タイトル未定2026/10/01 19:54
陽は沈み尾根筋を焦げたる臭いと血生臭い風が通り過ぎてゆく、西郷は腰を下ろすといまだ覚えぬ心地に浸っていた、敗北ですらないそもそも戦ですらなかった考えとうはないが"︎︎︎︎神罰"︎︎"︎︎︎︎天災"︎︎そんな言葉が相応しかった、乾もさだめし左様であったのではあるまいかそんな事を考え西郷は忍ばせていた干し芋と水筒から水を一口、全く味気なくただ口の中は砂気が満ち具合が悪いそれだけを憶えた。
「西郷様、いかがなさいますか」
「後ろん者から順々に三島まで退きやんせ」
その者と顔も合わさず西郷は余所を向き素っ気なく答えた、実のところ、もはや徳川だの天皇だの構わぬとそう思い始めていた、神の末裔の旗印の元いざ戦うてみればこの有様、かの者は腹より臓腑を曝け出し命尽きる為にこの世に生を受けたと言うのかと西郷は兵の骸を見ると呟いた。
「何やつ、そこで止まれ」
薄暗く五間の処でようやくそれに気付いた兵がライフル銃を構え声をあげるとそれに宗盛が応えた。
「雌雄はすでに決した、拙者らは討議に参ったのであって争うつもりはござらぬ、そこの御仁、得物をお納めくだされ」
「泰夫さん撃って」
西郷は惚けていたが闇から聞こゆる女子の声に我にかえると其方を振り向いた、近付きくる二人に兵は更に続けたがあの雷鳴が闇に轟いた。
「止まれ、止まら…」
それ以上続く言葉はなかった、辺りは再び轟く雷鳴に恐れをなして慌てふためき暗闇の中逃げ出そうとする者が後を絶たず幾つもの悲痛な声が谷底に消えていった。
「皆ん衆、腹据えてそこん動くでなか」
西郷の腹に響く様な号令が尾根筋に響いた。
「かたじけない、いまのお声の御方はどなたさまでござるか」
「おいが東征大総督府参謀、西郷吉之助でごわす」
「西郷殿、拙者、葛野藩、藩主が嫡男、藤堂宗盛と申す」
「こげな場に如何なる申し出あって参られもしたか」
孝江は宗盛の顔を見たが宗盛も小首を傾げると孝江は恐る恐る言った。
「誠に申し訳御座いませんが西郷様、何と申しましょうか、その、お国訛りが強く、私共、何と申し上げたらよいか…」
西郷は女子が語りかけてきたと驚くと共に豪快に笑って言った。
「すんもはん⋯おっ、重ね重ねかたじけない拙者は東征大総督府参謀、西郷吉之助で御座る、この様な場に如何様な申し出があって参られたか」
西郷の前に現れし孝江と宗盛、微かな月明かりであったが互いを心得た、西郷へ近付く二人に当然側近が立ち塞がる。
「構わん、どいちょれ」
西郷の声に側近がひくと西郷は立ち上がり二人を迎え入れた。
「この様な場でかたじけない、前もって聞いておればひと席を設けてはしたが」
「そうで御座いますね、願わくば戦の前にお会いできればこの様な⋯」
孝江は見えはしないが辺りを見回し西郷に告げた。
「さて、ひとつ問うておきたいがこれらは其方らが」
「左様で御座います」
孝江が答えるとその言葉に周りのものは殺気立つと宗盛は腰の刀に手を掛けた、しかし西郷は宗盛でなく孝江が何故返答するのか面妖に思われ仕方なかった、西郷は聞いた。
「失礼とは存ずるが何故宗盛殿でなく其方が答ゆるのだ」
改めて聞かれ答えに困る孝江は言葉が出ず、否、実際には明瞭な答えはあるが自分が語るは忍びないと敢えて口に出さないでいると代わりに宗盛が答えた。
「にわかには信じ難きことと存ずるが、この者こそ我らが将にござる」
これを聞いた者達がざわめき出すと次第に笑い声に変わり二人を蔑む声が上がった。
「戯言を申すな女子が将など聞いたこともない」
「其方は女子に遣われておるのか、儂なら恥ずかしゅうて腹を掻っ捌くわ」
「女子は引っ込んでおれ、戦場には無用じゃ」




