タイトル未定2026/10/08 03:24
「おとといきやがれ田舎もんが」
突然、番屋の木戸を突き破り男がひとり転がり込んできた、番所に詰めていたふたりの番人たちはあまりの勢いに思わず飛び退いた、見るとみすぼらしい野良着の男が土間にうずくまっており、身体からは酒の匂いがむっと立っていた、酔漢の喧嘩沙汰かと番人のひとりが男の襟首をつかんで無理やり引き起こし、土間の端へ引きずってゆく、ついで水甕から水を汲むと男の頭から容赦なく浴びせかけた。
「な、なっ、何を」
男は狼狽し辺りを見回すと見た事もない男がふたり、男は状況を把握できずに更に狼狽した。
「あっ、確か斎藤様と、えっ孝江が⋯いた⋯よな」
「誰だ斎藤とは、孝江、聞いた事もない、知ってるか」
「いや知らん」
番人のひとりが男の前に座り込み名を聞いた。
「お前、名はなんと申す」
「泰夫です、新高村の泰夫です」
「新高村、知らんなぁ、お前知ってるか」
番人は振り向いてもうひとりに目をやったが返ってきたのは黙って首を振るしぐさだけであった、やむなく泰夫を立たせるとその身を改めにかかった、すると袖口のあたりからこの風体には似つかわしくない硬い音がした、番人が手を差し入れて取り出したのは巾着袋、口を緩めてみると中には黄金色に光る小判二枚、泰夫はなおも自分の身に何が起こっているのかのみこめず、怪訝の色を浮かべる目の前のふたりの変化にも気づいていなかった。
「おい、これはてめぇのか」
番人は巾着を泰夫の目の前へ突きつけた、泰夫が正直にそれは自分のものではないと答えたがために事は案の定、面倒な方へ転がっていった。
「なんでえ、てめえの物じゃねえってんなら、すったか盗んだか、そのどっちかってことだな」
「い、いえ、わたくしは酔うて宿へ帰り⋯それから⋯」
泰夫はついに言い逃れもかなわず御用となり翌日、川辺村の町奉行所へ引き立てられていった。




