タイトル未定2026/10/04 17:05
「泰夫さん、一番左端…はい、当てずにお願いします」
我々を黙殺しさも居らぬが如く独言を呟く孝江に辺りは再度、殺気を帯び始めていたが甲高い音が駆け抜け雷鳴が轟くと面々は恐れ入りその場に平伏した、その様に孝江は情けないと蔑み笑ってみせていたが西郷は孝江の一行をつぶさに見ると残る望みは潰え観念し万事諦めた、しかしそれを悟らぬ者は女子に貶まれ捨て置くわけにはゆかぬと孝江に斬りかかった、ひとりは宗盛が退けたがひとりは及ばず白刃は孝江の頭上に落ちてきた。
しかしこの者、前線には赴かず我が身可愛い口だけ達者な者であったのであろう刀には血曇り一切なく輝く刀身は月明かりを受けると孝江はそれを躱してみせる、刀を返し再度斬りかかろうとしたがそこを西郷から襟首と柄を握られそのまま谷底へと落とされた。
「西郷様っ何を血迷った事を」
当然の如く声が上がるしかし西郷は弁明もなく元いた位置に腰を下ろすと言った。
「宗盛殿、否、その方へ伝えた方が良いのか、ここにいる者皆、あの雷にて葬ってはくれまいか」
「何を仰るのですか、この者達は討議へ訪れたので御座いましょう」
西郷は、この期に及んでなおそのようなことを申すかと呆れ果て、鼻先でせせら笑った。
「この様な者達生かしておけば御国の行く末も危うい」
「その様で御座いますね」
孝江は淡々と言い放った。
「ならばお頼み申す」
西郷は立ち上がると深々と首を垂れた。
「しかし西郷様を葬っては御国の行く末も危うい事と存じます、失礼致します」
孝江はそう言うと西郷の軍服首元に仕掛けを施した。
「これは何でござるか」
「やがて知れる事と存じます」
まずひとり、柘榴が爆ぜるが如く果肉を辺りに飛び散らし、ふたり、さんにんと続きゆく、西郷の膝に縋り付き助けを乞うものもいたが宗盛が背後から一刀に屠る、しばらくすると尾根筋には普段の如く静かに夜の帳が下りる、西郷は孝江に謝意を告げた。
「心苦しかこっじゃっどん、まっこてかたじけのうございもす、ほいなら、おいも参りもんそ」
西郷は傍らにあった刀を拾うと己の首に刃をたてた。




