タイトル未定2026/10/13 02:55
佐治は葛野を出て、否、宗盛に仕えて初めて眼にする宗盛の取り乱しように瞬きも忘れ肝を潰していた。
世は徳川の御威光で天下泰平、剣術はいつしか実践的なものから精神的なものへすっかり様変わりしていた、されど藤堂宗盛、幼き頃より新陰流と疋田陰流を学び、その技はより実践的で日頃より間違いあってはと携える刀には刃引きを施す程であった。
だが葛野藩など坂東でも下から数えた方が早い豆粒程の領地、石高もようやく城が持てる程度、冬は雪深く身を切るように寒い、その上これといった名産もない、吹けば飛ぶ程の小藩であった。
歳もまだ二十四、その器量の見込みは見当もつかぬ豪傑、時世と父が違うておればと常々、父十蔵は嘆いていた。
しかしその豪傑の片鱗を見せし宗盛は今、初陣で右往左往するだけの若武者でしかなかった、なれば十蔵より頼まれし使命を果たすが老兵の務め佐治は宗盛へ声を掛けた。
「若、鹿を狩り逆に猪に襲われたあの日思い出しますなぁ」
何を申しておるのだこの様なときにと宗盛は佐治を睨んだがいつしか落ち着きのなかった足元は知らず知らずのうちに根をはり巡らす巨木の如き振る舞いへとかわっていた。
「宗盛様、謙次を退かせて下さい」
孝江が現世へと戻ってきた、しかしその口が発した言葉はあまりに合点のゆかぬ言葉であり無論、宗盛は異を唱えた。
「謙次は我らが虎の子であるぞ」
「子がおれば親に備えるは至極当然」
孝江はきっぱり言うた、宗盛はそういうわけではないと喉まで出かけたが孝江の胸中を察して謙次を退かせた、謙次は爆薬は如何にと問うてきたが今更召し上げる刻もあるまい放っておけと謙次を退かせた、宗盛はさてと振向き孝江を見ると孝江は宗盛を見ることもなく雨上がりの夜空に語りかけた。
「大丈夫で御座います、あれは落としても火にくべても爆ぜる事は御座いません」
孝江は掌の上で爆薬が爆ぜるに至る金具を転がしていた。
「しかし敵方が手中に収めでもしたら」
「これを作り出すのに何年掛かりましょうか」
孝江はふっと笑うとその金具を宗盛へ放り皆を集めた。
「各々方、このまま敵と渡り合えば勝てやしましょう、されど皆で勝鬨をあげるにはおぼつきません、なれば、わたくしが先に申した事覚えておいででしょうか『己が命を優先しろ』この申し渡し今も変わりは御座いません、我ら夜鷹は闇に紛れ個々で動きし方が勝算は高う御座います」
孝江は敢えてそこで言葉を切った、これ以上申せば威を着せかねぬとの見定めであった、宗盛は孝江の弁を汲みとった上で聞いた。
「内藤様は」
「⋯この場にて捨て置きます」




