると吹き荒む風音が耳を撫でた、斎藤は腰の獲物を確かめると伏兵にて最良の場所を探りつつ道程を思い描いた。

 

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