タイトル未定2026/10/07 19:27
駿府城下、宿を探し町人地へ赴くと家並みを淡く包む桜は見事であったが道を急ぐ者の足取りには春ののどけさばかりではなかった、葛野城下のほかに城下を知らぬ夜鷹の面々は東海道筋の賑わいに驚きを隠せずしきりにあたりを見回していた、されど、その浮き足立ったありさまは田舎より伊勢を目ざして出て来た伊勢講の一行そのものであった。
「ここ駿府にてほかの伊勢講と落ち合うことになっておりましてな、五日ばかり十人泊めてはいただけますまいか」
宗盛は宿を見つけると主人に宿泊を頼んだ戦のためか春とはいえ宿はどこか人気うすく主人はかえって伊勢講一行を喜んで迎え入れると部屋は空いておりますゆえと三間を宛てがってくれた。
夜鷹の面々は部屋へ入って荷を解くや、さっそくそれぞれの務めを果たすべく動き出した、孝江、宗盛、杉は内藤救出の総体の策を練り、三郎太と泰夫は酒場へ赴いた、残る五名は城下の通りのありさまや牢屋敷の位置を探るべく、町の端々まで歩き回って情報を集めた。
「騒動に乗じて内藤様を救い出すか、あるいは隠密のうちに事を運ぶか、いずれがよかろう」
「騒動に乗ずるなら、救い出すこと自体はたやすう御座いましょう、されど、その後の追っ手がいかほどか」
「しかし隠密となれば、忍び入り、身柄を確保し、そこから脱するまで、一刻たりとも気の抜けぬ働きとなる我らは忍びではないからな」
まとまりを見せぬ評議のさなか、孝江がさらに難しいことを口にした。
「万全を期し、ここは両備えこそ良策かと」
「おい孝江、片方だけでも骨が折れるってのに両方とは何だ、馬鹿も休み休み言え」
「いえ宗盛様、別々に考えるからややこしいのです両の策をうまく重ねれば、そこに一筋の⋯まあ、今はまだ見えておりませぬが」
宗盛と杉はたちまち身を乗り出しその先を待ち受けたがあえなく肩透かしとなり、ふたりは大きく嘆息してその場にて大の字に寝ころんだ。
斎藤と泰夫はその頃酒場にて浪人とその従者と言った感じで辺りに聞き耳を立てていた。
「おい泰夫、声のする方向をいちいち見るな」
このような働きにまるで慣れぬ泰夫は人の声が耳に入るたびその相手をいちいち食い入るように見つめていた、それを見かねて斎藤が小声でたしなめた。
「そう申されましても、では斎藤様はそのように出来ておいでなのですか」
「奥の三人⋯おい、見るな、博打で大負けしたらしい、人宿町の外れ、どうやらそのあたりに賭場があるみたいだな、それから入口の男女ふたり、ありゃ密通だな、あとで強請ってみろよ男は羽振りもよさそうな商人だたんまり巻き上げられるぜ」
泰夫は斎藤の語ることの仔細よりも、妙にその道に長けた才にしきりに感服していた。
「斎藤様は腕も立ち、このような役目にも通じておられる、新選組では何をなさっていたのです」
斎藤は寂しげでいて心抉られる様な心労を含んだ複雑な表情に変わると一言。
「まあ色々な」




