タイトル未定2026/10/14 22:20
「ご主人、申し訳ない後、二日ほど厄介になりたいのだが如何であるか」
「へいへい、ご覧の通り閑古鳥がうるさく鳴りております故、二日と言わず三日、四日でも」
葵屋の主人は夜半に出立したにも関わらず宗盛達を怪訝にも思わず喜び受け入れてくれた、しかしさすがに講の減りと内藤の姿に眉を細めていたが払いのよい宗盛は初顔であったがこの頃では上客であり少々の面倒には目を瞑る腹づもりであった。
「医者をお呼び致しましょうか」
内藤を見た主人がそう申してきたが宗盛はそのようなときはお願い申すと告げ二階に上がった、孝江は下へ残ると裏手に周した荷車に残る武具の手入に余念がなかった。
しばらくすると、がたがたと階からうるさく響いてきた、するとこの騒々しさを聞きつけた主人が何事かと何やら聞いていた。
「これ娘さん、何事で御座いますか騒々しい」
「あっご主人申し訳ありません、伊勢講の御旗がほつれておりましたので上で繕おうかと思いまして」
孝江は大きすぎる武具のひとつを上の間にて手入れを施そうと運んでいたがそのあまりの目方に引き摺るしか手がなくそこを主人に見つかっていたのだ、武具は入念に麻袋で包んでおり中身が見える事はなかったが助力しようと手を掛けた主人は瞬く間に腰を痛め女房の元へ逃げていった、孝江は宗盛を仕方なく呼んだ。
「おいこれは三郎太の」
「そう、さぶちゃんの武具、いつ帰るか知れないけど手は入れておかなければ」
「孝江、お主⋯」
宗盛はそれ以上何も申しはしなかったが甲府での黒達磨の逸話は当然、その耳へ届いていた、宗盛はしみじみとそれを眺めていたが己の中で何かが湧き立つのを覚え孝江へ尋ねると一度持ってみる事にした、その姿でかなりの目方である事は見てとれる、されど三郎太に持てて我に持つ事ができぬ筈はないと力を込め抱え上げた、宗盛は腰まで持ち上げどうであるかと自慢げに孝江を見下ろしたが孝江は目も合わさず言った。
「それは鉄砲よりはるかに強いはね返りが続いて起こります、それを左右へ振り前に進んでゆくのですが⋯まっ次の藩主様の口からできぬは出てきますまいが」
宗盛は何も言えなかった足元の畳は窪み、それを支えし板は今にも割れんと軋んでいた、一歩を踏み出そうとしたがそれをやめて下へ降ろすと誤魔化すように弾の込め方を聞いた、孝江は何も言わず順を追って指南してくれたが薄々宗盛は気付いていた、久しく忘れていた"︎︎︎︎ならぬ"︎︎を悟っていたのだ、宗盛は孝江が手入れを終わるのを待ち下へは我が運ぼうと告げたが孝江は共に参りましょうと告げ共に荷車へと運んだ。




