タイトル未定2026/10/14 00:55
「ならん、ならん、ならん」
斎藤が皆をかき分け孝江に掴み掛かった、孝江は怯える事なく斎藤の眼をじっと見据えていた、斎藤は孝江の選びし道が道理、最良とは心得ていた、されど嘉永四年、江戸の牛込で出逢うてからの腐れ縁、火薬庫の如き京を共に駆け抜けてきたのだ簡単に切れるものではなかった。
「内藤様とお残りになるも勝手で御座います」
孝江がそう吐き捨てると斎藤は力無く孝江から手を引いた、すると孝江はぽんと肩を優しく叩かれ振り向いた。
「孝江、お前は宗盛様と共に内藤様をお守りしろ」
泰夫は孝江にそう声をかけた、その表情はえも言われぬ程に複雑、悲しみ、怒り、恐怖、諦め、焦り、中でも罪悪感が殆どを締めているのは手に取るように分かるが故、孝江は首を縦に振るわけにはいかなかった"︎︎︎︎先に申した事全て取消し皆で迎え撃つ"︎︎"︎︎︎︎謙次の爆薬はまだ使えるなれば"︎︎されど孝江は静かに首を縦に振った。
「杉、お前もついてゆけ」
斎藤が言った、泰夫も頷く、これにて討議は終わるかに思えたが孝江は斎藤と別れる前に頼みたい事があると告げた。
「呆けたか孝江、何故、俺が土方を斬らねばならぬ」
「違います、内藤様の中に弾が残りしときはその処を少し斬ってくれと申しておるのです、斬り殺せとは申しておりません、刻も限られております急ぎましょう」
孝江は内藤の服を捲り眩しき光を放つ龕灯で傷口を見た、弾が入りし肌は蒼くなり具合の思わしくない事がわかる、孝江は頭陀袋から小瓶を取り出し己が手に茶色の液を振るとおもむろに傷口に指を差し入れた、指のふたつ目の節まで差し込むと指先に硬き物を感じた、孝江はもう一本指を入れその指を開くと中に弾が残りし事が見て取れた。
孝江は斎藤を呼び弾の位置を示し見せ、血の出が少なく斬り開いてくれと頼んだ。
斎藤は小刀を抜くと向きと深さを見定めた、孝江は鋒に先程の茶色い液体を振ると斎藤は姿勢を直し何をすると怒鳴ったが孝江は顎を突き出しやれと言わんばかりの態度、迫り来る敵も気になると斎藤はそれ以上何も申さず又、構えると内藤の横っ腹をさっと斬った、流石と言うべきであろうか切り口から血は殆ど出る事もなく孝江は傷を開き中から弾をそろりと取り出した、奥から血が出てこないか確認すると傷口を硯の如き器具で叩いた、するとどうだ不思議な事に手を離しても傷は開かないのだ皆から安堵の声が漏れたが孝江はまだやる事があると今度は黒き粉を傷口に振りだし皆で内藤の身体を押さえよと申し黒き粉に火打石で火花を送った、内藤の肌が一瞬燃え上がると皆を押し除けるほどの力でもがき雄叫びを上げた。
「それは玉薬か」
斎藤が聞くと孝江は頷いた。
「女子がやる事ではないな」
斎藤は孝江の肩を叩いた、孝江は他に傷がないか調べ先程の針のつく器具を出し内藤の胸に刺した。




