タイトル未定2026/10/05 11:53
「西郷殿、未だ貴殿は薩摩藩の御仁であると知れ渡っておりましょう、実は箱根口にて伏兵してる者共がおります故、江戸へ向かうのであればしばし箱根にて御身を休められては如何で御座いましょうか」
「重ね重ね忝ない、その言葉に甘えさせて頂くとしようこいつの療養にもなろうし、ではこれにて御免つかまつる」
西郷と半次郎は辛うじて残る箱根関所江戸口御門を抜け箱根口へと去って行った、あとに残された者たちはその姿が見えなくなるや蜂の巣を突いたように騒然と動き始めた。
「近藤さんどうすんだよ」
「駿府なれば急げば三日、永倉を呼び戻し二百ほどに…」
孝江は大久保のあとを遮り西郷より聞き及びたる仔細を語った。
「西郷様の話では沼津到着の折、さらに援護を乞うため京へ早馬を立てられた由にございます、それが一昨日のことなれば三日もあれば京へ着きましょう京よりただちに発っておれば駿府までは七日、我らが駿府へ向かうとして三日、内藤様を探し出して奪い返すまで五日、それをわずか二百ばかりを率いてなさるおつもりにございますか駿府はすでに新政府へ恭順しておりましょう西郷様が易々と箱根まで来られたことこそなによりの証、それで駿府城下にて二百の兵が思うままに動けるものでございましょうか」
「押してなおである」
大久保はきっぱりと言い放った、孝江は呆れたように溜息をつきその正面へ立つと眼を射抜かんばかりに見据えた。
「なんじゃ、なにかまだ申したい事があるのか」
大久保は孝江に顔を近付けお返しばかりと孝江の眼を見返した。
「貴殿の前におわすわ誰で御座いましょうか」
「とち狂うたか、お前以外誰がおる⋯」
このままふたり取っ組み合いでも始まりし気色であったが斎藤が大久保の肩を叩き背後を指差した、大久保が振り返ると杉を先頭に陣から出てきた夜鷹の面々であった。
「そう言う事だろ」
斎藤が鼻で笑い言うと大久保は俯き薄気味悪くにやりと笑い上目遣いに孝江に言った。
「おぬしらが歳を救い出すと申すか、その方らにそれが成せるとでも申すのか」
「さて、そればかりは請け合いかねます御不安とあらば二百ばかりの兵にて駿府城下を騒がせ、その隙に我らが救い出すが最も得策、されど、その折は大久保様が召し捕らるやもしれません」
「ならば、また救い出してくれ」
「内藤様が助けよと仰せなら助けもいたしましょう、されど捨て置けと仰せならそれに従うまで」
「歳が、わしを見捨てておくものか」
「さて、いかがにございましょう、戦の機を見定むるは内藤様のほうが一枚上手にございましょうし」
大久保はしばし思いを巡らすと姿勢を正し孝江に言った。
「駿府にて囚われ居る内藤隼人の儀、夜鷹へ申し渡す抜かりなく取り計らう事切に頼む」
「承知いたしました」
孝江が静かに頭を下げると夜鷹の面々もまたそれにならって首を垂れた、ついで孝江は夜鷹に欠員の出たことを大久保へ告げ増員を願い出た、すると斎藤が進み出てその役目に名乗りを上げた、大久保はなおも念を押したが斎藤は江戸へ戻るより面白かろうと答え、あらためて夜鷹の装束と得物の支度を孝江に頼んだ。
「申しておくが失敗の折りにはわかっておるな」
「宗盛様が進んでお肚召しましょうがそれは案ずるに及びません我々に失敗は御座いません」
「ほう」
「刻既に遅くで済む話で御座いましょう」
孝江は笑って言ってのけたが大久保の顔はみるみる紅潮し孝江に掴み掛かろうとするのでそれを斎藤と夜鷹の面々が必死に止めていた。




