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タイトル未定2026/10/06 16:32

「では各々方、一路箱根口にて待つ永倉の元へ参る」


 大久保の号令で陣を後にする甲陽鎮撫隊、その仰々しさに孝江は笑ってそれを見送った、するとその背後にすっと斎藤が忍び寄った。


「上手く出し抜かれたな孝江」


「なんの事で御座いましょう」


「近藤さん言うておったぞ、あやつめは必ずのってくるとな」


「そうで御座いましたか、一本とられてましたか」


 孝江はそう言って斎藤へ視線だけを送り不敵な笑みを浮かべた、斎藤は思わず腰の物へ手が伸びるほど背筋に冷たいものが走るのを覚えたがあえて何も言わず泰夫のときと同じく肩で軽く小突くとそのままその場をあとにした。


「確かにな」


 斎藤はそう呟き駿府へ向かう支度を急いだ。


 大久保らが出立してより半刻、支度を調えた夜鷹もまた陣を引き払うこととなった、孝江は全員がひと固まりにて動けば人目を引くとして人数を分ける策を出した、されど杉は日中の行動が主となれば勝手も違う、むしろ分けぬほうがよいとこれに異を唱えた、意見は相対しこのままでは出立も遅れるかと思われたが夜鷹最年少の謙次がふいに妙案を言い出した。


「それがし幼き頃は祖母に育てられまして、親がおらぬと言うわけではないのでござるが、あっその祖母がですね、それはもう、痛っ」


 話の先が見えず苛ついた斎藤は謙次の尻を蹴り上げた。


「お前は何が言いたいんだ、話は纏めて話しやがれ」


 孝江は腕を組み頷いており斎藤と同意見の様で謙次に聞いた。


「で貴方はどちらの意見なの」


「杉様です」


「で如何しろと」


「伊勢講です」


 各々はもはや異を唱える余地もなく皆が頷いた、伊勢講とあれば十人ばかりが連れ立っていても怪しまれず、身分の取り合わせも不自然ではない、荷車を曳き品々を携えていてもすべてそれで訳が立つ、これ以上に的を射た案はなかった。


「アホうが」


 斎藤は謙次に辛辣な言葉を浴びせながらも拳でその胸を軽く小突いた、代わって今度は孝江が幼子をあやすように謙次の頭をそっと撫でてやる、謙次は己の意見がよかったのか外れていたのかも分からず、ただ戸惑うばかりであったがその様子を見かねた杉が声をかけた。


「謙次、お前たかちゃんも気づかなんだことを言うとは、なかなかどうして」


 夜鷹の者どもは装束を解き、めいめい出立の折の衣に改めた、されど宗盛のみ紋付袴のままにて一同その姿を見るたび首を傾げた。


「宗盛様、そのお召し様はいささか⋯」


 杉がそう口にすると宗盛は是非もあるまいといった顔つきで今度は斎藤の身なりへ矛先を向けた。


「斎藤様こそ、着流しにて伊勢講もありますまい」


 しかし一同は"︎︎︎︎なくはない"︎︎とでも言いたげな顔をしつつ、なお宗盛のほうを見やっては首を傾げた、宗盛はむっと口を尖らせると言った。


「わかったわかった、呉服屋でもあらばそこで買い求めればよかろう」


 その折、泰夫が野良着を抱えて進み出ると宗盛へ差し出した。


「三郎太のものにございます、ひとまずはこちらを」


 宗盛はしばし間をおき、しみじみと語った。


「三郎太⋯しばし借り受けておくぞ」


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