タイトル未定2026/10/14 02:57
一同は腰を抜かすほど驚いた、謙次と忠太郎は実際腰を抜かすと尻餅をついていた。
つい先程まで棺桶に片足を突っ込んでいた内藤が立ち上がっているのだそれは斎藤ですら咄嗟に刀を半身抜く程で孝江は一同の驚くさまを腹を抱えて笑っていた、されどそれも束の間、内藤は再度荷車に倒れ込むと今度は大いびきをかき始めた。
孝江はようやくここで額の汗を拭うと皆に声を掛けた。
「では杉、宗盛様とで内藤様をお守りしつつわたくしは一度城下へ退きます、各々方は四散して逃げおおせて下さい、三日後箱根陣跡にて落ち合い、もし現れぬ者がおっても待つ事なく江戸へ戻り大久保様の指示に従い下さい」
「はっ」
「孝江、城下迄戻りし時は報せをくれ、それまでここにて刻を稼ぐ、よいであろうそのくらいさせてくれ」
泰夫が孝江に告げると日頃の孝江は何処へやら女子に戻ると涙を流し泰夫の胸に飛び込んだ、短くも長い抱擁を交わし、宗盛が声を掛けると去りつつも名残惜しく孝江はいつまでも泰夫を見ていた。
その泰夫の後ろ姿に斎藤が近付くと肩を組み言った。
「言うじゃなぇか泰夫、色男はつらいなあ、俺は退散するぜ、まっ精々ひとりでおきばりやす」
「そ、そんなぁ」
その場に残りし皆が笑った、肩を叩き合い笑い合っていたがそこには覚悟めいたものが漂っていた、ひとしきり笑い終えると斎藤が言った。
「謙次、爆薬はまだ使えるよな」
「はっ、しかし孝江様は…」
斎藤は謙次を遮ると語った。
「孝江はあの様にわかった風に言うが、あれは俺らを逃す為、それにな敗残兵ってやつは自暴自棄で無闇矢鱈に突っ込んではくるがその実、続かねえ、転がる屍を見りゃ正気に戻り退くのも早え、鳥羽伏見で嫌ってほど見てきたさ」
「では爆破により敵が退く見込みも」
「謙次、言ったろひとつ処に拘るなと」
「⋯では」
「さあな、戦は水物だ、ままならぬものよ」
「⋯ 鯔の詰まり斎藤様にも見極めがつかぬのですね」
謙次は呆れた表情で斎藤へ言うと意に反して斎藤は薄笑いを浮かべ薄気味悪い顔で呟いた。
「いや、ただな『やれ』と騒がしいやつがいるんだよ」
「誰で御座いますか」
斎藤は辺りを見廻すと俯き言った。
「さあな」
「…はぁ⋯」




